構成

助教授

田中敏幸

修士2年

田村悠樹,水尾佳弘,羽田徹也,村川正貴,本山比佐夫,吉野寿美

修士1年

小椋達也,川村景太, 山口星志,若宮大輔, Kok Liang Tan

学部

寺崎聡義,阿多恵美子,榮枝純一,中野友紀子,吉澤 聡,渡部伸一郎,渡辺 宝

 

進路

野村総合研究所
キャノン 3名
NTTデータ 2名
日立製作所
大学院進学 3名
NEC

研究成果

(1) GPSにおける位置誤差軽減のための最適計算方法の検討

本研究ではGPS単独測位に着目し,カルマンフィルタを用いて精度の向上を試みた。カルマンフィルタは初期予測値を適切に与えないと収束に時間がかかってしまうが,それに最小二乗法の測位結果を用いることで解決した。カルマンフィルタの性能を確認するために仰角を変化させて24時間測位実験を行ったところ,カルマンフィルタを用いると特に衛星数を制限させた場合に測位精度の改善が見られた。また,データの出力を1秒毎として衛星数の変化と測位誤差の変動を調べてみたところ最小二乗法では衛星数が減少すると大きく測位誤差が生じてしまうが,カルマンフィルタではその誤差が軽減されることが分かった。カルマンフィルタは都市部や移動時などのより実用的な測位において効果的であるといえる。

(2) 準天頂衛星を利用したGPS測位システム

現在,日本では米国防総省が管理するGPSシステムを利用して位置測位が行われ,カーナビゲーションやGPS付携帯電話等,日常生活においても利用形態は拡大し続けている。しかし,現状のGPS測位では,山間部や都市部など見通しの悪い場所においては常に安定した測位ができないといった問題がある。このような問題を解決するため,準天頂衛星を利用した測位システムが有用であり,官民が連携して開発を行い,2008年打ち上げを目指している。準天頂衛星は,同一軌道に3つの衛星を配置させ,8時間ごとに衛星を切り替えることによって常に日本の天頂近くに衛星を存在させるシステムである。準天頂衛星システムは,国土が狭い,山が多い,ビルが林立するなどの特徴を有する日本の国情に大変適したシステムであり,注目を集めている。本研究では,シミュレーションにより日本全域で高仰角が得られる準天頂衛星の最適軌道を求めている。シミュレーションではあるが,測位精度もかなり改善されることが確認できた。

(3) 非破壊検査用X線CT画像の3次元構成方法の検討

本研究では,小型X線CT装置を使用する際に起こる問題に対処するために,新しい撮影方法を提案し,その撮影方法に対応する再構成アルゴリズムを実際の装置から得られたデータを用いて検証した。現在までに,ノーマル撮影時のデータを用いて3次元直接再構成のアルゴリズムの有効性を確認した。また傾斜CTへ応用するために簡易的な斜めCT装置を暫定的に作成し,ノーマル撮影のときに使用したものと同じ検体の斜めCTにおける投影データを取得した。現在までにこの投影データを使用して鮮明な3次元情報の再構成には至っていない。今後の予定としては,より正確な投影データを撮影すること,その投影データを今のアルゴリズムに適用して有効性を検証していくことが挙げられる。

(4) 画像処理特徴量計測による大腸腫瘍の良悪性判別

本研究では病理診断支援のための自動システム作成を目標としている。今年度は,現場の医師の視点に注目した形態学的特徴を使用して大腸腫瘍の悪性度に対する定量的な判別基準を算出することを目的とした。Normal,Adenoma,Adenoma,Invasive の4グループに属する大腸腫瘍画像21枚から取り出した腺管領域画像87枚に対し,2値化手法と雑音処理手法を用い目的領域を抽出するアルゴリズムを作成した.その際,先行研究では使われていなかった孔数検出フィルタを考案し,高い雑音処理性能を確認した。2値化,雑音除去後,領域から形状特徴量とテクスチャ特徴量の2種の定量的な形態学特徴量を合計29個算出し判別に用いた。このうち15個の形状特徴量の中には,解析対象の性質と医師の医療的判断の見地を考慮して新たに導入,考案したものも含まれている。また14個のテクスチャ特徴量に対しては,腺管画像の中から4つの抽出領域を一意に選ぶ基準を設け領域切り出しを行った。これらの29個の特徴量の中からステップワイズ法で判別に有効な13個の特徴量を選択し判別分析を行った。

