「物理情報工学科」とは何でしょう?

高校の「物理」「化学」「生物」といった理科の科目は、理工学の分野の基礎のほんの一部にすぎません。これらの科目はたがいに関連しあい、それらの上に幅広い応用分野が広がり、実社会においては、多くの人がそこに携わっているのです。たしかに重複をさけるため、教える側の都合でそれらを分けて教えていますが、高校では習いきれなかった様々な数理的な考え方や手法を利用すると、理科の扱う問題や現象を、共通の認識でより明確にとらえることができ、またそれらの応用を広げることができます。物理情報工学科は、化学や生物的な領域も含めた広い意味での物理の分野の応用を目指し、そこに種々の可能性や若い芽を見い出して育てて行こうとする学科です。物理情報工学科の英訳で Applied Physics の部分はこの事を示しています。また、ミクロからマクロな世界に至るまで、「自然科学現象」「生命生体現象」「物質現象」から種々の情報が様々な形態で発せられています。これらの情報を価値あるものにするためには、「物理」に基づいた発想でいかに捉えて認識し、応用していくかが重要になってきます。その過程において当然種々の「数理」的視点も求められてます。このような意味が Physico-Infomatics に表現されています。

 

もっと具体的にいうと…

たとえばコンピュータの中の集積回路(IC)では半導体の電子の振舞いという物理現象に「計算」という情報処理を託しているのです。またビデオテープでは磁気材料の中の磁性現象に「記録」を託しているのです。そしてもマルチメディア社会に欠かせない情報ネットワークも、ファイバ内の光の挙動に「通信」を託しているのです。こうして様々な物理情報媒体が創造され、私たちは朝起きてから夜寝るまでこれらのお世話になっているのです。さらに、私たち自身に目を向けてみると、生命体の遺伝子から細胞のレベルに至る化学反応も、さらには臓器や筋肉の動きまでも、その機構は「情報」の流れとして認識できるのです。脳の神経回路の働きもそうです。このような認識から、バイオ技術や医療技術が発展しています。人の“生”の状態を、健康診断でデータとして表現するのも「物理情報」です。

幅広い分野が対象?

このように物質現象や生命生体現象まども含めて、自然すべてを物理現象として扱おうとすると、とても対象範囲が広いように思うかもしれません。でも、それらを「情報」という視点で捉えると、数理的には全く同じように表現できることが多く、まったく異なった分野の現象でも共通 した認識ですみ、私たちが把握しようとしている真理は案外単純なのです。極端な例え話ですが、株価の変動のような社会経済現象にも物理現象と共通した表現法が使われます。このような見方をすれば、いろいろ異なった現象が生み出す情報も、それらを物理情報工学の観点から扱うことによって工学的創造へと結び付けられるのです。こうした新しい見方で皆さんに解明してもうらう未知の現象が「物理」「化学」「生物」そして「数理・情報」の境界領域に山ほどあるのです。

 

どのような人に向いているのでしょうか?

様々な現象が私たちに囁きかけている“声”に耳を傾け、語り掛けようとしている“表情”に目を向けられる人に向いています。つまり「実験」が好きな人程よいのですが、この実験は測定装置だけなくコンピュータも道具として大いに活用する“ハイテク実験”だと思って下さい。すでにコンピュータは私たちの社会生活の様々な面で沢山使用されていますが、このように現象の解明や実験に使うのは、まだまだこれからなのです。私たちの所では、このようなコンピュータの使い方も身につくでしょう。高校の科目でいうと、「物理」を基礎に「化学」や「生物」にも視野を広げられる人に向いているでしょう。 もちろん「数学」も基礎的なことはしっかりマスターしておきたいものです。また、2020年度からは「情報」に関する魅力的な授業を続々と開講しています。

物理情報工学科に進むためには

慶應義塾大学理工学部に入学した学生は、1年生の1月に進む学科を決めます。物理情報工学科に進むためには、理工学部に入学するときに、5つの学門の内、学門A、もしくは学門Bを選択してください。学門Aの学生の約40%、学門Bの学生の約20%が、物理情報工学科に進むことができます。
(※ 2019年以前の入学者は旧学門制である学門1と学門3からの進級です。)