2000年度 田中研究室

構成

専任講師

田中敏幸
修士2年(宮下・田中研究室)
尾留川昌平,蔵野隆,上家知郎,藤田昌人
修士1年
田上泰之,鳥飼雅人,俣野友宏,村瀬曜子
学部
伊東茜,大野雄太,志水和樹,畑弓子,水谷開,武藤洋平,宮本拓人

研究成果

(1)核領域の輪郭抽出による肉腫の病理的診断

これまでは,肉腫画像をテクスチャー解析することによって分類を行ってきた.この手法 では,データベースの中から採取した肉腫と似ているものを選び出すことはできるが,実 際の病理診断を行うことができない.今年度は,核の形状による病理的診断法に注目して,画像処理により核の形状抽出を行い,その多形性や異型性を統計処理によって検討した.形状抽出には,ラプラシアンヒストグラムと大津の閾値法を統合化した方法を用いた.また,多形性や異型性を判断する特徴量としては,核面積や円形度,尖度などを用いている.この研究の結果,ここで提案した手法で,病理的な悪性度の判断がある程度行えることが確認できた.

(2)エコー画像からの胎児の頭部領域抽出

産婦人科では,胎児の検査を行う場合にエコー検査が用いられる.この検査は非侵襲的で あり,リアルタイムの画像表示ができることから,胎児を診断するのに適している。この 検査により胎児が頭の大きさから妊娠何週目かがわかり,また胎児に何らかの異常がない かどうかを確認することができる.しかし,エコー画像は画質が悪く患者から見てその画 面のどの部分が頭なのかさえわからないことも少なくない.そこで,胎児の頭の部分など を自動的に抽出することが必要となる.ここでは,動的輪郭モデルSNAKEを用いて胎児の 頭の形状を抽出した.また頭部の周囲長から妊娠何週目であるかを自動的に判別した.

(3)画像処理を用いた顔面神経麻痺の客観的評価法

日本では,顔面神経麻痺の診断に40点法というものが用いられているが,麻痺の程度を時 系列で見る場合に十分な結果が得られないことが知られている。そこで,画像処理の手法 を用いて顔の特徴抽出を行い,顔面神経麻痺の指標を求めることを目的とした。唇と目の 形状から得られた指標は,顔面麻痺の程度を診断するのに十分な結果を得た。また,今年 度は多くの患者に対してこの客観的評価法を適用した.その結果,時間とともに麻痺が回 復していく様子がグラフなどで容易に表現できるようになった.また,目と唇以外に鼻唇 溝についても評価を行う方法を考案した.鼻唇溝に対して2次曲線を当てはめてその軸の 傾きを評価する方法は,簡単な数値計算によって結果が出るにもかかわらず,臨床的には よい結果が得られた.

(4)CT画像からの内耳の3次元再構築

近年,内耳の形状などから耳鳴りがするなどの病気が見つけられている.一般的には,耳 鼻科医がCT画像を見ることによってその病気を診断するのだが,CT画像は2次元である上 にある間隔でのスライス画像であるために全体像が把握しにくい.そこでこの研究では, CT画像から内耳の部分を抽出して3次元再構築することを目標とした.3次元構築した図は CT画像に比べて見やすいものとなった.今後の課題としては,CT画像から精度のよい内耳の自動抽出法を考案することと,3次元的に形状を補間することによって臨床で使えるレベルの表現にすることである.

(5)2つの異種楽器演奏に対応した採譜システム

現在,カラオケなどの楽譜を作るために専門の人がCDなどから音楽を聞いて,その人が自 ら楽譜を書く場合が多い。この作業には大変多くの手間を必要とする。そこで,この作業 の効率化を図るために,楽音をコンピュータによる信号処理によって自動的に楽譜にする 自動採譜の研究が進んでいる。ここでは,2種類の異種楽器演奏をしたときに,その音の 高さ,長さ,楽器の種類などを自動的に求める方法について検討した.2種類の楽器とし てはピアノとフルートを用いた.ある制約のもとではあったが,かなりの精度で音の種類 が特定できた.

