中村祐貴君(M1)の研究論文 “Optimization of optical spin readout of the nitrogen-vacancy center in diamond based on spin relaxation model” が AIP Advances に掲載されました。

Yuki NakamuraHideyuki Watanabe Hitoshi SumiyaKohei M. ItohKento Sasaki Junko Ishi-Hayase, and Kensuke Kobayashi,
“Optimization of optical spin readout of the nitrogen-vacancy center in diamond based on spin relaxation model”,
AIP Advances 12, 055215 (2022); https://doi.org/10.1063/5.0090450

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 ダイヤモンドNV中心スピンの読み出しを最適化する手法についての成果が、AIP Advances誌に出版されました。

 我々のグループは、ダイヤモンド結晶中のNV中心の持つ電子スピンを方位磁針として使うことで、微弱な磁場を計測する量子センシングの研究をしています。本研究において、センサーの目盛りに相当するスピンの量子状態を効率的に読み取る技術は、より高感度な計測の実現につながるため非常に重要です。

 一般的に、NV中心の電子スピンの量子状態は、発光を取得することで読み出されます。電子スピンが上向き(磁気量子数ms=0)のときには発光が強く、電子スピンが下向き(磁気量子数ms=±1)のときには発光が弱くなる特性を利用して、スピンの量子状態が判別されます。

 今回の研究では、NV中心の光学遷移モデルに基づいた発光データの解析を行うことで、発光から電子スピンの情報の最大限に抽出する方法を提案しました。具体的には、光学遷移の過程で、時間の経過とともに発光強度の持つスピンの情報が失われていくことに注目し、発光強度の時系列データに対して適切な重み付けを行いました。実際にこの手法を利用して、スピン状態の読み出しに関わる信号雑音比を5.4%向上させることに成功しました。

 また、NV中心の電子スピンの情報を窒素の核スピンに保存させる量子操作を行うことで、スピン情報の保持時間を延伸する技術が知られています。この方法は核スピンメモリと呼ばれています。本研究では、この核スピンメモリの読み出しに対しても同様の手法を適用し、読み出しに関わる信号雑音比を19.8%向上させることに成功しました。

 5%程度の効率化はそれほど大きくないように見えるかもしれません。しかし、本手法は数分から数日までかかるような様々な測定に利用することができるため、トータルで見ると測定時間の大きな削減につながり、効率の良いセンシングが可能になります。

 本研究は東京大学 小林研介先生、佐々木健人先生、慶應義塾大学 伊藤公平先生、産業技術総合研究所 渡邊幸志先生、住友電工 角谷均先生との共同研究です。