構成

教授:相吉英太郎
助手:田中玲子(日本学術振興会海外特別研究員としてCalifornia Institute of Technology, Control and Dynamical Systems に長期出張中)
博士課程1年:熊田直樹,増田和明
修士課程2年:池田雄一,大坂哲史,金子彰宏,菅野篤,深澤建臣,堀口奈美
1年:秋笹久,遠藤俊明,野田勝之,三浦みちる,宮澤さや香,茂木克雄
学部学科4年:岡本卓,佐久間啓,曽我亮司,高木恵美,藤本浩史

研究概要

<相吉英太郎>

(1) 力学モデルを用いた情報処理

最適化計算・画像処理・連想記憶などの情報処理を目的として,非線形力学モデルを構築して,その設計・制御をおこなういわば情報処理と力学の中間的な学問領域といえる「情報物理学」の体系化を目指しているが,単位シンプレックス上に拘束されたカオス力学モデルに加えて,まったく新しい単位超球面上に拘束されたカオス力学モデルも提案し,超曲面上でのカオス最適化手法を提案した。
また,直交関係を保つよう結合させた結合型勾配系モデルを用いて,主成分を含むすべてのマイナー成分を同時並列的に探索する主成分分析のための多点探索手法や,大域的最適解を高い割合で探索できる離散系カオス写像の結合系モデルも提案した。

(2) 遺伝アルゴリズムとマルチエージェント・アルゴリズムの原子炉炉心設計・制御への応用

原子炉運転時の炉心制御をも考慮した取替え炉心設計の自動化計算法として,2段階遺伝アルゴリズムを用いた炉心管理システムを従来から構築してきたが,遺伝アルゴリズムによらない確定的な多点探索手法として,当研究室で過去に提案したマルチエージェント・アルゴリズムを用いた炉心管理システムを新たに構築した.とくに,これらは現在,次世代型炉心管理システムとして実用化段階を迎えている.

(3) ニューラルネットワークによる近似・モデリングと学習アルゴリズム

2結合層を有するいわゆる階層型ニューラルネットワークに関する研究は,すでに成熟段階に至っているが,さらなる高機能化と応用性を求めて,複素ニューラルネットワークによるフラクタル図形の近似と生成,非線形データのモデリングと周期解推定,などの研究をおこなった.

<田中玲子>

(1) 対称群を利用した量子エンタングルメント抽出

量子系において,エンタングルメントをうまく抽出することは,量子テレポーテーションなど実際の応用例で非常に重要となる.しかし,空間的に離れた場所で量子情報がエンタングルされる場合,途中でノイズが入ることが多い.本研究では,N個の同じ状態が得られた場合を仮定し,対称群の既約表現を用いた射影により,このようなノイズを含む量子系からノイズを除去し,系のもつエンタングルメントをできるだけ抽出する方法を提案した.さらに,エンタングルメントの抽出できる確率を示した.

(2) 粘菌振動子系における時空間対称パターン形成とその制御

マイクロ加工技術で精巧に作られた型を用いて,真性粘菌結合振動子系を作ることができる.型で形を制御された粘菌は,細いチューブを通じて互いに行き来することで相互作用をし,粘菌の厚みが振動する.このような生物を用いた振動子系の解析では,粘菌振動子のモデル化が困難である.しかし,マイクロ加工技術を用いて相互作用の大きさや振動子の大きさを正確に対称にすることにより,結合振動子系のもつ対称性のみから,得られる時空間パターンを予測できる.本研究では,この粘菌振動子系に外部制御入力を加えることにより,現れる対称パターンを制御することに成功した.また,鎖状につながれた結合振動子系で観測されたパターンから,これまで鎖状結合振動子系では考えられていなかった,「隠れ振動子」による「隠れ対称性」の概念を提案した.

(3) 生物の代謝ネットワークの最適構造

生物は,数百以上の物質を触媒により変換していくことで、生きるために必要なエネルギーや物質を作り出している.近年,この代謝ネットワークの構造をグラフとして扱い,グラフ論的な特徴が多く議論されている.その結果,これまでわかっていなかったネットワークの大局的な構造が明らかになってきている.その研究の中心は,各ノードからの結合の数の分布がpower lawになっている理由の議論である.本研究では,このpower lawは,代謝ネットワークが様々な性能基準のトレードオフをうまく実現するために高度に構造化された結果生じるものであることを示すことを目的とする.つまり,ネットワークがどのような意味で最適になっているのか,構造を決定するための基本となる考えを提唱する.これまでの研究では,代謝ネットワークがもつモジュール構造を明らかにし,ネットワーク全体がこのモジュール構造とそれらモジュール間をつなぐ common currencies とからなるために,power law 分布が生じることを明らかにした.

