2000年度 佐藤研究室

構成

教授
佐藤徹哉
大学院
小川知之(D2),篠原武尚(D1),渡辺裕(M2).小林久展(M1),佐々木裕文(M1),重宗正 行(M1),塚田雄一郎(M1),長崎博文(M1),林洋輔(M1),吉田充高(M1)
学部
樫原周一郎,菅原健,中村威信,水野藍,堀あずさ

研究成果

(1)スピングラス磁性に関する研究

  • 人間がものごとを連想的に記憶する仕組みには脳が持つ階層的な記憶構造が関与していることから,この特徴を磁性体に存在する階層性と関係付け,より人間に近い記憶が可能な記憶素子を実現することを目標としている.対象となる材料はスピングラス(以下SG)である.SGでは本質的に異なる記憶パターンを同時に複数個記憶させることが可能であり(多値記憶),記憶パターンとしてのスピン構造が階層的に関係 付けられること(連想記憶)が期待される. 本研究では半導体スピングラスを用い て,光学的手法によりキャリヤ濃度を変化させ,そのキャリヤを媒介とする磁気相互 作用の変化を通して異なるスピン構造の形成を試みている.試料としてはCdMnTe を用い,励起および非励起光を照射した際の磁化緩和過程にカオス性に起因する多値記憶が認められるか否かを調べている.現在の段階では光による相互作用の変化を検討できるだけの十分な分解能が得られていない.一方,光照射に伴う相互作用変化がより顕著に現れることが期待されるPbSnMnTeを作成し,キャリヤ密度と相互作用の関係などの基礎的な情報を得た.その結果,キャリア密度の増大に伴い転移温度が上昇し,磁気的相互作用作用が増加することを見出した.この結果より,PbSnMnTeは,本課題を遂行する上で適した試料と考えられる.
  • SG相が強磁性相の低温側に生じるリエントラントスピングラス材料には,強磁性相においてもSGと同様のカオス性などの特徴が観測されるが,その本質は理解されて いない.この特徴の起源を解明するために,これまで行ってきた中性子散乱とメスバ ウアー効果の結果を詳細に検討した.その結果,リエントラントスピングラスの強磁 性相では,非常に大きな揺らぎを持つスピンからなる領域が点在しており,その領域 の存在がカオス性などの特徴と関係することを見出した.

(2)薄膜物性に関する研究

  • リエントラントスピングラスNiMn薄膜の磁性に及ぼす近接強磁性Ni薄膜の影響について検討した.[Cu/Ni/Cu/NiMn/]薄膜を石英基板上に超高真空スパッタ装置により 作製した.中間層厚をパラメータとして3層膜の磁化の磁場依存性を測定した結果, 中間層が6Åになっても2つの磁性層が独立に反転することが確認された.また,単 層膜に比べてNiMnの一方向異方性が減少し,Niの保磁力が増加する傾向が確認され た.このNiMnとNiの磁気特性の変化は磁性層間の相互作用に起因することが明らかとなった.さらにこの変化は静磁結合で説明することはできないこともわかった.一 方,同様の試料に対して磁気抵抗測定を行った結果,Niの磁化反転に伴い,顕著な電 気抵抗の増加が観測された.これは巨大磁気抵抗効果に見られる特徴がスピングラス を含む多層膜で初めて観測された例である.
  • 非晶質CrFe合金薄膜では低温において電気抵抗が長時間にわたり振動する現象が報告されている.本研究では,その起源を検討するために2元同時蒸着法を用いて作 成条件を詳細に制御して非晶質CrFe合金薄膜を成膜することを目指した.結果的には薄膜X線回折では多結晶領域の存在を示すピークが確認された.低温下地で作成した薄膜では高磁場磁化率が大きく時間緩和に特異な2段階変化が確認された.これは試料が多結晶領域と非晶質領域の混合状態にあることを示唆する.以上より,高真空 度,オイルフリーの条件下では,下地温度を液体窒素温度に維持してもCrFeを非晶質化することは非常に困難であり,より低い下地温度と蒸着レートが非晶質化には必要であるとの結論を得た.
  • 紫外光照射により光励起親水化現象および光触媒反応を示す材料として注目を集めている酸化チタンをMO-CVD法を用いて作製した。また、X線回折、フォトルミネッセンス(PL)およびDLTS法による評価を行った。その結果、膜面垂直方向を(001)とし たエピタキシャル薄膜を得ることができた。PL測定から、2.3eV付近を中心としたブロードな発光が観測された。この発光は従来のアナターゼ型酸化チタンにおいて観測されたものと同様である。また、DLTS測定より、伝導帯下0.96eVに深い準位があることが分かった。これはアナターゼ型酸化チタンに対する新しい知見であり、DLTS法が酸化チタン中の欠陥を評価する有力な方法であることを示唆するものである。

