1999年度 伊藤研究室

構成

専任講師
伊藤公平
訪問研究員(ポスドク)
渡部道生
大学院
森田 健(D1)、新井大夏(M2)、加藤治郎(M2)、田久賢一郎(M1)、
学部
石川朋美(B4)、伊藤貴昭(B4)、岩田一紗臣(B4)、加藤雄一郎(B4)、 川渕洋明(B4)、深津茂人(B4)、深澤健臣(B4)

研究成果

不純物半導体のドーピングによる金属‐絶縁体転移

70Ge安定同位体のみから構成される高純度単結晶を成長し、それに熱中性子を 照射することから極めて精確なドーピング制御が得られる。この手法を用いて、非縮退半導体から縮退半導体へ、ドーピング濃度の関数として変化する様子を電 気伝導度の詳細な解析から明らかにした。半導体中の金属‐絶縁体転移はモット転移とアンダーソン転移の中間に位置し、物性物理分野でも盛んに研究が進められた基本的な未解決問題である。試料作製で新天地を切り開いた我々の研究は世界的にも高く評価され、1999年度夏に欧州で開かれた2つの国際会議で招待講演に選ばれ た。

Ge同位体超格子の作製とその評価

従来の半導体超格子(Si/SiGe、GaAs/GaAlAs超格子等)は異なった物質を交互に成長させたシステムであるが、これらのシステムではその電子系と格子系を 独立に制御することができなかった。我々は70Ge同位体と74Ge同位体を交互に堆積した 同位体超格子をMBE成長法で作製し、積層原子数を変化させることで、電子状態を変化せずにフォノンモードのみを系統的に制御することに成功した。70Geと74Geの電子のエネルギー構造はほぼ同じで、バンドギャップの変化は室温で0.1%と無視できるほど小さい。 すなわち70Ge/74Ge同位体超格子の厚さを調整することから、電子状態を変化させずにフ ォノンモードのみを系統的に制御できる。このような理想的な2次元格子系を用いてフォノン物理を明らかにし、その上でこれら格子系と電子の相互作用を調べることから、電子―格子相互作用の詳細を明らかにすることが本研究の目的である。以上を長期的な目標として、1999年には様々な70Ge/74Ge同位体超格子を作製し、そのフォノンスペクトルをラマン分光法によって評価した。得られたフォノンスペク トルのピーク位置は超格子の膜厚に依存した系統的に変化を示し、超格子中の同位体組成制御からフォノンモードを操作できることを確認した。また将来の電気伝導度やフォトルミネッセンスの測定に向け、不純物濃度の低い同位体超格子の成長を試みている。また、大阪大学のグループと共同で、フェムト秒光パルスによるコヒーレント フォノンの発生にも成功し、ラマン分光の結果と比較検討された。 本研究の成果は、1999年夏に蔵王で開催された「シリコン半導体の分子線エピタキシ ー成長に関する国際会議」で発表され、発表者の森田に対してはStudent Awardsが 授与された。

FZ法を用いた同位体高純度28Siバルク単結晶の成長と評価

天然のSiには3種類の安定同位体が存在する。我々はこれら3種類の同位体のうち、 質量数28のSiを選択的に分離した粉末を入手し、これを用いて高純度バルク単結晶を成長することに成功した。我々が結晶中の同位体に着目した最大の理由は、同位体制御 したSi単結晶は一般のSi単結晶に比べ、室温熱伝導度が60%近く向上するからである。 このような熱伝導の向上は、半導体集積回路で常に問題となる発熱を軽減する。 同位体単結晶作製に先立ち、少量の試料でも効果的に成長出来るようフローティングゾ ーン法(FZ法)による結晶成長装置を設計・作製した。導入後、天然Siを用いた結晶成長を行い、結晶成長時の温度、引き上げ速度、回転数を変化させ、結晶成長に最適なパラメータを見つけ出した。また、結晶成長を行なうためには粉末同位体を成形する必要があるが、電子技術総合研究所の岡邦彦博士の指導のもとで静水圧プレスをした後、焼結を行なう方法により天然Si粉末、同位体Si粉末共に成形可能となった。成形された天然Si粉末に対しては、結晶成長装置による溶解実験を行なった。天然Siを用いた実験結果をもとに同位体Siに着手、高純度単結晶作製に成功した。

六方晶シリコンカーバイド(SiC)中の電子移動度に関する理論的研究

シリコンICの進歩は目覚しいが、Si-ICは自動車エンジン近傍などの高温では正常に動作しない。その欠点を克服する材料としてSiCが注目されている。特に重要なポリタイプである6H-SiCと4H-SiCでは電子移動度が電流を流す結晶方向に強く依存することが実験的に報告されてきた。当研究室ではこれらの実験結果を理論的に示すモデルを実験とは独立に構築した。理論モデルによる計算結果は実験と定量的によい一致を示した。本研究の結果は、9月に米国で開かれたSiCに関する国際会議で発表された。