(4) インターネットの最適構造

代謝ネットワークとともに,大規模ネットワークの例として,インターネットの構造が研究され,両者に共通する性質が明らかにされてきている.ここでも,メインとなる結果は,インターネットの様々な統計量が示すpower law分布である.しかし,同じpower law分布をもつネットワークでも,性能の大きく異なるネットワークが得られる.本研究では,これまで提案されているscale-free networkは,インターネットの性能としては優れていないことを示した.また,同じ分布をもつ,高性能なネットワークの構造を提案する.

発表論文・学会発表など

論文

<相吉英太郎関連>

  1. E. Aiyoshi, R. Horie and A. Maki:
    An Application of the Continuous Time Replicator Dynamics to Economics
    Mathematical and Computers in Simulation, Vol.59. Nos.1-3, p.p.105/113, 2002年5月
  2. 増田和明,相吉英太郎:
    離散化カオス写像と悪化受理法によるハイブリッド型大域的最適化手法
    電気学会論文集C(電子・情報・システム部門誌),第122巻,第5号, p.p.892/899, 2002年5月
  3. Y. Kobayashi and E. Aiyoshi:
    Optimization of Boiling Water Reactor Loading Pattern Using Two-Stage Genetic Algorithm,
    Nuclear Science and Engineering, Vol.142, No.2, p.p.119/139, 2002年10月

<田中玲子関連>

  1. R. Tanaka, I. Saiki, K. Ikeda:
    Group-theoretic Bifurcation Mechanism of Pattern Formation in Three-dimensional Uniform Materials,
    Int. J. Bifurcation and Chaos, Vol.12, pp.2767-2798, 2002.

国際会議

<相吉英太郎関連>

  1. Y. Kobayashi and E. Aiyoshi:
    Improvement of the Accuracy of a 3-dimensional Simulator of a BWR Using a Neural Network,
    2002 IEEE International Symposium on Industrial Electronics, July, 2002
  2. K. Masuda and E. Aiyoshi:
    Solution to Combinatorial Problems by Using Chaotic Global Optimization Method on a Simplex,
    Proceedings of SICE Annual Conference 2002 in Osaka, August, 2002
  3. Y. Kobayashi and E. Aiyoshi:
    Integer Valued Combinatorial Optimization Algorithm Using Multi-Agents,
    Proceedings of SICE Annual Conference 2002 in Osaka, August, 2002

<田中玲子関連>

  1. A. Takamatsu, R. Tanaka, T. Yamamoto, T. Fujii:
    Control of Oscillation Patterns in a Symmetric Coupled Biological Oscillator System,
    7th Experimental Chaos Conference, August 2002
  2. A. Takamatsu, R. Tanaka, T. Fujii:
    Experimental Evidence of Hidden Symmetry in a Chain of Coupled Biological
    Oscillators with Plasmodial Slime Mold, Dynamics Days Arizona
    22nd Annual International Conference, January 2003

