2002年度 大橋研究室

構成

教員:大橋良子
D2:久保俊晴
M2:宍倉次郎
M1:青山泰大、酒井俊之
B4:市村明、白石亮、渡邊尚希

研究成果

(1)黒鉛の物性

・ 黒鉛のShubnikov – de Haas 効果 : 温度依存性

一昨年度、黒鉛薄膜の低温(ヘリウム温度)におけるホール効果にShubnikov – de Haas 効果が観測され、フェルミ面の最大断面積が黒鉛の膜厚に依存し特に電子のそれは膜厚が数百Å以下の領域では、薄くなるにしたがってフェルミ面の最大断面積が増加する結果が得られた。その原因としてフェルミ面の変形が考えられるが、一方薄膜化の加工過程では、結晶の欠陥生成が完全には避けられないと考えられる。結晶格子の周期性の乱れはフェルミ面に影響を与え、それはShubnikov – de Haas 効果に反映する筈である。本研究ではバルク黒鉛結晶を用い、結晶格子の周期性の乱れを格子の熱振動によって与え、Shubnikov – de Haas 効果への影響を調べた。すなわちホール効果の磁場依存性を5.5 テスラまでの範囲で、温度をパラメータとして1.8K 、4.2K、 10K、 30Kの各温度で測定した。その結果、Shubnikov – de Haas 効果は10K においても観測された。振動の周期から見積もったフェルミ面の断面積は、温度上昇に伴って若干増加したが、その変化は黒鉛薄膜の膜厚が数百Å以上の場合と同程度で、数百Å以下における程の顕著な増加ではなかった。したがって数百Å以下の黒鉛薄膜のフェルミ面の変形は薄膜特有の効果であると考えられる。

・黒鉛薄膜のShubnikov – de Haas 効果 : 角度依存性

昨年度、フェルミ面の最大断面積が黒鉛の膜厚に依存し特に電子のそれは膜厚が数百Å以下の領域では、薄くなるにしたがってフェルミ面の最大断面積が増加する結果が得られ、その原因として、フェルミ面の変形が考えられた。そこで、フェルミ面全体の形状を調べるために、試料に対する印加磁場の方向を変えて測定を行うことにした。測定系の制約により、磁場中で試料を回転することが不可能なので、磁場と試料面が45度になるように傾斜をもたせた試料ホルダーを製作し、ホール効果の磁場依存性を測定した結果、従来の測定結果と矛盾しない角度依存性が得られた。しかし、この方法でフェルミ面全体の形状を調べることは、膨大な時間を要し不適当である。今年度は磁場中で試料を回転する装置を準備することができた。ただし、この装置は完全ではないので、現在、不足している部品の調達、改造など立ち上げの準備中である。

・ 黒鉛の音響磁気電気効果

半金属結晶に超音波を導入し、超音波方向に垂直に磁場を印加すると、超音波と磁場の両方に垂直な方向に起電力が生じる。この現象を音響磁気電気効果(AME効果)という。黒鉛について以前行った予備的実験ではAME起電力の磁場依存性が飽和の傾向を示した。本年度は印加磁場の範囲を予備的実験の5倍程度まで広げ、黒鉛のAME効果の磁場依存性を調べて、キャリアの性質を明らかにすることを目的とした。また、AME効果に加えて、より詳細に黒鉛のキャリアの情報を得るために、ホール効果、磁気抵抗を測定した。本研究では、これらを測定するために測定システムの設計、各部の製作、組み立てを行った。この測定システムによってAME効果を液体ヘリウム温度で5テスラの磁場まで測定することができた。超音波の発生には固有振動数15.65MHzの水晶振動子を用いた。AME効果はこの水晶振動子を用いて測定した。ホール効果の測定からShubnikov – de Haas振動が観測され、実験に使用した黒鉛試料の結晶性が良いことが実証された。Shubnikov – de Haas振動の周期から算出されたフェルミ面の面積は、単結晶のそれより多少小さいことが判った。AME効果の磁場依存性は全般的に雑音レベルが高く、得られた結果は定性的であるが、AME起電力は弱磁場領域では単調増加、強磁場では磁場の増加とともにゆるやかに減少する結果が得られた。強磁場領域の結果はキャリアのサイクロトロン運動の影響と考えられるが、定量的議論をするために、今後はノイズ問題の解決が課題である。

・黒鉛薄膜構造のシミュレーション

黒鉛薄膜を極限まで薄くすると二次元黒鉛になるが、実験的に実現することがむずかしい。実験では現時点ではようやく数十層までが実現されているが、それでもバルク黒鉛とは異なる物性が観測されている。数層の場合の構造をシミュレーションで求め、実験結果との接点を見つけようというのが、本研究の目的である。市販のプログラムパッケージ(分子軌道計算“MOPAC”)で微小なグラファイトシートを設定、その積層方法、積層数、層間距離などをパラメータとして、安定構造を求めた。プログラムの性能により扱える炭素原子の数が限られており、巨視的面積のグラファイトシートを扱うことは出来ないが、微小なグラファイトの安定構造は、必ずしも層状にはならないという結果が得られた。

(2) 黒鉛―超伝導体複合系の物性

・ニオブ/黒鉛複合系の超伝導近接効果に関する研究

昨年度、黒鉛薄膜の厚さをパラメータとして超伝導転移温度を測定したが、ニオブの膜厚によっても超伝導転移温度が変化することがわかった。また、黒鉛の膜厚範囲は異なるが、ニオブ/黒鉛複合系の超伝導転移温度は、ニオブ単独膜の転移温度より高い値を示し、定性的には従来の超伝導近接効果の理論では説明付けられない現象であることは確認できた。本年度はこの現象を定量的に把握するためにデータの蓄積を続けている。

研究発表

  • Y. F. Ohashi & T. Kubo: Influence of Temperature on Shubnikov – de Haas Effect of Graphite Films. Carbon’02-an International Conference on Carbon, P2-100. PDF (15-19 September 2002 Beijing, China) (on CD-ROM)
  • T. Kubo, T. Kinoshita & Y. F. Ohashi: Superconducting Proximity Effect In Nb/Graphite Films. . Carbon’02-an International Conference on Carbon, 36.2. PDF (15-19 September 2002 Beijing, China) (on CD-ROM)

学士論文題目

  • 市村 明:中性子照射黒鉛の電流磁気効果
  • 白石 亮:有限層グラファイトの安定構造に関するシミュレーション
  • 渡邊尚希:微小グラファイトの電界電子放出

修士論文題目

  • 宍倉次郎:黒鉛の音響磁気電気効果

進路

日本ラッド(株)、 全日空(株)、 慶大大学院基礎理工学研究科


Dept. Applied Physics and Physico-Informatics