構成

助教授

松本佳宣

博士2年

花井計、森涼太郎

修士2年

田村喜朗、井上哲

修士1年

赤松大生、轡田晃一、高橋敦士、中原崇、宮原晋平

学部4年

荒木祐介、熊谷博子、清水さやか

研究成果

全シリコン量子コンピュータ用微小磁性体に関する研究

本研究では、全シリコン量子コンピュータで必要となる量子ビットアクセスに不可欠な微小磁性体の構造設計と微細加工を行った。磁性体材料としてパーマロイとディスプロジウムに注目して東北大学・スタンフォード大学・外注企業と協力して磁性体の加工と評価を行った。加工にはアライナ、多目的半導体露光装置(PG & Stepper)、電子ビーム描画装置、対向ターゲットスパッタ、リアクティブイオンエッチング等の装置を用いて行った。
東北大学と共同試作した微小磁性体は、パーマロイを厚さ1ミクロン、幅2ミクロンに加工したものでありこの微小磁性体を核磁気共鳴装置(NMR)に入れた場合に生成される磁束密度勾配は、0.5T/μmであることが磁気シミュレーションから計算された。この磁束密度勾配を検証するために、微小磁性体の上側に核スピンを持つアルミニウムとスピンを持たないチタンの多層膜を形成して、その試料を新潟大学のNMR中で測定してアルミニウムに対する核磁気共鳴周波数の測定を試みた。その結果、微小磁性体の影響によるアルミニウムの核磁気共鳴周波数のシフトが確認された。
また、スタンフォード大学と共同でMBE法によって形成されたInAs量子ドットの近傍にディスプロジウム微小磁性体を製作した試料を試作して、そのエキシトン発光のゼーマン分裂を用いて磁性体の影響による磁束勾配の検証実験を行った。その結果、ディスプロジウムの微小磁性体内に形成された280nmの微小メサ構造に、外部磁界よりも1T 低い磁束密度が形成されている事を確認した。この結果とメサの寸法からメサ周辺に2T/μmの磁束密度勾配が形成されている事が計算された。この数値はシミュレーションから予測される値の半分ほどであるが、全シリコン量子コンピュータにおいてシリコン層からの信号を分離するのには十分な値である。その後、エキシトン発光のゼーマン分裂を用いて磁束勾配を直接測定できる試料の製作を行いその評価を試みたが、ゼーマン分裂を用いて測定できる磁束密度の分解能が測定装置上の制約より0.1Tであったため、磁束勾配の詳細な検証には至らなかった。これらの成果は全シリコン量子コンピュータで必要となる量子ビットアクセスに向けて大きな一歩となった。

バースト伝送ATC回路に関する研究

多重方式光通信網で用いられるバースト伝送対応用のATC(Auto Threshold Control)集積回路の設計と試作評価を行った。バースト伝送ATC回路は、信号波形の中間値を即時に検出するためにピーク検出回路とボトム検出回路から構成される。まずピーク検出回路の検討を行ない、従来のピーク検出回路の問題点であるオーバーシュートを軽減するため充電用トランジスタ部にカレントミラー構造を用いることを提案した。また、ピーク検出回路に必須となるリセット機構は、入出力オフセットが存在するときに限りリセット動作が行なわれるような回路構成とし、入出力オフセットの高精度な除去を可能とした。さらに、ピーク検出回路の構成を反転させることでボトム検出回路を設計し、二つの回路を組み合わせてATC回路を設計した。基準電圧1.65V、振幅 30mVのパルス信号を入力として行なったシミュレーションでは、ATC回路の応答速度は約7nsec、誤差は1?2mVという高精度な結果が得られた。その後、ATC回路のレイアウトを行ない、ROHM 0.35mm標準CMOSプロセスによりVDECを介してチップの試作を行なった。試作チップを評価用ボードに実装し、ATC回路の動作を測定した結果、入出力オフセットと応答速度の面ではシミュレーションより劣っていたが、振幅検出の面ではシミュレーション通りの結果が得られた。本研究で設計したATC回路は、入出力オフセットという問題点はあるものの検出動作そのものには問題はなく、バースト伝送対応の光受信器で用いるのに有用である。