国内講演発表

<相吉英太郎関連>

  1. 増田,相吉:シンプレックス上のカオス写像を用いた正規化制約条件付大域的最適化
    計測自動制御学会第29回知能システムシンポジウム,2002年3月
  2. 熊田,相吉:ニューラルネットワークを用いたカオスデータの周期解推定
    計測自動制御学会第8回創発システム・シンポジウム,2002年8月
  3. 大坂,相吉:レプリケータ系のニューラルネットワーク実現とヘテロクリニック構造の創発
    計測自動制御学会第8回創発システム・シンポジウム,2002年8月
  4. 三浦,相吉:複素ニューラルネットワークによるフラクタル図形の近似と設計
    平成14年電気学会電子・情報・システム部門大会,2002年9月
  5. 野田,相吉:ニューラルネットワークによる主成分分析とその慣性系学習則
    平成14年電気学会電子・情報・システム部門大会,2002年9月
  6. 小林,相吉:ニューラルネットワークに対するSSVM公式による準ニュートン法
    平成14年電気学会電子・情報・システム部門大会,2002年9月
  7. 熊田,相吉:非線形最適化手法を用いたカオスシステムの不動点推定とその応用
    平成14年電気学会電子・情報・システム部門大会,2002年9月
  8. 増田,相吉:シンプレックス上のカオス力学系と正規化制約大域的最適化手法
    平成14年電気学会電子・情報・システム部門大会,2002年9月
  9. 遠藤,田中,相吉:対称性を有するパルス結合振動子における同調現象の解析
    平成14年電気学会電子・情報・システム部門大会,2002年9月
  10. 伊藤,田中,相吉:ニューラルネットワークを用いた結合振動子の同調現象の推定と結合構造の設計
    平成14年電気学会電子・情報・システム部門大会,2002年9月
  11. 小林,相吉:マルチエージェントとGAによる沸騰水型原子炉の炉心設計の統合型最適化
    第5回最適化シンポジウム,2002年10月
  12. 岡本,増田,相吉:シンプレックス上の慣性系モデルによる制約条件付最適化
    計測自動制御学会 システム・情報部門学術講演会,2002年11月
  13. 増田,相吉:超球面上のカオス力学系と非線形制約付大域的最適化手法
    計測自動制御学会 システム・情報部門学術講演会,2002年11月
  14. 熊田,相吉:ニューラルネットワークを用いたカオスデータのモデリングと周期解推定
    計測自動制御学会 システム・情報部門学術講演会,2002年11月
  15. 堀口,高松,田中,相吉:BZ反応振動子による結合系の振動パターンの実験的解析と制御
    計測自動制御学会 システム・情報部門学術講演会,2002年11月
  16. 増田,相吉:レプリケータ系にもとづくカオス力学系-ニューラルネットワーク実現からカオス最適化まで-
    第12回インテリジェント・システムシンポジウム,2002年11月
  17. 増田,相吉:シンプレックス内のカオス力学系を用いた正規化不等式制約付大域的最適化
    自動制御連合講演会,2002年11月
  18. 小林,相吉:対話的GAを用いたBWRの取替炉心設計の最適化
    自動制御連合講演会,2002年11月
  19. 宮澤,増田,相吉:拡散結合型離散化勾配系カオスによる大域的最適化
    電気学会産業計測制御研究会,2003年3月
  20. 野田,増田,相吉:直交結合型多体勾配系による超球面上の最適化と主成分分析
    電気学会産業計測制御研究会,2003年3月
  21. 小林,相吉:マルチエージェント・アルゴリズムによる組合せ最適化手法
    電気学会産業計測制御研究会,2003年3月
  22. 小林,相吉:マルチエージェントとGAによる2段階最適化手法を用いたBWR炉心設計の自動化
    電気学会産業計測制御研究会,2003年3月
  23. 増田,相吉:離散系勾配法モデルを用いたカオス徐冷法の初期サンプリングパラメータ設定
    計測自動制御学会第30回知能システムシンポジウム,2003年3月
  24. 増田,相吉:超球面上制約付大域的最適化のための離散化勾配法に基づく新型カオス力学系モデルの検討
    計測自動制御学会第30回知能システムシンポジウム,2003年3月
  25. 小林,相吉:マルチエージェントとGAによるBWR炉心設計の統合型最適化
    原子力学会2003年春の年会,2003年3月

<田中玲子関連>

  1. 高松,田中,山本,藤井:真正粘菌結合振動子系における時空間対称振動の制御,
    日本生物物理学会第40回年会, 2002年11月
  2. 遠藤,田中,相吉:対称性を有するパルス結合振動子における同調現象の解析
    平成14年電気学会電子・情報・システム部門大会,2002年9月
  3. 伊藤,田中,相吉ニューラルネットワークを用いた結合振動子の同調現象の推定と結合構造の設計
    平成14年電気学会電子・情報・システム部門大会,2002年9月
  4. 堀口,高松,田中,相吉:BZ反応振動子による結合系の振動パターンの実験的解析と制御
    計測自動制御学会 システム・情報部門学術講演会,2002年11月

その他発表

<田中玲子>

  1. R. Tanaka:Symmetric Patterns — from Rocks to Slime Molds —,
    Invited talks in University of Houston, Department of Mathematics, April 2002

卒業論文と修士論文

卒業論文

  1. 岡本 卓 連続散逸系モデルを用いた制約条件付大域的最適化手法
  2. 佐久間啓 多体系アルゴリズムによる最適解探索と均衡解探索に関する研究
  3. 曽我亮司 拡散方程式モデルに基づく大域的最適化計算手法
  4. 高木恵美 回転演算型交叉を用いた実数値遺伝アルゴリズム
  5. 藤本浩史 遺伝的プログラミングの効率改善に関する研究

修士論文

  1. 金子彰宏 ニューラルネットワークによる回転型倒立振子の振り上げ制御に関する研究
  2. 深澤建臣 シュレディンガー方程式のニューラルネットワークによる数値解法
  3. 堀口奈美 BZ反応振動子による結合系の同調パターンの実験的解析と制御

進路先

慶應義塾大学院進学2名・東京大学大学院進学1名・国外留学1名・特許庁1名
東京電力・日産自動車・ミサト 各1名