ここでは、物理情報工学科の研究スタイルやビジョンを具体的に説明していきます。
各研究室のウェブサイトも併せてご覧下さい。

スピン流とスピントロニクス
物理世界と情報世界をつなぐ電磁波工学
物理現象に着想を得た情報処理技術を極める
スーパーコンピュータが拓く未来

スピン流とスピントロニクス

 今から200年以上前に世界で最初の電池が作られて以来、人類は電流という道具を手に入れました。時は流れ、1928年には量子力学と相対論に基づく相対論的量子力学が登場し、電子は、電気(電荷)と磁気(スピン)の2つの性質を併せ持つという現代的な理解が得られました。それでは、電流が電荷の流れであるように、スピンの流れとしての「スピン流」も存在するのでしょうか?長い間、スピン流の存在は明らかではありませんでした。しかし、近年のナノテクノロジーの発展によってスピン流を実験的に捉えることができるようになり、現在では、電子スピンとスピン流を中心とした新しい電子物理・技術である「スピントロニクス」が急速な発展を遂げています。スピン流の概念は、幾何学的位相をはじめとする発展著しい現代物理と密接な繋がりがあることが明らかになり、その一方では、スピン流により駆動される全く新しい原理のデバイス開発も急速に進展しています。理学と工学に跨るこのような研究は、まさに物理情報工学科の得意とするものであり、実は日本が世界をリードしてきた研究分野の一つでもあります。
 スピン流を中心とするスピントロニクスは完成された学問ではありません。今もスピン流によって現れる新しい物理現象の発見が世界中で相次いでいます。普遍的な物理法則を変えることはできませんが、人間の操作が及ぶ物質中では、物理現象を設計することさえ可能です。今まで誰も知らなかった現象を自分の手で初めて明らかにする興奮、予想もしなかったデータが得られ、その意味を理解した瞬間の爽快感、さらにこれらの結果が未来の電子技術の基盤になるかもしれないという期待。スピン流の研究は、数え切れない魅力に満ち溢れています。

物理世界と情報世界をつなぐ電磁波工学

 光は電磁波の一部である、という話を耳にされたことはないでしょうか。目に見える光と、目に見えない電気・磁気とが同じ法則に従うことが19世紀に発見されて以来、人々は電磁波を高度に理解し応用してきました。空中を伝わるというその性質を活かして、今日ではスマートフォンによって無線通信やGPS測位をしたり、レーダーやサーモグラフィによって対象を遠隔計測したりすることができます。
 そのような電磁波を周波数軸に沿って眺めると、高周波側(光)と低周波側(電波)とが個別に発展してきたことが分かります。例えば、光はレーザーやLEDで発生されレンズを通して伝送される一方、電波は発振回路で発生されアンテナを通して伝送されます。しかし近年、これまで困難だった両者の境界領域、すなわち光のような電波・電波のような光も開拓されつつあり、例えば高精細な映像を瞬時にダウンロードできる無線通信や、人のわずかな心拍動を衣服越しに検出できる非接触計測などが実現されてきています。物理世界の多彩なデータを情報世界に取り込むインターフェースとして、今後さらに自動運転やテレプレゼンスなどの次世代技術の基盤となることが期待されています。
 このような境界領域で新たなデバイスやシステムを実現するには、光と電波のように一見異なる現象が同じ方程式の異なる近似であることや、熱や音のように本来異なる現象であっても等価回路を介して類推的に解析できることなどの基本的理解が欠かせません。複合的な問いに対して、背後にある普遍的原理を意識しながら解を求めて実装することは、物理情報工学科が得意とするアプローチです。私たちとともに電磁波の新しい可能性を切り拓いてみませんか。

物理現象に着想を得た情報処理技術を極める

 私たちの身の回りには、組合せ最適化問題と呼ばれるタイプの問題が潜んでいることをご存知でしょうか?組合せ最適化問題とは「膨大な選択肢の中から、満たさなければならない条件を満たし、かつベストな選択肢を選び出す」ことを目的とした問題です。宅配便を例に取れば、指定された配送希望時間内に多くの場所に荷物を運ばなければならず、効率の良い配送ルートを見つけ出すことが必要です。これが組合せ最適化問題です。他にもアルバイトのシフト表作成や渋滞回避のための経路選択、材料設計など様々なところに組合せ最適化問題は潜んでいます。
 最近、物理現象に着想を得た新しい情報処理技術として、イジングマシンと呼ばれる、組合せ最適化処理に特化した計算技術が注目を集めています。これは、組合せ最適化問題の数学的表現をイジングモデルと呼ばれる熱・統計力学モデルを用いて表現して計算を行うというものです。イジングマシンの中には、量子力学の効果を用いた量子アニーリングマシンと呼ばれるものもあります。イジングマシンは日本の様々な企業や海外のベンチャー企業等で開発されています。また、イジングマシンを用いた広告配信最適化や交通最適化、さらには、イジングマシンとAI技術を組み合わせた新手法に基づく材料探索(マテリアルズ・インフォマティクス)についての研究が進められています。
 イジングマシンの分野はまだ新しく、研究すべき課題が山積しています。イジングマシンのハードウェア設計・ソフトウェア設計には物理学と情報工学両方の知識を総動員して取り組まなければなりませんし、イジングマシンの応用探索については未開拓です。イジングマシンの分野の研究は、学術と応用の両面から研究が行われており、民間企業と共同で取り組むことも多いです。みなさん、イジングマシンへの挑戦を共に行なっていきませんか?

スーパーコンピュータが拓く未来

 たまに映画やアニメでスーパーコンピュータ(スパコン)を目にします。例えば映画「シン・ゴジラ」では、世界中のスパコンで協力してゴジラの分子構造を解析するというシーンがありました。物語の中では「何かすごいもの」として描かれることが多いスパコンですが、実際はどうなのでしょうか?実は、日本はこれまでに何度も世界一の性能を持つスパコンを製造、運用しているスパコン大国です。スパコンの中に仮想的な世界を作り、実験を行うのが数値シミュレーションです。数値シミュレーションは、天気予報や製品開発、新しい薬の開発など、様々な分野で使われています。
 スパコンもコンピュータですから、プログラムがなければただの箱です。強力な計算能力を持つコンピュータをどのように使えばよいのか、そもそも大規模な計算能力があると何ができるのかは極めて非自明な問題です。世界一のスパコンは世界に一つしかありませんから、当然そこで動かすためのプログラムも自分で作らなければならず、とても大変です。しかし、苦労してプログラムを組み上げ、何万ノードもあるスパコンを独り占めして大きな計算を完遂した時には、まるで物語の主人公になったような気分です。私たちと一緒に、スパコンの新しい可能性を切り拓いてみませんか?