樹脂材料の微細3次元加工の研究

ポリマーの微細加工技術はバイオ・光学分野において多くの需要がある。本研究では、汎用のプリンタを用いて透明フィルムに印刷したパターンをエマルジョンガラスマスクに転写することでグレイスケールマスクを安価に製作して、これを用いて透明基板に塗布したSU?8レジストを基板側から露光することでSU?8の3次元加工を試みた。形状制御性を評価した結果、グレイスケール値40%?80%でレジスト高さを0?400μmの範囲で連続的に変化できることを確かめた。この手法で形成されたSU?8構造体の表面にはしわ状の模様が確認された。これはマスク上に転写されたドットの粗密によって紫外線が回折し、干渉によって生じた紫外線強度の不均一によって生じたものである.さらに、この手法でSU?8上に形成された構造体をPDMS樹脂に転写することで、透明なPDMS製3次元マイクロキャピラリを試作した.これに加え、SU?8からPDMSに転写した構造体を鋳型と紫外線硬化樹脂に形状を転写することで、小型フレネルレンズ形状の試作を試みた。

バイナリオプティクスの研究

微細三次元加工技術として、バイナリオプティクスを用いた微細加工に取り組んだ。バイナリオプティクスはマルチバイナリマスクという複数枚で1セットとなっているマスクを用いて、マスクごとにエッチング量の相対を1、2、4・・・と変化させ、n枚のマスクで2n 通りの高さの選択性を得る手法である。構造物の表面が平滑に仕上がり、高さの制御性・再現性も高いが、従来のバイナリオプティクスではマスクを取り換えるごとにレジスト塗布、露光、エッチングの工程を繰り返す必要があり、スループット低下の要因となっていた。本研究ではSU8というネガ型レジストを用いることで、エッチング工程を経ることなく三次元構造の作成に取り組んだ。またネガ型レジストを用いるにあたり、レジストの固化が基板に達していないと現像時(未露光部を溶かす)に剥がれて形状が崩れるという問題があったが、基板透過露光法を用いて、基板に構造物を定着させた。さらに、数回マスクを重ねなおすにあたり精度を高めるため、基板とマスクにアライメントマーク(位置合わせ用のマーク)を蒸着した。これらの方法を組み合わせ、高さ数100μmのピラミッド構造物(16段階)や50円玉レリーフ構造に成功した。

3次元構造体に対するリソグラフィに関する研究

水晶振動子等の圧電素子においては、電荷検出のため素子の上面と両側面に配線を施す必要がある。本研究では、スプレー法を用いて上面・両側面および角部に対してフォトレジストを塗布し、斜め露光法により上面と両側面に対し同時に配線パターンを形成する手法を提案した。サンプルとしては、水晶振動子を模した短冊状のガラス基盤(1.0mm×2.0mm×25.0mm)を用いた。本研究で使用したスプレー装置3DC(ナノテック製)は、ビーム成形型ノズルにより扇状に広がったレジスト液の霧中を試料が直進して塗布される方式である。レジスト液滴の多くは垂直に降下するため、通常は上面のみが塗布されるが、本研究においては両側面および90°の角部も被覆する必要があるため、試料を45°傾けて計4方向に対して塗布した。そしてレジストの希釈液を高沸点のPGMEA (Propylene Glycol Methyl Ether Acetate)と低沸点のMEK (Methyl Ethyl Ketone)の混合液とし、その混合比によって乾燥速度を最適に調整した。各方向2回ずつ塗布したところ、各面上の膜厚は2?4μm、角部は1μm以上が確保され、被膜の表面状態も凹凸が少なく良好であった。
その後、上面および両側面に一括で配線パターンを形成するために斜め露光法を用いた。フォトマスク上に22.5°斜面のミラーを置くことでUV光を45°で入射させ、試料の上面(マスクとの接触面)と両側面の計3面に対し同時に露光を行なった。側面に転写するパターンも1枚のフォトマスクに収めることが可能である。側面の露光においては、マスクから離れるほどデフォーカス(ぼけ)が多くなるうえ、面積あたりの露光強度も低下する。これらが複合的に影響し、側面における解像度は深さによって急激に低下する。ラインアンドスペースを用い、線幅と解像限界となる深さの関係を調べた結果、20μmの線幅は深さ150μm、50μmの線幅は深さ300μm、200μmの線幅は500μmでそれぞれ解像限界となった。以上よりスプレーコーティングと斜め露光法により、水晶振動子のような直角部分を有する高アスペクト比立体形状に対してレジストパターンを形成した。本手法はMEMS構造体用の新しい露光技術として期待される。

