構成

専任講師 伊藤公平

訪問研究員(ポスドク) Hyunjung Kim (日本学術振興会海外研究者招聘)

大学院

森田 健(D3)、加藤治郎(D2)、石川朋実(M2)、深津茂人(M2) 、阿部英介(M1)、小島威裕(M1)、高橋智紀(M1)、山田利通(M1)

学部

大屋 武(B4)、清水智子(B4)、須藤千絵(B4)、根橋竜介(B4)、松木雄介(B4)、八杉大輔(B4)

研究成果

シリコン量子コンピュータの提案と実現

シリコンのみから構成される,革新的かつ現実的な量子コンピューティング素子の形態・動作原理を考案した(Phys. Rev. Lett.印刷中).核スピンを持たない28Si同位体ウエハー中に,29Si核スピンを周期的に配置する発明は,電極の作製や無理な不純物添加を全く必要とせず,ナノテクノロジー技術の発展で対応できる.29Si核スピンに基づく量子ビットは,量子計算の大規模化に向けて重要となるスピン位相緩和時間が極めて長く,我々の現案では300量子ビットまでの拡張性を定量的に確認した.量子ビットの初期化は,「光のみ」を用いたNMRと外部からの偏極電子スピン注入を通して実行する.量子演算には,すでに7量子ビットまでの成功をおさめたRFパルス照射に基づくNMR量子コンピューティングのアルゴリズムをフルに活用する.スピン情報の読み出しにはシリコン超微細カンチレバーを利用した磁気共鳴プローブ法を用いる.個別には確立されつつある要素技術をいかに融合できるかが成功の鍵をにぎる.シリコン量子コンピュータの実現にむけたナノテクノロジー技術の開発を進める.本研究はスタンフォード大学・山本喜久教授のグループと共同で進めている.

超伝導Ba8Si46クラスレートの同位体効果

Ba8Si46クラスレートにおける超伝導を研究している.クラストレートの超伝導がBCS的であるかは,構成する原子の質量(同位体)を変化させて臨界温度や比熱を測定すればわかる.そこで質量数28と30のSiから成る2種類のクラスレートを作製して評価したところ,臨界温度と比熱に見事な同位体効果が観測され,BCS的であることが判明した.さらに,このクラスレートのラマン分光測定を行い,格子振動にもSi同位体効果を確認し,各振動モードに関わる原子の同定に成功した.今後のさらなる実験と解析から,電子-格子相互作用に関する知見が得られるものと考えている.本研究は大阪市立大学・谷垣勝己教授のグループと共同で進めている.

LabVIEWを用いた半導体の電気的な評価装置の構築

本課題では半導体の電気伝導率、キャリア数密度及び移動度の温度依存性を評価する四探針法ホール効果測定装置と、半導体の欠陥準位、濃度及び捕獲断面積を評価するDLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)装置を構築し、シリコンやゲルマニウムの同位体の電気的な評価を可能にした。本課題の特徴はLabVIEWと汎用計測器により計測システムの操作性や信頼性の向上、開発期間の短縮、コストの低減を実現したことである。これが評価され、四探針法ホール効果測定装置は2001年11月に日本ナショナルインスツルメンツ社主催のNIDAYS2001LabVIEWコンテストにおいて準優秀賞を受賞した。

3C-SiCの評価

SiCはその優れた物理的性質ゆえに非常に注目されている次世代半導体材料である.絶縁破壊抵抗がSiの7倍以上も有りSiCデバイスの開発に成功すれば従来では考えられない超高効率な電力輸送が可能となる.また,バンドギャップがSiの約3倍と非常に広いことから高温でも動作する電子デバイスを製作することができる.つまり,人工衛星や自動車などのエンジン近傍に搭載される電子素子として利用できるわけで,このことからアメリカをはじめ世界の産業が大変な注目を集めている.  本研究では、HOYA株式会社が作製した3C-SiCに対してホール効果及びフォトルミネッセンスによる評価をおこなうことで,さらなる品質の向上を目指している.

