1999年度 太田研究室

構成

教授
太田英二
助手(有期)
小山紀久
博士3年
小山紀久,米田征司
博士1年
仲由亮哉,林健一
修士1年
小黒伸顕
学部
岡田健見,岸野賢悟,鈴木正彰,中尾田隆

研究成果

[ A ] 半導体材料に関する研究

[A-1] n型Si中の水素イオン照射欠陥分布の照射エネルギー依存性とアニ-ル効果

Si半導体にイオン照射すると、局所的に高濃度の欠陥分布を形成する。とくに、水 素イオンはそのサイズが小さいため深い位置に侵入し、反応性も大きいことから従来の重金属のドープや電子線照射による方法に代わるライフタイムキラーの生成法として期待されている。しかし、水素イオン照射欠陥の特性についてはよく知られていないことも多い。本研究ではSiの表面近くに欠陥を発生させ、欠陥の照射エネルギー依存性とアニ-ル効果について調べた。その結果、照射エネルギーを変化させることにより欠陥が発生する深さを制御することが可能であることがわかった。また、室温か ら210℃の範囲においては、水素関連欠陥は空孔型欠陥よりも熱的に安定であることがわかった。さらに、E3欠陥のアニ-ル効果から、Ec-0.33eVの水素関連欠陥を構成する水素は欠陥複合体を形成する前には少なくとも空乏層内においては負に帯電していると考えられる。

[A-2] 半導体へテロエピタキシャル成長とミスフィット転位の関係

我々はすでに第一原理計算からInAs/GaAs(110)ヘテロ界面に5配位In原子を含むミスフィット転位が形成されることを明らかとしている。今回ヘテロ界面系に対する連続媒体近似に基づいて自由エネルギーを定式化し、ヘテロ成長における成長モードを検討した。その結果、自由エネルギー表式中に現れるパラメータを適切に設定することにより、実験により観察されるヘテロ成長モードをよく再現することが明らかとなった。これらのパラメータはミクロな第一原理計算とマクロな連続媒体モデルを結合させることによって決定することに成功し、その結果ミスフィット転位の形成エネルギーは0.96eV/Aであることを初めて明らかとした。

[A-3] SiOx蒸着膜の光学特性

近年、Si超微粒子からの発光が報告されて以来Si超微粒子の発光に関して多くの研究が行われてきたが、その発光機構は完全には解明されていない。本研究ではSiOの真空蒸着によってSiOx薄膜を形成し、熱処理による膜の構造と発光の相関を探り、発光機構に関する知見を得た。

SiOx蒸着膜を熱処理(アニール)し、PL(フォトルミネセンス)、PAS(光音響分光)測定を行った。アニール温度の上昇に伴い発光ビーク波長、光吸収端ともに低エネルギー側にシフトした。酸素中アニールを行うと650℃までは石英基板と類似した 青色発光を示し、それ以上の温度では発光しなかった。FTIR(赤外吸収)スペクトルの解析から、青色発光はSiO2中の格子欠陥によると考えられる。さらにTEM(透過電 子顕微鏡)による微粒子観察から、アニールによって微粒子の直径が大きくなることが確認された。これはアニールによるPLメインピークのレッドシフトと対応しており 、発光波長の変化は量子閉じこめ効果によって定性的に説明できる。

[ B ] ナローギャップ半導体に関する研究

[B-1] Ag0.208Sb0.275Te0.517の室温における熱伝導率の評価

p型中温用熱電発電材料としてAg0.208Sb0.275Te0.517組成のものは、高い発電能力を有することが報告されている。しかし、報告されたインゴットは、成長方向に垂直な断面で、周辺部と中心部の組織が異なっているため、熱伝導率κの測定が十分行えるほど大きな試料を得ることができなかった。そこで、本研究ではブリッジマン電気炉を用いて均一な組織のインゴットの作製を試み、熱伝導率κの測定を目的とした。

その結果、得られたインゴットは成長方向に垂直な断面で、均一な組織をもっており、κの測定に十分耐える試料を得ることができた。κの評価は透明石英を標準試料として静的比較法を用いた。室温におけるκは成長開始部が0.7 W/(Km))および成長終了部が1.0 W/(Km))であり、κの格子成分の値は両部分とも0.7 W/(Km))であった。 これらは熱電材料のκの報告中でもかなり小さな値を示し、実用材料として有望であることがわかった。