発表論文

  • 桑原 啓, 松本 佳宣, ” 短距離通信用CMOS集積化光受信器の開発”,電子情報通信学会論文誌C, Vol. J87-C, No.4, pp.396-403, (2004年4月).
  • 森 涼太郎, 花井 計, 松本 佳宣,” グレイスケールリソグラフィと構造体転写を用いた感光材料と樹脂材料の微細3次元加工”, 電気学会論文誌 E, 124巻10号, pp.359-363, (2004).

国際学会発表

  • K. Hanai, T. Nakahara, Y. Matsumoto, “Optical Elements of SU-8 by using Grayscale Lithography and Substrate Penetration Method”, Proceeding of OpticalMEMS 2004, pp.148-149,(2004).
  • R. Mori, K. Hanai and Y. Matsumoto, “Three Dimensional Micro Machining of SU-8 and Application for PDMS Micro Capillaries”, proceedings of micro-TAS 2004 8th International Conference on Miniaturized Systems in Cnemistry and Life Sciences, Vol.2, pp.333-335, (2004).
  • Dong F. Wang, T. Ono, A. Takahashi, Y. Matsumoto, K.M. Itoh, Y. Yamamoto and M. Esashi,”Micromachining of a permalloy mesa structure for all-silicon quantum computer”,Proc. the 18th Euro. Conf. on Solid-State Transducers (Eurosensors XVIII), pp.586-589 (2004).
  • A.Takahashi, Dong F.Wang, Y.Matsumoto, K.M.Itoh, “Development of NiFe micro magnet stripes for solid-state NMR quantum computing”, Proceedings of SPIE International symposium, Micro-and Nanotechnology: Materials, Processes, Packaging, and Systems II, pp.81-88,December13-14 (2004).

国内学会発表

  • 森涼太郎,井上哲,花井計,松本佳宣”グレイスケールマスクによるSU-8への3次元構造体形成と転写”,電気学会センサ・マイクロマシン準部門総合研究会,マイクロマシン・センサシステム研究会,MSS-04-25,(2004.5),pp.51-55.
  • 中原崇,花井計,松本佳宣”基板透過露光を用いたSU-8の三次元形状作成法”,電気学会センサ・マイクロマシン準部門総合研究会,マイクロマシン・センサシステム研究会, MSS-04-26,(2004.5),pp.57-61.
  • Ryotaro Mori, Kei Hanai and Yoshinori Matsumoto,”A Study for Surface Roughness Modification of Three Dimensional Structures Fabricated by Emulsion Gray-scale Mask”, Proceedings of the 21st Sensor Symposium on Sensors, Micromachining, and Applied Systems, pp.203-206, 2004
  • 花井 計,田村喜朗,松本佳宣,”スプレー法および斜め露光法による水晶振動子へのパタニング”,第24回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム講演概要集, pp.76 (2004.10).

著書

  • 最新「回折光学素子」技術全集 第4章第3節 グレイスケールリソグラフィを用いた回折光学素子の作製 (株)技術情報協会
  • 詳しく学ぶ 電気回路?基礎と演習? 南谷晴之・松本佳宣共著 コロナ社

進路

富士通株式会社
株式会社メイテック
NECエレクトロニクス(株)
三井住友銀行