シリコン酸化膜中のシリコンの自己拡散

シリコン酸化膜は、シリコンMOSFET (Metal-Oxide- Semiconductor Field Effect Transistor) デバイスのゲート酸化膜として使用 されている。このゲート酸化膜はシリコン表面の熱酸化によって作製され、Deal-Grove理論により説明されている。しかし、 Deal-Grove理論では酸化膜厚300Å以下の領域で実験値と一致しないことが当初から指摘されていた。このようなDeal-Grove理論の欠点を補うため、熱酸化過程においてシリコンがシリコン酸化膜中に放出されるモデルが数名により提案されている。しかしながら、これを実験的に確認した例が過去にない。そこで、本研究では同位体を目印としこれを確認する実験に着手した。 それと同時に、安定な同位体を目印としシリコン酸化膜中のシリコンの自己拡散の研究を開始した。我々の知っている限り熱酸化シリコン酸化膜中での自己拡散係数の正確なデータは存在しない。このデータが得られれば貴重なデータとなり、またシリコン酸化膜におけるシリコンの拡散過程の解明に繋がるであろう。

ゲルマニウム融液の自己拡散係数の決定

本研究の目的は、Ge融液の自己拡散係数の決定である.GeはHEMT等高速電子デバイスに使用されているIV族半導体材料であり,その固体,液体における物性値はさまざまな側面から調べられてきた.その中にあって,Geの融液における自己拡散係数は,結晶成長や融解・凝固現象など多くの物質輸送過程の素過程として非常に重要なパラメータであるにもかかわらず,今日まで正確な値はわかっていない.その原因は,温度勾配や気液界面における張力の差,重力などが原因となって融液に対流が生じてしまうため,精度の高い自己拡散係数測定が困難だからである.こうした背景から,測定誤差要因の一つである重力による対流の影響を抑えるために,宇宙空間においてGe融液の拡散実験を行った例が報告されているが,実験条件等からその信頼性には疑問が残る.近年,金属や半導体の融液に磁場を印加して対流を制御する研究が報告されているので,本研究ではGe融液に磁場を印加しながら地上にて拡散実験を行った.結果として,宇宙実験とオーダーの等しい拡散係数の値が得られた.今後は温度制御や磁場の強さ等の実験条件を考慮し,より正確な自己拡散係数の測定を目指す。

同位体Si単結晶の熱伝導

本課題では28Siの同位体純度を99.92%まで高めた28Si同位体バルク単結晶を成長し、熱伝導度の評価を行った。通常のSi結晶中には28Si、29Si、30Siの3種類の安定同位体が存在し、それぞれの組成比は92.2%(28Si)、4.7%(29Si)、3.1%(30Si)と常に一定である。異なる同位体が同一結晶内に存在するということは、結晶を構成する格子点質量にばらつきがあることを意味する。これまで当研究室では 半導体中の同位体組成が物性値に与える様々な影響(同位体効果)について調べ、その過程においてゲルマニウム半導体中の同位体純度を高めることが熱伝導度の大幅な向上につながることを示した。その理由を定性的に述べると次のようになる。まず、熱伝導を高温 部から低温部への熱の拡散と定義する。金属の熱伝導度が一般的に高いのは、材料中を自由に移動できる電子が熱の移動に大きく寄与するからである。しかし、絶縁体や半導体といった電気伝導度が低い材料では電子濃度が低いため、結晶中の原子の振動(格子振動またはフォノンと呼ばれる)が高温部から低温部まで伝播することによって熱が運ばれる。熱い部分の原子が激しく振動し、その振動が低温部に伝播していく過程において、すべての原子の重さが同一であれば格子の波はきれいに伝播するが、結晶の中に複数の異なる質量(すなわち異なる同位体)が存在すると格子波の伝播は妨げられる。よって、同位体純度が高い結晶では熱伝導度が高く、複数の同位体が混在した結晶では熱伝導が低くなる。熱伝導に対する同位体効果を理論的に計算するのは非常に困難であるが、実験に基づく基礎研究は様々な材料に対する同位体効果を定量的に明らかにした。我々が注目するSiにおいても実験が行われ、99.7%の28Si薄膜の伝導度は天然のSi薄膜の伝導度より室温で60%、100℃でも40%高いことが示された。これらの実験結果をもとに熱伝導度のシミュレーションモデルを完成し、その詳細を解析した。