(5) 色素性皮膚病変における特有色領域の抽出

本研究では医師が診断する際に注目する悪性黒色腫の構造物であるBlue-White Structures (以後BWS)に着目した。医師が診断する際にはBWSに関しては有無を主観で判断するだけであるが,BWSの面積が悪性黒色腫である可能性と密接に関係しているという報告もある。そこで本研究では,dermoscopy画像を用い,BWSの自動検出手法を提案した。画像の明るさや人間の皮膚の影響を減少させるため,k-meansを用いた腫瘍外部領域から毛髪や人工物などの雑音を含まない通常皮膚色を抽出する方法を提案し,それによって抽出した皮膚色を用いて腫瘍領域の色補正を行った。腫瘍内部においても同様に,周囲の色に比べて相対的に青白い構造物であるBWSを検出するために,人の視覚に近いと言われるHVC色空間における色の類似性に着目してk-meansによって領域分割を行った後に,BWSに相当する領域を選択するため,要素ピクセルというBWSの選択基準を提案した。要素ピクセルの選択法には判別分析による閾値自動決定法を応用することでそれぞれの画像の明るさに対応し,色の偏りに注目することにより,人が青白いと認識するピクセルの選択に成功した。

(6) 画像解析による皮膚腫瘍中の網目模様の検出と評価

本研究では,これまで扱われなかった皮膚腫瘍内部の構造物の一つ,pigment network(網目模様)焦点を当て,その検出と悪性良性判別における状態の違いを考察した。網目模様の検出手法には,モルフォロジーとLaplacian of Gaussianフィルタを使用した。提案手法は従来手法(Gaborフィルタ)と比較して,正しく網目模様を検出し,その他の線形領域を除去することができた。検出結果を用いて状態を計算し,良性腫瘍41例,悪性腫瘍17例に判別分析を行った結果,感度88.2%,特異度82.9%の精度を得た。その際にステップワイズ法で,網の太さ,細く不明瞭な網目模様を含む面積の割合,中心部で明るい網目模様を含む面積の割合が判別項目として選択された。これらの結果から,良性腫瘍は,全体的にムラのない,太く,明瞭で明るい網目模様を多く保有し,メラノーマは背景との差が不鮮明な暗い網目模様を多く保有すると示され,医学的知見と一致していることが示された。

(7) 顔形状の3次元再構成を用いた顔面神経麻痺評価法

顔面神経麻痺の評価は顔面動作の左右差を検査者が肉眼的に比較して評価しており,日本では10項目40点評価法が一般的に用いられている。しかしこの方法は検査者の主観が入りやすく,再現性においても問題が指摘されている。また患者の症状が回復していく様子も評価しにくい。本研究室の先行研究においては,被験者の二方向からの2枚の顔写真の顔面内に多数の特徴点を配置し,両眼立体視を用いることにより表情運動前後での特徴点の3次元的移動量を求めることによって麻痺度を評価するシステムを提案した。これらによって被験者への負担軽減を実現し,ある程度正確な評価を得ることができた。しかし先行研究では,三次元座標を求めるための二画像の対応関係があいまいであった。また,基本となる顔部品上への特徴点の配置を手動で行っていたため,その作業が繁雑であった。そこで,本研究ではこの2つの問題を改善することを目指した。今年度の結果として,ほぼ良好な成果を得ることができたが,一部で安定した評価が得られなかった。 安定した評価が得られなかったのは,顔の回転方向のズレによるもの,特徴点の配置方法や数,評価指標などによるものであった。

(8) X線画像による小動物の腫瘍判別

X線画像による腫瘍診断では陰影が曖昧であり読影に困難を生じるが,コスト面からも利用されることが多いため,未だ腫瘍診断の主流となっている。本研究では腫瘍を含むX線画像において腫瘍抽出の自動化を目的とした。扱う画像は小動物であり,小動物の腫瘍画像を対象として研究を行った。白黒レントゲン画像において,周囲との輝度値の差や円形性などを考慮することで腫瘍を抽出することは可能であったが,画像に含まれる腫瘍を一括で表示するための,腫瘍と腫瘍以外の情報を区別する明確な情報は得られなかった。誤情報となるもののほとんどが骨であったので,骨除去に特化したフィルタなどの使用により誤情報の削減が期待できる。

