構成

助教授

松本佳宣

博士1年

アスルルニザム・ビン・アブドル・マナフ

修士2年

井上哲

修士1年

青野聖、磯貝直樹、大西淳平、鈴木慎也、中村和正、原貴東

学部4年

井口雄介、金子明弘、北畑雄太、木村遙介、真壁啓司、森永秀樹

研究成果

液体式傾斜センサとCMOS集積回路の開発

本研究では、液体を用いた傾斜計の製作とその専用集積回路の開発を行った。傾斜計の電極パターンは、感度、出力直線性を考慮して設計してプリント基板状にパタニングを行った。センサ部のキャップに相当する部分に関しては、大きさ数mm、高さ0.5mm程度の小型容器をリソグラフィ技術にてシリコンゴムで試作した。その後、センサに用いる液体の種類と容器表面の表面処理に関する基礎研究を行い、小型容器の形状と合わせて最適化を行った。さらにこの容器とプリント基板の接合技術に取り組んだ。 このセンサを集積回路と組み合わせて、出力特性の評価を通してセンサの最適化に取り組んだ。集積回路は東京大学集積回路試作センター(VDEC)の試作サービスを利用して0.35umCMOSプロセスで設計・試作した。設計したチップは静電容量を電圧に変換するチャージバランス方式のスイッチトキャパシタ容量検出回路、クロック発生回路、増幅・オフセット調整回路が2.4mm角のシリコンチップに集積化されている。低消費電力と低雑音化に配慮を行いつつ、回路構成とレイアウトの最適化を図った。さらに、従来の演算増幅器を利用する方式より低電圧で動作可能な新回路方式を考案した。研究期間を通して着実に進捗があり、2件の特許出願ならびに複数の論文・学会発表を準備している。今後、これらの成果を生かした傾斜計の実用化が期待される。

微細三次元構造形成用リソグラフィ技術の研究

三次元マイクロナイフの製作に向けて新規リソグラフィ技術の発明と最適化を行った。化学増感型ネガ型レジストSU8-10をガラス基盤上に滴下してベーキングを行い、マスクを用いてガラス基盤を透過して紫外線を照射させる手法(基盤透過露光法)で試作を行った。今回、現像後に形成される構造体の高さがマスクの開口の大きさに応じて変化するという現象を見出した。その検証するため、長さ200ミクロン、開口幅20ミクロン~40ミクロンのスリット上のマスクを製作して露光実験を行った。紫外線露光装置(ナノテック LA-401K)を用いて6秒露光を行った結果、開口幅25ミクロンの高さは100ミクロン、開口幅30ミクロンの高さは150ミクロンとなり、開口幅に応じて露光後の高さが異なる事が確認できた。この高さが変化する原因としては、ガラス基盤上のSU-8レジストの中でフラウンフォーファ回折が発生している事が考えられる。この効果を積極的に利用して、3角形のマスク開口に対して露光を行うと3角形の先端部から底辺部にかけてなめらかに高さが変化する事を見出した。これにより、歯厚50ミクロン、長さ200ミクロン、高さ100ミクロン程度の微小ナイフ原型を製作した。その後、形成した原型に対してPDMSを流し込み重合を起こす事で反転母型を製作した。反転母型の転写性は良好で、既存技術の報告例と同様にサブミクロン以下の精度でSU8の原型の形状を転写できた。また、微細三次元構造を形成するために、紫外線発光ダイオードアレイを用いた露光系に回転動作を与えることで露光強度が均一化される露光方法を考案した。この結果、マイクロレンズ形状などが均一性良く試作できることがわかり、特許出願と国際学会への投稿を行った。