(3)磁性微粒子の物性に関する研究

  • 超微粒子状態においてのみ強磁性を発生する4d遷移金属Pdに微量のFeを混入させたPdFe合金を超微粒子化し,その磁性の検討を通して,Pdの強磁性発生機構を検討す ることを目的とする.ガス中蒸発法により作成した試料を用い,高エネルギー加速器 研究機構放射光施設において,円偏光X線を用いたPdのL2、L3吸収端近傍でのX線磁気円二色性の測定を行い、サイズの変化に伴うPdの磁気モーメントの変化を検討した. その結果、平均半径90、133、154ÅのPdFe超微粒子内のPd1原子あたりの磁気モーメントは、それぞれ0.08、0.07、0.09μBであり、サイズの減少によって磁気モーメ ントが増大する結果が示唆された。また、磁気モーメントの軌道角運動量に起因する成分は平均半径90Åの微粒子試料では完全に消失したのに対し、スピンに起因する成分は増大することがわかった。これより、Pdの磁気モーメントの増大はスピンモーメントの増大によると考えられる.一方,これまでPdFe超微粒子では表面と内部コアの2重構造の存在が示唆されてきた.PdFe超微粒子の内部構造を明確にするために,磁場印加に起因する構造変化を極力抑えた低磁場での測定が可能な交流磁化率測定を行った。その結果、内部構造の存在を特徴付ける交流磁化率の温度依存性を得た.
  • スピングラス磁性のサイズ効果を検討するために,粒径の異なるいくつかのスピングラスAuFeの超微粒子を作成し,その磁気特性を検討した.直流磁化率の温度依存性と時間依存性の測定を行い、その動的性質から準静的なSG凍結温度を求め,その粒 径依存性を検討した。その結果、組成~14at.%Fe、粒径2.1nm, 2.9nm, 3.9nmの微粒子試料の凍結温度はそれぞれ40K, 42K, 55Kであった。超微粒子のSG転移温度は同一 組成のバルクの凍結温度75Kより低下しているが,薄膜試料と比較して転移温度の低下の割合が緩やかであった。この結果は超微粒子では薄膜と比較してリエントラントスピングラスの性質が現れやすくなることを示唆する.
  • 磁性微粒子集合体の磁気特性は,微粒子の磁気異方性と微粒子間の磁気相互作用と言う2つの要素により決定されるが,その振るまいは複雑であり,未だに不明な点が多い.本研究では,2つの要素の一方が支配的な磁性微粒子集合体が示す振るまいを検討するために,一軸異方性が強いCoと比較的弱いNiを超微粒子化し,微粒子間距離を制御することにより,異方性と相互作用の割合を変化させた試料を作成し,その磁気特性を検討している.

(4)磁性微粒子の応用に関する研究

  • 磁性微粒子含有リポソームを用いたドラッグデリバリーシステムDDS(drug delivery system)の開発を目的としている.DDSとは薬物を必要な場所に必要な時 間,必要な量を送達することによって,最適な治療効果を得ることを目的とする薬物 投与に関する概念である.本研究では,ドラッグキャリアとして,生体膜由来リン脂 質より構成されるリポソームに磁性微粒子を内包させたものを選択し,局所的な外部 磁場により磁性微粒子含有リポソームを標的部位に誘導させる手法を実験的に検討し,その結果に対して電磁気学,流体力学を基礎とした理論的評価を行っている.
  • 保磁力が異なる磁性微粒子を容易軸を揃えて累積することにより,垂直記録媒体および多値記憶媒体の作成を目的としている.磁性微粒子としてBaフェライトを用い,高分子との交互吸着を行うことにより,磁性微粒子配向累積膜の作成を試みた.その結果,透過電子顕微鏡観察からは配向性が観測されたが,磁気特性からは明確な異方性が認められなかった.これは,膜表面部分では高分子の収縮により微粒子が配向するのに対して,内部ではランダムな状態にあることを示す.この結果は,高分子の収縮を用いて1層1層を配向させながら累積を行うことで,膜全体の微粒子を配向させた試料を作成することが可能であることを意味する.