[B-2] n型Ag2Te薄膜の磁気抵抗効果)

磁気抵抗素子洋材料として研究されてきた物質は磁性金属/非磁性金属多層膜やペ ロブスカイトなど磁性化合物が主流である。一方、非磁性金属・半導体・半金属は0. 1T以下300K以下では磁気抵抗効果が一般に検知されない。ところが最近、Ag2SeとAg2Teはナローギャップn型自己ドープ縮退半導体であるが、室温において5.5T以下で200%に及ぶ大きな磁気抵抗効果を示すことが報告された。

本研究はAg2+δTe薄膜を真空蒸着法によってガラス基板上に作製し、薄膜X線回折で結晶性を確かめ、化学量論比のずれδと室温および77Kにおけるホール係数、抵抗率、0.32Tにおける横磁気抵抗効果を測定した。その結果1)小さいδ(-0.18~+0.04)、2)高いキャリア密度(0.6~1.2×1019/cm3)の結果としての低い抵抗率(9×10-4Ωcm)、3)高い移動度(600~1200cm2/Vs)、という3つの特徴をみたす試料において2%(室温0.32T)もの磁気抵抗効果を観測した。

[ C ] 酸化物電気伝導体に関する研究

[C-1] La1-xAxMnOz(A=Ca,Sr,Ba)薄膜の作製と電気伝導に関する研究

非冷却赤外線検知素子のボロメータ(入射した赤外線の熱エネルギーを抵抗変化として検出するセンサ)材料には、室温付近で大きな抵抗温度係数(TCR: (1/ρ)( dρ /dT) )をもつ物質が用いられている。 La1-xAxMnOz系物質は巨大磁気抵抗を示すことで知られているが、本研究ではこの物質のもつ大きなTCRに着目し、その薄膜をレーザーアブレーション法により作製して電気的特性等の評価を行った。La0.7Ba0.3MnO3-δ薄膜においては基板との格子ミスマッチの大きさ・成膜時酸素圧力により、抵抗温度依存性が半導体的から金属的に大きく変化し、抵抗ピーク温度(Tp)のシフトが みられ、Tp直下で2%/K以上の大きなTCRが得られた。しかし、2%/K以上のTCRが得られる温度範囲は30~60℃と狭く、使用基板や基板温度等の作製条件が大きく制約された。これらの点を改善するため、La0.7Sr0.3MnO3-δにBiを置換したBi0.34La0.33Sr0.33MnO3-δを用いて成膜を試みた。その結果、SiOx/Si基板上に400℃の低温で薄膜を作 製することが可能となり、10~150℃の広い温度範囲で2%/K以上の大きなTCRが得られた。

[ D ] 有機薄膜に関する研究

[D-1] Al系陰極を用いた有機発光ダイオードにおける電子注入電極の作製と物性評価

有機発光ダイオード(OLED)の長寿命化を目指すには、さらに効率よく発光する素子を必要とする。OLED素子において現在最も多く用いられている陰極材料はMgAgであるが、長寿命化のためにはより安定した金属を用いることが必要である。そこで、本研 究ではAlを陰極に用いた素子の電子注入効率について検討することを目的とし、Al/Alq3/Alの構造を持つ素子に電子線照射効果に関する実験的研究をおこなった。  Al-400Å/Alq3-1000Å/Al-400Åの構造を持つ素子を作製した。電子線の照射は、Alq3を全て積層した後、または積層途中から蒸着しながら行った。Alq3積層後に電子線照射した試料では電流電圧特性は劣化した。またXPSによるO1sスペクトルの測定結 果からAlq3内部に欠陥が生成されたことが示唆された。これらの結果からこの欠陥が 界面付近で電子をトラップし電子注入効率が低下したと考えられる。一方、Alq3の蒸着中に電子線を照射した場合XPS測定によるO1sスペクトルには変化が見られなかった 。また電流電圧特性に関しては後半の250Åに電子線照射を行った試料ではよくなり 、500Åに電子線照射を行った試料ではかえって劣化した。その原因解明に向け、さらに研究を進めている。