可視光通信用回路

近年、可視LEDを用いて光通信を行う可視光通信が注目されている。赤外線リモコン、赤外線LANに代表される従来の空間光通信では、光源として赤外線LED・LDを用い、受光素子として赤外線フィルターとシリコンフォトダイオードを用いている。しかしながら、可視光通信は可視光を用いるため、特定波長のフィルターの使用が難しく、太陽光や照明光が受光素子であるフォトダイオードに混入するという問題をもつ。また、照明の光量は、距離により大幅に減少するため、最小検出感度が良好でかつ大きな光量でも出力が飽和しないすなわち大きなダイナミックレンジが求められる。また、照明光通信特有の問題として、送信源が複数ある状況が考えられる。この場合、単一のフォトダイオードで検出した場合には混信を引き起こしてしまう。これらの問題を解決するため、フォトダイオードアレイを用いた受光素子とその信号処理回路を試作した。本発明の受光素子では、フォトダイオードをアレイ状に集積化して、その上にレンズ光学系をおき、対象物の状況をフォトダイオードアレイ上に結像して、任意の場所のフォトダイオードを選択することで、送信源や照明が複数ある状況においても、任意の送信源のみから効率よく信号を受信できる。今後、この集積回路の詳細な評価と応用を進めていく予定である。

3次元マイクロマシニングによる微小細管の製作と医療応用

本年度は南谷研究室と共同で3次元マイクロマシニングによるマイクロ流体デバイスの試作と解析をおこなった。μサイズの流路内の流体は、サイズファクターである物理量の関係がρCvL/κ≪1(ρ密度、C定圧比熱、v代表速度、L代表長さ、κ熱伝導度)であれば、熱対流は起こらず、浮力は無視できると言われてきた。しかし我々は生理食塩水のような比較的導電率の高い流体と、流路幅より狭いギャップを挟んで対向する電極対を用いた実験から、μサイズの流体の旋回現象が観察されること、そして、これが印加交流と液体抵抗で生じるジュール熱が誘起する浮力流れ(Buoyant flow)であることを明らかにした。実験と 同時に熱流体の計算機シミュレーションを進めた結果、瞬時に熱分布が定常状態となるμサイズ流路内であっても、さらに狭い領域(交流電極間ギャップ内)に発熱源を閉じ込め、充分な浮力が働く温度差を確保する条件(液体導電率が約0.01S/m以上)とすれば発生することが分かった。生理食塩水(1.6S/m)も含む導電率範囲で効率的に働く現象であることから、バイオ・メディカル分野で広い応用への期待が持てる研究成果である。

発表論文

発表論文

  • Kei Hanai, Takashi Nakahara, Sayaka Shimizu, Yoshinori Matsumoto, “Fabrication of Three Dimensional Structures by Image-Processing Technique”, Sensor and Materials, Vol.18, No.1 pp.49-61(2006).
  • 花井 計,中原 崇,鈴木慎也,松本佳宣,”傾斜回転による三次元加工法”, 電気学会論文誌 E, 126巻6号, pp.222-227(2006).
  • Shuzo Hirahara, Tomoyuki Tsuruta, Yoshinori Matsumoto, Haruyuki Minamitani: “Analysis of Electrically Induced Swirling Flow of Isotonic Saline in a Mixing Microchannel”, IEEJ Transactions on Sensors and Micromachines, vol.127-E, No.3, pp.121-125(2007).

国内学会発表

  • 平原修三、鶴田知幸、松本佳宣、南谷晴之,”細胞溶液攪拌チャネル内におけるマイクロ流体旋回速度の解析“,第23回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム講演集, B2-2, p.22 (2006).

研究助成

  • 科学技術振興機構産学共同シーズイノベーション化事業顕在化ステージ(H18~H19)「バイオ・医療用3次元マイクロナイフの開発」
  • 慶應義塾大学福澤基金研究補助(H18~H20)「三次元マイクロマシニングによる微小細管の製作と医療応用」
  • 日本学術振興会 基盤研究(A)(分担)(H17~H20)「可視光通信における通信方式の研究」 (代表:中川正雄)
  • 科学技術振興機構 CREST(分担)(H13~H18)「全シリコン量子コンピュータの開発」(代表:伊藤 公平)

進路

慶應義塾大学大学院進学
東京大学大学院進学