(9) バイオメトリクス認証のための回転を考慮した位相限定相関法

本論文では,先行研究に精度の高さが確かめられている位相限定相関法をベースにその欠点である回転・拡大の影響に対してロバストである認証システムの構築を目指した。実験では,位相限定相関法がどの程度回転,拡大の影響を受けるかを調べ,それを元に回転,拡大補正の情報となる回転角,拡大率の分解能を決定した。また,どの程度の精度で回転,拡大算出ができるかを確認した。これら予備実験により,回転,拡大補正が位相限定相関法に組み入れることができることを確認した。最後に位相限定相関法に回転,拡大補正を組み入れたシステムで認証実験を行った。結果として,回転および平行移動に強い認識アルゴリズムを得ることができた。しかし,バイオメトリクス認証に用いるには,形状変形に対してロバストでなければならないので,今後のその点のアルゴリズム改善も行いたい。

(10) Wavelet変換を用いた自動採譜

採譜という分野においては,は未だ人間の感覚に頼った採譜が中心となっており,音楽に対する知識・経験が要求される。また,知識・経験が豊富であったとしても,時間・労力が必要となる。これらの問題をコンピュータによる自動化によって解消することが求められている。また,和音・倍音・テンポなどについては未だ解決していない点も多く,特に,倍音を完全に除去し,和音もしくは基本波のみを抽出するプロセスは確立していない。そこで,本研究では特に,和音・倍音の問題について,音声信号といった非定常信号の解析に有用なウェーブレット変換を利用し,解決にあたり解析結果を元に採譜・楽譜のアレンジのできるツール構築を行った。ウェーブレット変換を利用することによって,従来よりも,より精度の高い周波数解析が行うことができ,倍音除去プロセスの変更によって,オクターブを隔てた和音の抽出も可能となった。テンポや音長の決定に関しては,クラスごとの境界の決定がはっきりしすぎていたために音長のわずかな差によってテンポ・音長が大きく異なってしまう欠点が生じてしまった。この境界の決定をファジィに決定すれば,音符・テンポの決定が,奏者の意思に近いものが実現できるだろう。

発表論文・学会発表・など

原著論文

  •  田中敏幸,國弘幸伸:特徴点の三次元移動量による顔面神経麻痺の客観的評価法,Facial Nerve Research, Vol.25, pp.61-63, 平成17年12月
  •  Toshiyuki Tanaka, Junko Nemoto, Manami Ohta, Takanobu Kunihiro: Assessment Method of Facial Palsy by Amount of Feature Point Movements at Facial Expressions,電気学会論文誌C,Vol.126 ,NO.3,pp.368~375,平成18年3月

国際会議

  •  Yuki Tamura, Toshiyuki Tanaka, Kazuo Kikuchi: 3D Reconstruction of X-ray CT Image for Nondestructive Inspection,SICE Annual Conference 2005, August 2005
  •  Toshiyuki Tanaka, Ken Nakajima: Accuracy Improvement of GPS Measurement under a Bad Condition, SICE Annual Conference 2005, August 2005
  • Tetsuya Hada, Toshiyuki Tanaka: Examination of the Weighted Calculation in GPS, SICE Annual Conference 2005, August 2005
  • Keita Kawamura, Toshiyuki Tanaka: Improvement of Accuracy in Changing the Number of GPS Satellites, SICE Annual Conference 2005, August 2005
  • Hisao Motoyama, Toshiyuki Tanaka, Masaru Tanaka, Hiroshi Oka: Segmentation of Blue-White Structures in Pigmented Skin Lesion, SICE Annual Conference 2005, August 2005
  • Daisuke Wakamiya, Toshiyuki Tanaka, Teruaki Oka: Evaluation Features for Malignancy of Lung Tumor using Shape Features of Nuclei, SICE Annual Conference 2005, August 2005
  • Seiji Yamaguchi, Toshiyuki Tanaka: Accuracy Improvement of GPS Positioning in Urban Area, SICE Annual Conference 2005, August 2005
  • Sumi Yoshino, Toshiyuki Tanaka, Masaru Tanaka, Hiroshi Oka: Detection and Evaluation of Structure in Pigmented Skin Legion, SICE Annual Conference 2005, August 2005
  • Toshiyuki Tanaka, Yoshitaka Uchino, Teruaki Oka: Classification of Gastric Tumors based on Shape Features of the Gland, EMBEC 2005, November 2005