(5)測定装置の開発

  • 微粒子累積膜を用いた多値記憶媒体が実現した場合,情報の読み出し方法が問題となる.本課題では、磁気光学効果により多値記憶の読み出しを行うことを想定して、装置系の開発を行っている.光源として半導体レーザーおよび回折格子分光器 (Xe lamp)を用い,光弾性変調器により周期的な偏光面を変調し、試料の光学的な変化を測定する。検出器として光電子増倍管を使用し,信号はプリアンプで電圧に変換しロックインアンプで増幅した。光源の揺らぎ補正を行い,光検出器にフィードバ ックをかけることにより,分解能の向上を目指している.
  • 微粒子累積膜の磁気特性は,層内の微粒子間距離と層間距離に依存して複雑に変化することが予想される.このような磁気相互作用に起因する磁化の挙動を調べるには交流磁化率測定が有用である。本課題は薄膜試料での微小な変動を検出するために,SQUIDを用いた交流磁気測定装置を開発することを目的としている.作成した装置を用いて,液体ヘリウムをガスフローすることにより4.2Kから200Kまでの温度コントロールを実現した.また,素子部への外場の影響を除くためにNbによる超伝導管に より磁気シールドを施した。しかし,現状ではSN比が悪く磁気応答の検出にはいたっていない。
  • 複雑な磁気相転移を研究するためには比熱測定が必須である.本課題では,相転移の測定に適した交流比熱測定装置の作製を目的としている.作成した装置をPb薄片を標準物質として用いて評価した.その結果、十分に少量の試料に対して広い温度範 囲で10mKの温度分解能,相対誤差0.3%の精度で連続測定が可能であることが確かめられた。

発表論文・学会発表・特許申請など

論文

  • T. Ogawa and T. Sato, “Magnetic anisotropy of NiMn/Ni and NiMn/Cu/Ni thin films”, Acta Physica Polonica A 97(1)491-494(2000).
  • Mikiko Fukase, Yuuichi Tazuke, Hiroyuki.Mitamura, Tsuneaki Goto, and Tetsuya Sato, “Itinerant electron magnetism of hexagonal La2Ni7“, Materials Transactions, JIM 41(8) 1046 -1051(2000).
  • H. Nojiri, M. Motokawa, S. Takayama, and T. Sato, “Submillimeter wave ESR study of Cd1-xMnxTe”, Journal of Crystal Growth 214/215, 424-427(2000).
  • 佐藤徹哉,谷山智康,「磁性体の低次元化に伴って発現する磁気特性」材料科学 37 225-233(2000).
  • Takahira Miyagi, Tomoyuki Ogawa, Masayuki Kamei, Yoshiki Wada, Takefumi Mitsuhashi, Atsushi Yamazaki, Eiji Ohta, and Tetsuya Sato, “Deep level transient spectroscopy analysis of an anatase epitaxial film grown by metal organic chemical vapor deposition”, Japanese Journal Applied Physics 40, L404-L406 (2001).
  • Tetsuya Sato and Per Nordblad, “Dynamic scaling of reentrant spin-glass Ni(Pt)Mn near multi-critical point”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials(印刷中)
  • T. Shinohara, T. Sato and T. Taniyama, “X-ray magnetic circular dichroism of PdFe fine particles at Pd L2,3 edges”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials (印刷中)
  • B. Aktas, M. Ozdemir, Y. Oner, T. Sato, and T. Ando, “Thickness and temperature dependence of magnetic anisotropies of Ni77Mn23 films”, Journal of Thin Solid Film (印刷中)

査読付き国際会議論文

  • Y. Hayashi, T. Sato, and S. Shiratori “Multilayer of Ba ferrite particles for perpendicular magnetic recording media” Proceedings of the 8th International Conference on Ferrite, September 18-21, 2000, Kyoto, Japan.

