2007年度 松本研究室

■構成

准教授

松本佳宣

博士2年

アスルルニザム・ビン・アブドル・マナフ

修士2年

青野聖、磯貝直樹、大西淳平、鈴木慎也、中村和正、原貴東

修士1年

井口雄介、木村遙介、真壁啓司、森永秀樹

学部4年

伊藤信一郎、河野秀美、近内聡史、砂田康隆

■研究成果

液体式傾斜センサと低電圧CMOS集積回路の開発

本研究では、液体式傾斜計の製作を目指して、MEMS技術と東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC)の試作サービスを利用して設計・試作・評価を行った。始めに、センサとして電解液の電気2重層の原理を応用した容量型液式傾斜センサを試作してその容量値の変化を測定した。具体的には、プリント基板上に半円形の二つの検出電極とその周りのリング型共通電極を形成した。また、キャップとして3次元加工技術を用いて大きさ数mm、高さ1mm程度のキャップをシリコンゴムで試作した。このキャップとプリント基板を接合して、容器内に炭酸プロピレンを注入して傾斜センサを試作した。大きさの異なるセンサ電極とキャップを複数試作して、容量変化を確認しながらサイズの最適化を行った。また、周波数を変えながら、容量値と抵抗値を測定してセンサのモデル化を行い等価回路として表した。その結果、傾斜の変化に対してセンサの容量値が最大500%を超える事を確認した。回路部分に関しては、0.35umCMOSプロセスを用いて静電容量を電圧に変換する容量検出回路、さらにクロック発生回路、増幅・オフセット調整回路を.4mm角のシリコンチップに集積化した。今年度の試みとして、近年の最先端デジタル回路と一体化可能なセンサの実現を目指して、従来のアナログ回路に不可欠な演算増幅器をインバータアンプに置き換える事で1.5V以下の低電圧で動作する新回路方式を考案した。さらに、表側にセンサ用電極パターン、裏側に集積回路のボンディングパターンを形成したセラミック基板を製作して集積化傾斜センサを試作した。この傾斜センサは電源電圧1.3Vでの動作可能であり、±60°の範囲で12%/F.S以下の線形アナログ出力が得られ、センサの分解能、応答速度はそれぞれ0.4deg、0.7秒であった。これらの結果をまとめ、1件の特許出願ならびに4件の論文・学会発表を行った。

微細三次元構造形成用リソグラフィ技術の研究

三次元マイクロナイフの製作に向けて新規リソグラフィ技術の発明と最適化を行った。化学増感型ネガ型レジストSU8-10をガラス基盤上に滴下してベーキングを行い、マスクを用いてガラス基盤を透過して紫外線を照射させる手法(基盤透過露光法)で試作を行った。現像後に形成される構造体の高さがマスクの開口の大きさに応じて変化する事を用いて、3角形のマスク開口に対して露光を行うと3角形の先端部から底辺部にかけてなめらかに高さが変化する事を見出した。これにより、歯厚50ミクロン、長さ200ミクロン、高さ100ミクロン程度の微小ナイフ原型を製作した。その後、形成した原型に対してPDMSを流し込み重合を起こす事で反転母型を製作した。さらに、この母型にメッキを施して、金属製のマイクロナイフを試作した。
また、微細三次元曲面構造を形成するために、紫外線発光ダイオードアレイを用いた露光系に回転動作を与えることで露光強度が均一化される露光方法を用いると、マイクロレンズ形状などが均一性良く試作できることがわかり、国際学会での発表と論文発表を行った。

可視光通信用回路

近年、可視LEDを用いて光通信を行う可視光通信が注目されている。赤外線リモコン、赤外線LANに代表される従来の空間光通信では、光源として赤外線LED・LDを用い、受光素子として赤外線フィルターとシリコンフォトダイオードを用いている。しかしながら、可視光通信は可視光を用いるため、特定波長のフィルターの使用が難しく、太陽光や照明光が受光素子であるフォトダイオードに混入するという問題をもつ。また、照明の光量は、距離により大幅に減少するため、最小検出感度が良好でかつ大きな光量でも出力が飽和しないすなわち大きなダイナミックレンジが求められる。また、照明光通信特有の問題として、送信源が複数ある状況が考えられる。この場合、単一のフォトダイオードで検出した場合には混信を引き起こしてしまう。これらの問題を解決するため、フォトダイオードアレイを用いた受光素子とその信号処理回路を試作した。この受光素子では、フォトダイオードをアレイ状に集積化して、その上にレンズ光学系をおき、対象物の状況をフォトダイオードアレイ上に結像して、任意の場所のフォトダイオードを選択することで、送信源や照明が複数ある状況においても、任意の送信源のみから効率よく信号を受信できる。このシステムを実際に試作して、制御ソフトウェアを用いて動作検証を行った。