Ge同位体超格子、Ge同位体へテロ構造中のフォノン

従来の半導体超格子(Si/SiGe、GaAs/GaAlAs超格子等)は、江崎玲於奈等が開発した異なった物質を交互に成長させた人工格子であるが、この人工格子ではその電子と格子系を独立に制御することができなかった。我々は70Ge同位体と76Ge安定同位体を原子層単位で堆積した特殊人工格子、70Ge/76Ge同位体超格子の作製に成功した。この同位体超格子は各層の積層原子数を変化させることで、電子状態を変化せずにフォノンモードのみを系統的に制御することが可能である。それゆえ、この超格子は低次元半導体フォノン物理の研究としては理想的な系といえる。実験として、試料作製は、分子線エピタキシー法(MBE法)を用いて行われた。またラマン分光法を用いて同位体超格子中のフォノンの評価を行った。さらにPlanar Bond Charge Model (PBCM)を用いて同位体超格子のフォノンの振動エネルギーを計算しラマンスペクトルの解析を行った。70Ge/74Ge同位体超格子は、すでに我々とマックスプランクのグループで作製されている。しかし今回、重さの違いが大きい70Ge/76Ge同位体超格子を用いたフォノン・ラマン解析によって、超格子中には、従来の計算モデルでは予測できないモードがいくつか存在されることがわかった。これらのモードの詳細な解釈に関する研究は、現在遂行中である。 本研究は平成12年9月半導体物理に関する国際会議で発表された。現在は70Ge/76Ge同位体ヘテロ構造も作製し、そのフォノンをラマン分光実験、PBCM解析を用いて評価している。また、大阪大学のグループと共同で、フェムト秒光パルスによる同位体超格子中のコヒーレント フォノンの発生にも成功し、我々が測定したラマン分光の結果と比較検討された。このように、現在我々によって、低次元半導体フォノン・ラマン物理の研究が実験・理論の両面において進展中である。

発表論文・学会発表・特許申請など

論文

  • 伊藤公平、「金属・非金属転移」、日本学術振興会学術月報、Vol. 54, No. 10, 977-983(2001)
  • 伊藤公平、田久賢一郎、「シリコン同位体単結晶の応用」、応用物理、Vol. 70, No. 10, 1187-1190 (2001).
  • K. Morita, K. M. Itoh, L. Hoffmann, B. Bech Nielsen, H. Harima, and K. Mizoguchi, “Raman Investigation of the Localized Vibrational Mode of Carbon in Strain-Relaxed Si1-xGex:C,” Jpn. J. Appl. Phys. 40, 5905-5906 (2001).
  • J. Kato, K. M. Itoh, and E. E. Haller, “Correlated to Random Transition of Ionized Impurity Distribution in N-Type Ge:(As;As),” Physica B, Vol. 308-310, 521(2001)
  • H. Iwata and K. M. Itoh, “Donor and Acceptor Concentration Dependence of the Electron Mobility and the Hall Scattering Factor in N-Type 4H- and 6H-SiC,” J. Appl. Phys.,89, 6228-6234,(2001).
  • J. Kato, K. M. Itoh, and E. E. Haller, “Electric Field Broadening of Arsenic Donor States in Strongly Compensated N-Type Ge:(As, Ga),” Physica B, 302-303, 1-6 (2001).