[D-2] ケルビンプローブ法を用いた有機薄膜のフェルミ準位測定装置の作製

ケルビンプローブ法はコンデンサーの一端を振動することで発生する電流をゼロとするようなオフセット電圧を測定して物質のフェルミ準位を測定する方法であり、物質と非接触、真空中でその場測定が可能であるという特徴がある。この方法により、有機物質のフェルミ準位を測定し、電荷輸送に適した物質を調べることができ、高効率なEL素子の設計が可能となる。本研究ではこの方法を用いた装置を作製し、フェルミ準位の標準としてAuを用い、有機物を測定する直前にAuまたはAgを真空蒸着し、大気中で測定を行った。その結果、Au-Auの接触電位差は0.02eVとほぼ0となるとともにAgでは接触電位差を検出することができ、作製したケルビンプローブが正常に動作することを確認することができた。今後、装置を真空中に導入し、空気中では測定す ることができなかった有機物のフェルミ準位を測定する予定である。

[D-3]ポリイミドLB膜の熱分解によるSiCの成長

Langmuir-Blodgett(LB)法は優れた配向性を持つ有機薄膜を成膜することができ、 膜厚を分子単位で制御できる。高出力、高温、高周波特性を持つSiCの新たな作製方 法として、ポリイミド(PI)-LB膜の熱分解する方法が近年注目されている。本研究で はPI-LB膜を成膜し、累積状態を評価すると共に熱分解によるSiC成長条件を調べた。

エリプソメーター、IR(赤外光)吸光度の測定から膜厚、吸光度それぞれが累積数にほぼ比例していることから累積状態は良好であり、その一層当りの膜厚はポリアミド酸アルキルアミン塩LB膜では約10.5Å、PI(ポリイミド)-LB膜では約3.8Åとなった。またX線反射法による膜厚の評価ではエリプソメーターとほぼ同じ値が得られたが、X線反射法による膜厚の方がわずかに大きく、PI-LB膜では約4.0Åであった。PI- LB膜の熱分解によるSi-C結合の成長は温度、時間に比例して増加したが60分間以上の熱分解によって飽和するものと考えられる。またその成長は累積数にも比例してゆるやかに増加した。X線反射法ではPI-LB膜に準ずる一層当りの膜厚は約1.9Åであった 。またFT-IRによる吸光度スペクトルの解析ではSi-N結合によると思われる吸収がみ られた。

■発表論文・学会発表・特許申請など

論文

  • S. Yoneda, E. Ohta, H.T. Kaibe, I.J. Ohsugi, K. Miyamoto an d I.A. Nishida: Crystal Growth of PbTe doped with PbI2 by the Physical Transport Method, J. Crystal Growth, 204, 229-232 (1999).
  • 米田征司, 太田英二, 海部宏昌, 大杉 功, 塩田一路, 西田勲夫: 放電プラズマ法によるPbTe焼結体の熱電特性と結晶粒径の関係, 日本金属学会誌, Vol. 63, No. 11, 1461-1467 (1999).
  • K.Hayashi and H.Wada: Studies of the Oxygen Deficiency Effect in La1-xCaxMnOz Using X-ray Photoelectron Spectroscopy、 Jpn. J. Appl. Phys. 38, L540-L542 (1999)
  • N. Oyama, E. Ohta, K. Takeda, K. Shiraishi, and H. Yamaguchi “First-Principles Calculations for Misfit Dislocations in InAs/GaAs(110) Heteroepitaxy.” Surface Science 433-435, 900 (1999).