(6)テクスチャ解析を用いた指紋画像の分類方法

一般的に指紋による本人認証には,minutiaeと呼ばれる特徴点を抽出して行われるが,特 徴点の正確な抽出のためには入力画像中の指紋線が劣化せずに背景と鮮明に分かれている ことが必要となる.また,そのような高品質な指紋画像を作成するのはそれほど容易なこ とではない.そこでこの研究では,特徴点を抽出するのではなく,指紋全体を一つの模様 と考えてテクスチャ解析を行うことにより指紋の認識をした.このときテクスチャ特徴量 としては,濃度ヒストグラム,ランレングス行列,同時生起行列,フラクタル次元,フー リエパワースペクトルなど多くの特徴量について検討を行った.その結果フーリエパワー スペクトルが最も認証に向いていることが確認できた.フーリエパワースペクトルを用い て認証を行った結果,分類成功率が95%になった.

(7)測位環境及び捕捉衛星がGPS測位精度にもたらす影響

GPS(Global Positioning System, 全地球測位システム)は1970年代前半から米国防省によ り開発され、1993年から正式に運用が開始された最新の人工衛星による3次元即位システ ムである。最近の動向としては,2000年6月に米国による意図的な測位精度劣化措置(SA) が全面的に解除された.この結果測位精度が飛躍的に上がり20m程度に改善された.本研究では,GPSの基礎研究として,GPSの即位原理の研究,GPSの通信方法であるスペクトル 拡散通信のシミュレーション,GPS受信機を用いての測位実験を行った.測位実験については場所や時間による測位精度の影響,捕捉衛星数による測位精度の影響などについて検 討した.

(8)複数音源が存在する環境における特定音声信号の抽出

この研究では,複数の音源が存在しさらに残響が残っている環境において,特定の音声信 号を抽出することを目的とした.手法としてはブラインド信号分離を用いた.一般のブラ インド信号分離問題では,センサから観測される信号には主とする信号源からの信号のみ が混合されていると仮定している.しかし,実環境では主とする音源のほかに環境によっ て存在する雑音が含まれる.この種の雑音も考慮して,ブラインド信号処理による分離精 度を向上させるために,前処理において雑音および残響を除去した.現時点ではまだコン ピュータシミュレーションの段階だが,シミュレーションの結果ではこのシステムの有効 性が確認できた.

(9)モデルデータと空間周波数を用いた視覚音声認識

音声情報と視覚情報を用いたバイモーダル音声認識において,音声認識の手法が確立され つつあるのに対して,視覚情報を用いた視覚音声認識にどのような手法を用いるべきかに ついてはまだ確立されていない.この原因は,発音情報を抽出することが困難であるため と思われる.そこで本研究では,唇の形状から得られるモデルデータと画像の空間周波数 を発音情報として抽出して,それらのデータを統合することで視覚音声認識における認識 率の向上を目指す。提案した方法によって音韻の単独認識実験をした場合の認識率は 92.4%,単語認識実験をした場合の認識率は98%になった.

(10)特徴点対応に基づく二次元画像から三次元情報の復元

この研究では,特徴をもとにした3次元情報の復元の体系的な研究を行い,それを実現す るための手法を提案した.因子分解法による復元のシミュレーションを行い,その性質を 理解した上で,実際にビデオカメラによる画像列からの復元を行った.実画像において, 特徴点の抽出にはSUSAN Corner Detecterを用いて高精度の特徴点を抽出した.対応付けには,カラーマッチングによるアフィン射影のエピポーラ幾何パラメータの自動推定法を提案した.このエピポーラ拘束による対応付けによって得られた対応点列を因子分解法によって復元し,物体形状を求めることができた.

(11)認識論的認識工学の提唱と四肢構造論によるその実装方法の検討

工学の世界では,認識する対象をあらかじめ決めておくのが一般的である.しかし画像に 移ったものが何であるかという情報が全くない時,その物体をどのように認識していくの だろうか.この研究では,工学と哲学とを結びつけ,人間が目の前にあるものをどのよう に認識していくかということを考慮しながら,それをコンピュータの画像認識に実装する にはどうしたらよいかという点について検討を行った.全く新しい分野の研究であり,ま だ十分な成果が出たとはいえないが,コンピュータによる物体認識への応用が期待できる.