口頭発表

  •  核スピン量子ビット(招待講演)伊藤公平 電子情報通信学会電子デバイス量子情報技術研究会「量子情報処理–その実現にむけて」2002年3月15日・東京・機械振興会館
  • E. Abe, K. M. Itoh, T. D. Ladd, J. R. Goldman, F. Yamaguchi and Y. Yamamoto, “An all silicon quantum computer,” The 7th Symposium on the Physics and Application of Spin-Related Phenomena in Semiconductors, December 17-18, 2001, Tokyo Institute of Technology, Yokohama, Japan.
  • Jiro Kato, Kohei M. Itoh and Hiroshi Kaneta, “Lacal Vibrational Mode in Isotopically Enriched 29Si,” The Forum on Science and Technology of Silicon Materials 2001, Nov. 26-28, Shonan Village Center
  • T. Takahashi, S. Fukatsu, K. M. Itoh, S. Uematsu, A. Fujiwara, H. Kageshima, Y. Takahashi and K. Shiraishi, “Self-Diffusion of Si in SiO2 under Equilibrium Condition,” The Forum on Science and Technology of Silicon Materials 2001, Nov. 26-28, Shonan Village Center
  • 全シリコン量子コンピューティング 阿部英介、伊藤公平、T. Ladd、J. Goldman、山口文子、山本喜久 2001年11月12日-13日 第5回量子情報技術研究会、NTT厚木研究開発センタ
  • T. Yamada and K. M. Itoh, “Optical and Electrical Characterization of Free Standing 3C-SiC Films Grown on Undulant 6-inch Si Substrates,” InternationalConference on Silicon Carbide and Related Materials 2001, October 29-November 2, 2001, Tsukuba, Japan
  • 全シリコン量子コンピューティング 阿部英介、伊藤公平、T. Ladd、J. Goldman、山口文子、山本喜久 2001年10月17日 応用電子物性分科会研究例会「スピントロニクスの最前線」、機械振興会館
  • 半導体核スピン量子コンピューティング(招待講演) 伊藤公平 平成13年10月 応用物理学会応用電子物性分科会研究例会、東京
  • シリコンNMR量子コンピューティング 伊藤公平 平成13年9月 東北大学通研研究会
  • 大規模量子コンピュータの実現に向けて、東北大学電気通信研究所
  • 半導体核スピン量子ビット(招待講演) 伊藤公平 日本物理学会2001年秋季大会、徳島文理大学
  • 70Ge/76Ge同位体ヘテロ構造中のフォノン・ラマン散乱 森田健、伊藤公平、中島誠、播磨弘、溝口幸司、白木靖寛 日本物理学会2001年秋季大会、徳島文理大学
  • 29Si結晶中の酸素原子局在振動 加藤治郎、伊藤公平、金田寛 日本物理学会2001年秋季大会、徳島文理大学
  • 半導体中・イオン化不純物分布のRandom-to-Correlated転移 加藤治郎、伊藤公平、金田寛 日本物理学会2001年秋季大会、徳島文理大学
  • Si酸化膜(SiO2)中のSi自己拡散 高橋智紀、深津茂人、伊藤公平、植松真司、藤原聡、影島博之、高橋庸夫、白石賢二 2001年秋季応用物理学会学術講演会、愛知工業大学
  • K. Morita, K. M. Itoh, M. Nakajima, H. Harima, K. Mizoguchi, Y. Shiraki and E. E. Haller, “Raman Spectra of 70Ge/76Ge Isotope Heterostructures with Argon 488nm and 514.5nm Excitations,” Proceedings of the 10th International Conference on Phonon Scattering in Condensed Matter, August 12-17, 2001, New Hampshire, USA
  • J. Kato, K. M. Itoh and E. E. Haller,”Correlated to Random transition of Ionized Impurity Distribution in n-Type Ge:(As;Ga),,” International COnference on Defects in Semiconductors 2001, July 16-20 2001, Gissen, Germany
  • K. M. Itoh and E. Abe, “Spintronic Devices Based on Isotopically Engineered Semiconductors,” The 1st International Conference on Spintronics and Quantum Information Technology, May 15-18, 2001, Maui, Hawaii.

その他(記事 、新聞発表)

  • 2001年10月8日 日本経済新聞「量子計算機開発日米産学で始動」
  • 2001年9月20日 日経サイエンス「21世紀の気鋭」欄・伊藤公平
  • 2001年6月26日 讀賣新聞 「携帯で講義がかわる」

特許申請

国内1件

■学位論文

修士論文

  • 石川朋美:電子スピン共鳴法によるn型Ge中の電子スピン緩和時間測定
  • 深津茂人:シリコン熱酸化膜形成機構に関する研究

学士論文

  • 大屋 武:Si同位体超格子中の電子移動度の計算
  • 清水智子:同位体が制御されたBa8Si46のラマン分光評価
  • 須藤千絵: 28Si同位体単結晶の熱伝導度の測定および解析
  • 根橋竜介: 反射型高エネルギー電子線回折によるGe分子線エピタキシ成長のその場観測
  • 松木雄介: 分子線エピタキシー成長におけるGe成長速度の較正
  • 八杉大輔: 28Si/天然Si同位体ヘテロ構造の熱伝導シミュレーション

進路

日本電気、東芝、米国University of California at Berkeley Dept. Materials Science and Engineering 大学院、慶応義塾大学大学院理工学研究科

研究助成

  • 科学技術振興事業団 戦略的基礎研究「全シリコン量子コンピュータの実現」
  •  科学技術振興事業団 さきがけ研究21「同位体制御による半導体物性デザイン」
  • 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B) 「高純度28Si同位体結晶の成長と評価」
  • 文部科学省 研究費補助金 萌芽的研究 「半導体”核スピン”超格子の作製と物性研究への応用」