口頭発表

  • 田中敏幸,國弘幸伸:特徴点の三次元移動量による顔面神経麻痺の客観的評価法,第28回日本顔面神経研究会,2005年6月,No.33,p.38
  • 水尾佳弘,田中敏幸,岡輝明:特徴量のパターン計測による大腸腫瘍の良悪性判別,第11回画像センシングシンポジウム,E-33,2005年6月,pp.219-220
  • 若宮大輔,田中敏幸,岡輝明:肺腫瘍の悪性度評価のための特徴量の検討,第11回画像センシングシンポジウム,E-34,2005年6月,pp.221-222
  • 田中敏幸,天満真弓,國弘幸伸:特徴点移動量による顔面神経麻痺の客観的評価法,第11回画像センシングシンポジウム,E-35,2005年6月,pp.223-226
  • 田中敏幸,内野佳高,岡輝明:腺管の特徴量抽出による胃の腫瘍の分類,電気学会電子・情報・システム部門大会,2005年9月
  • 羽田徹也,田中敏幸:GPS測位計算における重み係数の影響,第22回センシングフォーラム,平成17年9月
  • 渡部伸一郎,田中敏幸:バイオメトリクス認証のための回転を考慮した位相限定相関法,第22回センシングフォーラム,平成17年9月
  • 水尾佳弘,田中敏幸,岡輝明:形状特徴量の計測による大腸腫瘍の良悪性判別,第22回センシングフォーラム,平成17年9月
  • 本山比佐夫,田中敏幸,田中勝,岡博史:Pigment皮膚腫瘍におけるblue-white structureの抽出,第22回センシングフォーラム,平成17年9月
  • 吉野寿美,田中敏幸,田中勝,岡博史:皮膚腫瘍からのPigmented Networkの検出,第22回センシングフォーラム,平成17年9月
  • 川村景太,田中敏幸:GPSにおけるGDOPの評価と測位への応用,GPS/GNSSシンポジウム2005,p.329
  • 山口星志,田中敏幸:GPS単独測位におけるカルマンフィルタの適応,GPS/GNSSシンポジウム2005,p.330
  • 渡辺宝,田中敏幸:準天頂衛星を利用したGPS測位システム,GPS/GNSSシンポジウム2005,p.337
  • 本山比佐夫,吉野寿美,田中敏幸,彌富仁,橋本正弘,木本雅之,三宅亜矢子,岡博史,田中勝:ダーモスコピー画像におけるBlue-white structuresの自動検出,日本皮膚科学会第804回東京地方会
  • 渡辺宝,田中敏幸:準天頂衛星を利用したGPS測位システム,第23回パソコン利用技術研究集会講演論文集,A2-4, pp.31-34,平成18年3月
  • 中野友紀子,田中敏幸:X線画像における小動物の腫瘍判別,第23回パソコン利用技術研究集会講演論文集,D3-3, pp.233-236,平成18年3月
  • 阿多恵美子,田中敏幸:Wavelet変換を用いた自動採譜,第23回パソコン利用技術研究集会講演論文集,E1, pp.263-266,平成18年3月

受賞

  • 渡辺宝,田中敏幸: 準天頂衛星を利用したGPS測位システム,パーソナルコンピュータユーザ利用技術協会第23回研究発表会,研究奨励賞
  • 阿多 恵美子,田中 敏幸:Wavelet変換を用いた自動採譜,パーソナルコンピュータユーザ利用技術協会第23回研究発表会,優秀ポスター発表賞
  • 田中 敏幸:準天頂衛星を利用したGPS測位システム,パーソナルコンピュータユーザ利用技術協会第23回研究発表会,優秀研究指導賞