口頭発表

  • Tetsuya Sato and Per Nordblad, “Dynamic scaling of reentrant spin-glass Ni(Pt)Mn near multi-critical point”, International Conference on Magnetism, August 6-11, 2000, Recife, Brazil.
  • T. Shinohara, T. Sato and T. Taniyama, “X-ray magnetic circular dichroism of PdFe fine particles at Pd L2,3 edges”, International Conference on Magnetism, August 6-11, 2000, Recife, Brazil
  • Tomoyuki Ogawa, Tetsuya Sato, Magnetic anisotropy of reentrant spin glass NiMn/Cu multilayer film, International Conference on Magnetism, August 6-11, 2000, Recife, Brazil.
  • H. Nagasaki, T. Ogawa, and T. Sato, Magnetoresistance and magnetic properties of NiMn/Cu/Ni thin film, 16th international Colloquium on Magnetic films and surfaces, August 13-18, 2000, Natal, Brazil.
  • 交互吸着によるBaFe12O19微粒子累積膜の作成 林洋輔,
    佐藤徹哉,白鳥世明 2000年9月 第61回応用物理学会学術講演会,北海道工業大学
  • Y. Hayashi, T. sato, and S. Shiratori “Multilayer of Ba ferrite particles for perpendicular magnetic recording media”, The 8th International Conference on Ferrite, September 18-21, 2000, Kyoto, Japan.
  • リエントラントスピングラス的(Mn1-zRhz)7Sn4の磁気相図,花井久徳,常盤直哉,安西修一郎,高山義康,佐藤徹哉 2000年9月 日本物理学会第55回年次大会,新潟大学
  • NiMn/Cu多層膜における磁気異方性の膜厚依存性,小川智之,長崎博文,佐藤徹哉 2000年9月 日本物理学会第55回年次大会,新潟大学
  • 非晶質CrFe薄膜の電気抵抗,磁気抵抗測定,渡辺裕,佐藤徹哉 2000年9月 日本物理学会第55回年次大会,新潟大学
  • Cr0.79Mn0.21Geのヘリカルースピングラス共存相における動的スケーリング,佐藤徹哉,Per Nordblad 2000年9月 日本物理学会第55回年次大会,新潟大学
  • リエントラントスピングラスNiMnと強磁性Niを含む薄膜に関する研究II,長崎博文,小川智之,佐藤徹哉 2000年9月 日本物理学会第55回年次大会,新潟大学
  • 光励起時のスピングラスのエイジング効果,小林久展,佐藤徹哉 2000年9月 日本物理学会第55回年次大会,新潟大学
  • PdFe超微粒子のX線磁気円二色性II,篠原武尚,佐藤徹哉,谷山智康 2000年9月 日本物理学会第55回年次大会,新潟大学
  • PdFe超微粒子のX線磁気円二色性III,篠原武尚,佐藤徹哉,谷山智康 2001年3月 日本物理学会第56回年次大会、中央大学多摩キャンパス
  • リエントラントスピングラスNiMn/Cu/Ni三層薄膜における磁気抵抗,小川智之,長崎博文,佐藤徹哉 2001年3月 日本物理学会第56回年次大会、中央大学多摩キャンパス
  • AuFeスピングラス超微粒子の磁性の粒径依存性,佐々木裕文,佐藤徹哉 2001年3月 日本物理学会第56回年次大会、中央大学多摩キャンパス
  • CrFe薄膜非晶質化に伴う電気抵抗振動現象,渡辺裕,佐藤徹哉,菅原健 2001年3月 日本物理学会第56回年次大会、中央大学多摩キャンパス
  • 多重臨界点近傍のリエントラントスピングラスNi(Pt)Mnの中性子偏極度解析,佐藤徹哉,武田全康 2001年3月 日本物理学会第56回年次大会、中央大学多摩キャンパス

特許申請

  • 国内1件

学位論文

修士論文

  • 渡辺裕: 二元同時蒸着法による非晶質CrFe薄膜作成条件の検討

学士論文

  • 菅原健:2元同時蒸着法により作製したCrFe合金薄膜の構造評価
  • 中村威信:磁気相転移研究のための交流比熱測定装置の作製
  • 水野藍:磁気異方性と磁気双極子相互作用の異なる超微粒子集合体の作製
  • 堀あずさ:磁性半導体Pb0.25Sn0.72Mn0.03Teにおけるキャリヤ密度と磁気相互作用の関係

進路

アジレント・テクノロジー, NTTドコモ, 慶応義塾大学大学院理工学研究科

研究助成

  • 泉科学技術振興財団,「Pd超微粒子における強磁性発生機構に関する研究」

Dept. Applied Physics and Physico-Informatics