口頭発表

  • N. Oyama, K. Okajima, E. Ohta, K. Takeda, K. Shiraishi, H. Yamaguchi, T. Ito, and T. Ohno “Theoretical Study on the Effect of Misfit Dislocations on the Formation of InAs Quantum Dots on GaAs Substrate.” MRS Symposium Fall Meeting, Boston, USA, 29th November – 3rd December 1999
  • N. Oyama, K. Okajima, E. Ohta, K. Takeda, K. Shiraishi, H. Yamaguchi, T. Ito, and T. Ohno “Density Functional Calculations of Misfit Dislocations at the InAs/GaAs(110) Heterointerface.” ISSS , Tokyo, JAPAN, 29th November – 1st December 1999
  • 仲由亮哉、太田英二 「Al/Alq3界面層に対する電子線照射の電子注入効率への影響」 日本材料科学会学術講演大会、工学院大(東京)1999年8月
  • 油橋信宏, 塩田一路, 米田征司, 太田英二, 篠原嘉一, 木村 隆, 西田勲夫, 海部宏昌: Ag0.208Sb0.275Te0.517系化合物の熱電特性評価 熱電変換シンポジウム‘99(TEC’99)、工学院大(東京)
  • 油橋信宏, 塩田一路, 米田征司, 篠原嘉一, 木村 隆, 西田勲夫, 海部宏昌: Ag0.208Sb0.275Te0.517の作製と熱電特性, 日本金属学会,(石川) 1999年9月
  •  林健一, 太田英二, 和田英男, 「La1-xBaxMnOz薄膜の電気特性」 第60回応用物理学会学術講演会, 甲南大(兵庫)2000年3月
  • 林健一, 太田英二, 和田英男, 「La0.7Sr0.3MnO3-δ薄膜の酸素欠乏及びBiドーピング効果」 第47回応用物理学関係連合講演会, 青 山学院大学青山キャンパス(東京)
  • 小山紀久、太田英二、武田京三郎、白石賢二、山口浩司、伊藤智徳、大野隆央 「InAs/GaAs(110)ヘテロ界面中の転位形成過程に関する第一原理的考察」 (招待講演) 日本表面科学会 表面科学研究会、1999年5月(慶応大、三田)
  • 小山紀久、岡島康、太田英二、武田京三郎、白石賢二、山口浩司、伊藤智徳、大 野隆央 「自己組織化量子ドット形成におけるミスフィット転位の影響」 第60回応用物理学会学術講演会、1999年9月(甲南大、神戸)
  • 小山紀久、太田英二、武田京三郎、白石賢二、山口浩司、伊藤智徳、大野隆央 「InAs/GaAsヘテロ界面ミスフィット転位中の新奇5配位構造と成長モードとの関係」 第60回応用物理学会学術講演会、1999年9月(甲南大、神戸)
  • 小山紀久、岡島康、太田英二、武田京三郎、白石賢二、山口浩司、伊藤智徳、大 野隆央 「自己組織化量子ドット形成におけるミスフィット転位の影響」 (招待講演) 電子情報通信学会ソサイエティ大会、1999年9月(日本大、船橋)
  • 小山紀久 「結晶成長初期過程におけるミスフィット転位の影響」 (招待講演) 「ミクロな結晶成長メカニズムの解明に向けて(II)」、 下田ワークショップ、1999年11月(軽井沢プリンスホテル、軽井沢)

■学位論文

博士論文 

  • 米田 征司 物質科学 甲 2000.3 主査:太田、副査:木村、桑野、的場 「中温域熱電材料テルル化物の性能向上に関する研究」

修士論文

  • なし

卒業論文

  • 岡田健見:SiOx蒸着膜の光学特性
  • 岸野賢悟:ケルビンプローブ法を用いた有機薄膜のフェルミ準位測定装置の作製
  • 鈴木正彰:ポリイミドLB膜の熱分解によるSiCの成長
  • 中尾田隆:n型Ag2Te薄膜の磁気抵抗効果

進路

神奈川大学,金属材料研究所,本塾理工学研究科修士課程基礎理工学専攻進学

受賞

  • 小山紀久 応用物理学会講演奨励賞、1999年9月
  • 小山紀久 平成11年度 藤原賞、2000年3月

助成

  • 東京応化科学技術振興財団 第13回研究費の助成「Al系陰極による有機発光ダイオードの電子注入効率に関する研究」太田英二
  • 慶應義塾学事振興資金 各個研究 「InAs/GaAs(100)ヘテロ界面におけるミスフィット転位の電子論」小山紀久

Dept. Applied Physics and Physico-Informatics