3次元マイクロマシニングによる微小細管の製作と医療応用

南谷研究室、三木研究室と共同で3次元マイクロマシニングによるマイクロ流体デバイスの試作と解析をおこなった。前年度の研究では、交流電極を備えたμ流路内の比較的導電率の高い流体(生理食塩水など)に浮力流れが発生する機構を明らかにした。今年度は更に、この原理を利用したμ流体デバイスの試作実験を進めた。μ流体内の浮力は弱く、高々数十μm/秒ほどの流れしか発生しない。そこで我々は、通常、水平方向に設置して使われるデバイスを木口が床に接するように立て、電極間ギャップ内の液体の上下間距離を大きくする工夫を試みたところ、誘起される浮力流れの速度は数十~百倍に増加することを見出した。垂直に立てた電極間ギャップと接するように流路を形成したμポンプでは、最大速度は7mm/秒(20V印加時)に達し、ピエゾ材料を用いるダイヤフラム型μポンプに匹敵する流量が得られた。また、電極を横切る水平方向に流路を形成したμミキサーでは、流量2μL/分の2層の流れが電極間ギャップ(約100μm)を通過するだけで完全に混合された(14V印加時)。これ等の実験結果により、当デバイスが実用的な性能を持つことを示したと考える。
また、タンパク質のフィルタリングが可能であるマイクロフィルタ内蔵マイクロリアクタの開発と、マイクロ流体デバイスの新材料としてPDMS中にコラーゲンを分散したコラーゲン/PDMSポリマーの開発をおこなった。マイクロフィルタは、PES(polyethersulfone)ポリマーを用い、PESが有するナノサイズの孔により、イオンなどの低分子物質と、タンパク質などの高分子物質の分離が可能である。さらに、3次元マイクロキャピラリに搭載するための、低分子用マイクロフィルターの開発、およびそのマルチレイヤー化に関する研究を行った。開発したマイクロフィルターは、およそ1nmのナノポアを有し、タンパク質と、アンモニアなどの低分子イオンを分離することができる。またマルチレイヤー化することで、分離物質の拡散距離を半分にしつつ、フィルターの有効面積を増大することができ各段の性能向上を確認することができた。

■発表論文

発表論文

  • Asrulnizam Bin Abd Manaf, Kazumasa Nakamura, Yoshinori Matsumoto, “ One-Side-Electrode-Type Fluid-Based Inclinometer Combined with CMOS Circuitry”, Sensors and Materials,Vol. 19,No.7(2007),pp.417-434
  • Asrulnizam Bin Abd Manaf, Kazumasa Nakamura, Yoshinori Matsumoto, “Characterization of Miniaturized One-Side-Electrode-Type Fluid-Based Inclinometer”, Sensors and Actuators A.(article in press).
  •  Shinya Suzuki, Yoshinori Matsumoto, “Lithography with UV-LED array for curved surface structure”, Microsystem Technologies, (article in press).
  •  J. Onishi, K. Makabe, Y. Matsumoto, “Fabrication of micro sloping structures of SU-8 by substrate penetration lithography”, Microsystem Technologies, (article in press).

国際学会発表

  • S. Suzuki, Y. Matsumoto, “Lithography with UV-LED array for curved surface structure”, Proceedings of the 7th International Workshop on High-Aspect-Ratio Micro-Structure Technology, pp.33-34,June7-9 (2007).
  • J. Onishi, K. Makabe, A.M. Asrulnizam, Y. Matsumoto, “Fabrication of micro sloping structures of SU-8 by substrate penetration lithography”, Proceedings of the 7th International Workshop on High-Aspect-Ratio Micro-Structure Technology, pp.277-278,June7-9 (2007).
  • Asrulnizam Abd Manaf, Kazumasa Nakamura and Yoshinori Matsumoto, “One-Side-Electrode-Type Fluid-Based Inclinometer Combined with CMOS Circuitry”, IEEE Sensors 2007, pp. 433-434, 28th ?31st October 2007.
  • Asrulnizam Bin Abd Manaf and Yoshinori Matsumoto, “Low voltage charge-balanced capacitance-voltage conversion circuit for one-side-electrode-type fluid-based inclination sensor”, Proc. of International Semiconductor Device Research Symposium 2007, WP9-04-04, December 12, 2007.
  • Yoshinori Matsumoto, Takaharu Hara and Yohsuke Kimura,” Integrated CMOS photo-transistor array for visual light identification (ID)”, Proc. of International Semiconductor Device Research Symposium 2007, WP9-18-16, December 12, 2007.

国内学会発表

  • Asrulnizam Bin Abd Manaf,中村 和正,松本 佳宣,“CMOS集積回路を用いた片面電極液体封入式傾斜センサに関する研究” ,センサ.マイクロマシン部門総合研究会資料,つくば大学,pp. 5-10, 7月2日-3日(2007)
  • 中村 和正,Asrulnizam Bin Abd Manaf,松本 佳宣,“電解液を用いた容量型傾斜スイッチに関する研究” ,センサ.マイクロマシン部門総合研究会資料,つくば大学, pp. 11-16, 7月2日-3日(2007)
  • 松本 佳宣,原 貴東,木村 遙介,”可視光ID用集積化受光素子の試作“,電気学会フィジカルセンサ研究会, PHS-07-33, pp.25-29, (2007.9).
  • 鈴木慎也,松本佳宣,”UV-LEDアレイによる曲面形成リソグラフィ“,第24回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム, Po-3, pp.156-160 (2007).

 

■研究助成

  • 日本学術振興会科学研究費補助金 萌芽研究 ( H19~H21)「紫外線発光ダイオード露光源と回転機構による微小3次元曲面形成法」
  • 科学技術振興機構産学共同シーズイノベーション化事業顕在化ステージ(H18~H19)「バイオ・医療用3次元マイクロナイフの開発」
  • 慶應義塾大学福澤基金研究補助(H18~H20)「三次元マイクロマシニングによる微小細管の製作と医療応用」
  • 日本学術振興会 基盤研究(A)(分担)(H17~H20)「可視光通信における通信方式の研究」 (代表:中川正雄)
  • 情報通信研究機構委託研究(分担)(H19~H21) 「可視光通信による統合型通信ネットワーク技術の研究開発」 (代表:中川正雄)

■進路

慶應義塾大学大学院進学
キヤノン株式会社
トッパン・フォームズ株式会社
ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン株式会社
特許庁
株式会社東陽テクニカ
日本アイ・ビー・エム株式会社


Dept. Applied Physics and Physico-Informatics