発表論文・学会発表・特許申請など

論文

  • K. Morita, K. M. Itoh, J. Muto, K. Mizoguchi, N.Usami, Y. Shiraki, and E. E. Haller, “Growth and Characterization of 70Gen/74Gen Isotope Superlattices,” Thin Solid Films, 369, 405-408 (2000).
  • M. Nakajima, K. Mizoguchi, K. Morita, K. M. Itoh, H. Harima, and S. Nakashima, “Comparison of Coherent and Incoherent LO Phonons In Isotopic70Ge/74Ge Superlattices,” J. Lumin., 87-89, 942-944 (2000).
  • K. M. Itoh, “Variable Range Hopping Conduction in Neutron-Transmutation- Doped 70Ge:Ga,” Phys. Stat. Sol. (b), 218, 211-216 (2000).
  • K. Takyu, K. M. Itoh, K. Oka, N. Saito, and V. I. Ozhogin, “Growth and Characterization of the Isotopically Enriched 28Si Bulk Single Crystal,” Jpn. J. Appl. Phys. 38, L1493-L1495 (1999).
  • K. M. Itoh, M. Watanabe, Y. Ootuka, and E. E. Haller, “Scaling Analysis of the Low Temperature Conductivity in Neutron-Transmutation-Doped70Ge:Ga,” Ann. Phys. (Leipzig), 8, 631-637 (1999).
  • M. Watanabe, K. M. Itoh, Y. Ootuka, and E. E. Haller, “Critical Exponent for Localization Length in Neutron-Transmutation-Doped 70Ge:Ga,” Ann. Phys.(Leipzig), 8, Spec. Issue, SI-3-SI-9, 273-276 (1999).
  • M. Watanabe, K. M. Itoh, Y. Ootuka, and E. E. Haller, “Metal-Insulator Transition of Isotopically Enriched Neutron-Transmutation-Doped 70Ge:Ga in Magnetic Fields,” Phys. Rev. B, 60, 15817-15823 (1999)
  • V. I. Ozhogin, N. A. Babushikina, L. M. Belova, and A. P. Zhernov, E. E. Haller, K. M. Itoh, “Isotope Effect for the Thermal Expansion Coefficient of Germanium,” JETP 88, 135-137 (1999).
  • M. Watanabe, K. M. Itoh, Y. Ootuka, and E. E. Haller, “Metal-Insulator Transition of NTD 70Ge:Ge in Magnetic Field,” Physica B, 284-288, 1677-1678 (2000).
  • K. Lassmann, C. Linsenmaier, F. Maier, F. Zeller, E. E. Haller, K. M. Itoh, L. I. Khirunenko, B. Pajot, and H. Mussig, “Isotopic Shifts of the Low-Energy Excitations of Interstitial Oxygen in Germanium,” Physica B, 263-264, 384-387 (1999).
  • 大槻東巳、伊藤公平、Keith Slevin、「アンダーソン転移の理論と実験の現状」、 固体物理、Vol. 34, No. 5, 301-308 (1999)
  • 伊藤公平、渡部道生、大塚洋一、「Ge:Gaにおける金属―絶縁体転移」、 日本物理学会誌、Vol. 54, No.3, 205-208 (1999).
  • T. Kinoshita, K. M. Itoh, M. Schadt, and G. Pensl, “Theory of the Electron Mobility in N-Type 6H-SiC,” J. Appl. Phys., 85, 8193-8198 (1999).