発表論文・学会発表・特許申請など

原著論文

  • 田中敏幸,伊藤沢,宮下照夫:勾配方向許容角度を可変とした逐次検出型一般化Hough 変換による画像認識,パーソナルコンピュータユーザ利用技術協会論文誌,Vol.10, No.1,2000年5月,pp.3-10
  • 田中敏幸,提坂健太郎,鈴木秀一,宮下照夫:デルタ・シグマ変調を用いたスペクトル 拡散通信用DLLの性能評価,パーソナルコンピュータユーザ利用技術協会論文誌, Vol.10,No.1,2000年5月,pp.11-17
  • 田中敏幸,荻原大,宮下照夫:出力無相関化による音声信号のブラインド信号分離,パ ーソナルコンピュータユーザ利用技術協会論文誌,Vol.10,No.1,2000年5月,pp.19-27
  • 田中敏幸,三浦直美,宮下照夫:エコー画像からの左心室輪郭抽出,パソコンリテラ シ,第25巻,第9号,2000年9月,pp.49-54
  • 田中敏幸,杉森茂夫,上田典雅,宮下照夫:有限要素法を用いた内視鏡治療のシミュレ ーション,電子情報通信学会論文誌D-II,Vol.J83-D-II,No.9,2000年9月, pp.1926-1933
  • 田中敏幸,吉田訓之,國弘幸伸:輪郭抽出法に基づく顔面神経麻痺評価,Facial Nerve Research,Vol.20,2000年12月, pp.24-26
  • 田中敏幸,村瀬曜子,上家知郎:テクスチャー特徴による肉腫の照合,Medical Imaging Technology,Vol.19,No.1,2001年1月,pp.33-41

国際会議

  • Toshiyuki Tanaka, Yoko Murase: Classification of Sarcomas using Textural Features, 22nd Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine & Biology Society, No.MO-G307-5, July 2000

口頭発表

  • 田中敏幸,吉田訓之,國弘幸伸:輪郭抽出法に基づく顔面神経麻痺評価,第23回日本顔 面神経研究会予稿集,No.19,平成12年6月
  • 田中敏幸,吉田訓之,國弘幸伸:均等色空間を用いた領域抽出法の顔面神経麻痺評価へ の応用,2000年電子情報通信学会情報・システムソサイエティ大会講演論文集,D-16-6, 平成12年10月
  • 田中敏幸,鳥飼雅人:断層心エコー画像からの左心室輪郭抽出とその容積評価,第17回 センシングフォーラム講演論文集,4A-4,pp.159-162,平成12年10月
  • 山田健史,村瀬曜子,田中敏幸,白鳥世明:フラクタル次元を用いた電解質ポリマー交 互積層膜の微細構造評価,電気学会誘電・絶縁材料研究会資料,DEI-00-77,平成12年10 月
  • 田中敏幸:病理画像自動診断への一歩-肉腫パターンの定量化-,第7回慶応ライフフ ォーラム,2000年11月
  • 水谷開,田中敏幸:テクスチャ解析を用いた指紋画像の分類方法,第18回パソコン利用 技術研究発表会講演論文集,A‐9,pp.34‐37,平成13年3月
  • 武藤洋平,田中敏幸:2つの異種楽器演奏に対応した採譜システムに関する研究,第18 回パソコン利用技術研究発表会講演論文集,A‐10,pp.38‐41,平成13年3月
  • 藤田昌人,田中敏幸,宮下照夫:モデルデータと空間周波数情報を用いた視覚音声認識 に関する研究,電子情報通信学会2001年総合大会講演論文集,No. D-12-120,平成13年3 月
  • 尾留川昌平,田中敏幸,國弘幸伸:顔部品の輪郭抽出による顔面神経麻痺の評価,電子 情報通信学会2001年総合大会講演論文集,No. D-16-1,平成13年3月

学位論文

修士論文

  • 尾留川昌平:顔部品の輪郭抽出による顔面神経麻痺の定量的評価
  • 蔵野隆:複数音源が存在する環境における特定音声信号の抽出
  • 上家知郎:画像処理による皮膚腫瘍の核領域抽出
  • 藤田昌人:モデルデータと空間周波数を用いた視覚音声認識に関する研究
  • 深野良之:特徴点対応に基づく二次元画像から三次元情報の復元に関する研究

卒業論文

  • 伊東茜:画像処理による顔面神経麻痺の評価方法
  • 大野雄太:医用超音波画像からの形状抽出
  • 志水和樹:測位環境及び捕捉衛星がGPS測位精度にもたらす影響
  • 畑弓子:CT画像からの内耳の3次元再構築
  • 水谷開:テクスチャ解析を用いた指紋画像の分類方法
  • 武藤洋平:2つの異種楽器演奏に対応した採譜システムに関する研究
  • 宮本拓人:認識論的認識工学の提唱と四肢構造論によるその実装方法の検討

進路

伊藤忠テクノサイエンス,松下通信工業,キヤノン,セコム,東芝,慶応義塾大学大学院理工学研究科,東京大学大学院


Dept. Applied Physics and Physico-Informatics