口頭発表

  • Si(1-x)Ge(x)中の13C不純物局在振動ラマン分光、森田健、伊藤公平、L. Hoffmann, B. Bech Nielsen、溝口幸司、 播磨弘、2000年春季 応用物理学関係連合講演会、青山学院大学
  • Fz法による高純度28Si同位体単結晶の成長と評価、田久賢一郎、伊藤公平、2000年春季応用物理学関係連合講演会、青山学院大学
  • 六法晶SiCの電子伝導に関する理論的研究、岩田一紗臣、伊藤公平、2000年春季応用物理学関係連合講演会、青山学院大学
  • 半導体を用いた金属-絶縁体転移の実験からわかったこと、伊藤公平、日本物理学会2000年春の分科会、関西大学
  • 磁場中における70Ge:Gaの金属-絶縁体転移点近傍での広域ホッピング伝導、渡部道生、伊藤公平、大塚洋一、日本物理学会2000年春の分科会、関西大学
  • K. Morita, K. M. Itoh, J. Muto, K. Mizoguchi, N. Usami, Y. Shiraki, and E. E. Haller, “Growth and Characterization of 70Gen/74Gen Isotope Superlattices,” International Joint Conference on Silicon Epitaxy and Heterostructures, Zao, Miyagi, Japan, September 12-17, 1999.
  • K. M. Itoh, “Hopping Conduction Near Metal-Insulator Transition in Ge:Ga,” The 8th International Conference on Hopping and Related Phenomena, Murcia, Spain, September 7-10, 1999. (招待講演)
  • K. M. Itoh, M. Watanabe, Y. Ootuka, and E. E. Haller, “Scaling Analysis of the Low Temperature Conductivity in Neutron-Transmutation-Doped70Ge:Ga,” International Conference on LOCALIZATION 1999-Disorder and Interaction in Transport Phenomena, Hamburg, Germany, July 30-August 3, 1999. (招待講演)
  • H. Iwata and K. M. Itoh, “Theoretical Calculation of the Electron Hall Mobility in n-typ 4H- and 6H-SiC,” International Conference on Silicon Carbide and Related Materials, Durham, USA, September, 1999.
  • 70Gen/74Gen同位体超格子中のフォノン、森田健、伊藤公平、武藤準一郎、溝口幸司、宇佐美徳隆、白木靖寛、1999年日本物理学会秋の分科会、岩手大学
  • N型Ge(As,Ga)の遠赤外不純物スペクトル、加藤治郎、伊藤公平、1999年日本物理学会秋の分科会、岩手大学
  • 70Gen/74Gen同位体超格子の作製とその評価、森田健、伊藤公平、武藤準一郎、溝口幸司、宇佐美徳隆、白木靖寛、1999年春季応用物理学関係連合講演会、東京理科大学
  • GaMnAs薄膜の光吸収測定、加藤治郎、伊藤公平、武藤準一郎、A. Shen,松倉文礼、大野英男、勝本信吾、1999年春季応用物理学関係連合講演会、東京理科大学
  • 絶縁体70Ge:Gaにおける局在長の臨界指数、渡部道生、島田宏、大塚洋一、伊藤公平1999年日本物理学会第54回年会、広島大学
  • 半導体(Ge:Ga,As)におけるコヒーレントフォノンの偏光特性、中島誠、溝口幸司、中島信一、伊藤公平、1999年日本物理学会第54回年会、広島大学

その他(記事 、新聞発表)

  • 伊藤公平「同位体制御による高熱伝導度シリコン基板の開発-現状と展望-」 μTechnology Business 1999年11月号27~30頁
  • 伊藤公平「本音で語るアメリカ留学」 日本機械学会誌 1999年9月号 Vol. 102 14~16頁
  • 伊藤公平「ウォッカと灰色の粉末」 三田評論  1999年8・9月号45頁
  • 1999年12月20日 日本経済新聞朝刊  「高純度シリコン単結晶」科学技術欄
  • 2000年1月26日 半導体産業新聞  「28Si高純度単結晶に成功」
  • 2000年1月31日 日本経済新聞 先端人欄  「慶応大理工学部専任講師 伊藤公平氏」

■特許申請

  • 「同位体超格子半導体装置」特願平11-065015

■学位論文

修士論文

  • 新井大夏:半導体シリコンにおけるヒ素・ホウ素同時イオン注入の効果
  • 加藤治郎:n型Ge(As,Ga)遠赤外不純物吸収測定

学士論文

  • 石川朋美:同位体制御されたアモルファスGeの電子磁気共鳴
  • 伊藤貴昭:ラマン分光装置における光学系の改良
  • 岩田一紗臣:六方晶シリコンカーバイド中の移動度の理論的研究
  • 加藤雄一郎:FT-IR法を用いた光熱イオン化分光の実現
  • 川渕洋明:シリコン中の転移密度の評価 深津茂人:IV属半導体の自己拡散係数の測定

進路 :

日立製作所,慶応義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程,慶応義塾大学大学院理工学研究科, 慶応義塾大学文学部学士入学,スウェーデン・Linkoping University大学院,米国University of California at Santa Barbara, Dept. Physics 大学院,,自由業

受賞

  • 森田 健、Student Awards、International Joint Conference in Si Heterostructures (IJC-Si) 1999年8月

研究助成

  • 科学技術振興事業団・さきがけ研究21,「同位体制御による半導体物性デザイン」
  • 日本学術振興会・科学研究費補助金・基盤研究(B)
  • 「熱中性子ドーピングされた同位体Ge半導体中の金属-絶縁体転移」
  • 日本学術振興会・科学研究費補助金・特定領域研究(A) 「核スピン濃度と分布を制御した半導体構造の作製と評価」
  • 文部省・科学研究費補助金・萌芽的研究 「高純度28Siバルク単結晶成長」
  • 神奈川科学技術アカデミー研究助成第2段階「同位体制御による半導体物性デザイン」
  • 東電記念科学技術研究所研究助成「同位体組成を制御したSi結晶の熱伝導度及び 中性子ドーピングに関する研究」

Dept. Applied Physics and Physico-Informatics