2000年度 大橋研究室

1. 構成

教員:
大橋良子   
M2:
久保俊晴  
M1:
松石徹  
B4:
滝田敏夫、宍倉次郎、高岡正之、藤田健一、山本研

 

2. 研究成果

黒鉛薄膜の磁気抵抗効果に対するサイズの影響

磁気抵抗効果の磁場依存性は通常、磁場の冪乗nで表され、黒鉛薄膜の場合低温、強磁場領域ではバルク黒鉛の場合(n>1)と異なり飽和の傾向(n<1)を示すことを見い出した。一方室温では膜厚に関係なく測定した全磁場領域でn>1であった。高温(室温)における磁気抵抗効果の磁場依存性に対しては、格子振動の影響が支配的であるが、これは格子の周期性の乱れによると考えられる。したがって薄膜の結晶性が悪い場合は格子の周期性の乱れが多い筈で、低温においてもn>1である筈である。実験結果は上記に述べたようにn<1であった。この結果は薄膜特有の性質であり、サイズ効果であることが確証された。このサイズ効果は他の物性にも反映していることが予想される。

ニオブ/黒鉛複合系の超伝導近接効果に関する研究

昨年度に引き続き、黒鉛薄膜の厚さをパラメータとして超伝導転移温度を測定した結果、膜厚約50~100nmの範囲で、ニオブ/黒鉛複合系は、ニオブ単独膜の転移温度と異なる転移温度を示した。すなわちニオブ/黒鉛複合系の超伝導転移温度は、ニオブ単独膜の転移温度より高い値を示すものも認められた。これは従来の超伝導近接効果の理論では説明付けられない現象である。この現象を定量的に把握するためには更にデータの蓄積が必要である。

鉛/黒鉛二重薄膜における超伝導近接効果

本研究テーマは超伝導体としてニオブよりコヒーレンス長の長い鉛を使用した場合について、黒鉛との接合における超伝導近接効果に対する影響を調べることを目的としている。鉛はニオブ同様酸化し易いため、高真空中で、電子ビーム蒸着法により成膜した。膜厚は鉛のコヒーレンス長と同程度の80nmとした。黒鉛の膜厚は50~200nmの範囲であった。鉛単独膜については、導電性は見られなかった。これは、鉛が酸化し絶縁物になったためとかんがえられる。一方、鉛/黒鉛複合について電気抵抗の温度依存性は、1サンプルのみ超伝導転移の傾向を示したが、その温度は鉛のそれとほぼ等しかった。その他は黒鉛 単独膜の特性と同じであった。また、鉛単独膜について、XPSによる深さ方向の分析により、内部には酸化していない部分も残っていることが分かった。これらの結果を総合すると、鉛は島状構造であり、その一部は酸化されず、低温において一旦は超伝導転移を起こすが、その際島状の微小な鉛部分に電流が集中し、超伝導臨界電流を超えて超伝導状態が壊れてしまうため上記の結果になったと考えられる。

黒鉛薄膜の安定構造に関するシミュレーション

黒鉛薄膜を巨大分子と想定し、2層のグラファイトシートを重ねた系について分子軌道計算ソフト“MOPAC”を用いて構造安定性を検討した。系を構成する全炭素原子数は、炭素原子の六員環1個を最少としてその周りに六員環の輪を付加することによって段階的に炭素原子数を増加させた。パラメータとして、全炭素原子数、縁部分に位置する原子数と内部原子数の比、層間距離、積層様式等を用いて生成熱を計算し、安定構造を判定した。PCの性能により扱える炭素原子の数が限られており、グラファイトシート1枚当りの最大炭素原子数96個までの計算を行った。この原子数はグラファイトシートを構成している炭 素原子がシートの内部と縁部分をほぼ等分に占めている場合に対応している。計算の結果、縁部分に位置する原子が多い場合は層間距離が大で、対称的積層のほうが安定であるが、全炭素原子数が増加するにつれて、層間距離はバルク黒鉛のそれに近いほうが安定になり、バルク黒鉛型積層が安定になることが判明した。

微小黒鉛層の安定構造に関するシミュレーション

黒鉛結晶を巨大分子と想定するが、ここでは微小サイズのグラファイトの層を積層した系について分子軌道計算ソフト“MOPAC”を用いて構造安定性を検討した。系を構成する全炭素原子数、積層数、積層間隔等をパラメータとして生成熱を計算し、安定構造に関わる要因を判定した。PCの性能により扱える炭素原子の数が限られており、1層当たり54個の炭素原子から成る直径約12Åの微小黒鉛を6層まで積層した場合が最大となった。計算の結果、微小黒鉛の積層構造は安定に存在し得ることが判った。近年微小面積の黒鉛層が積層した‘コイル状黒鉛’が生成されたことは、このシミュレーションの正当性を裏づけるものである。

黒鉛の音響磁気電気効果測定に関する研究

黒鉛結晶の層面に平行に超音波を導入し、層面に垂直に磁場を印加すると、 超音波、磁場双方に垂直な方向に起電力が生じる。これは音響磁気電気効果と呼ばれている。当研究室で以前行った予備的実験では、液体ヘリウム温度においてこの音響磁気電気効果の磁場依存性が1テスラまで測定されたが、本研究においてはさらに5テスラまで測定範囲を拡大し、また同時に電流磁気効果も測定してキャリアに関する詳細な情報を得ることを目的として再開した。磁場には超伝導磁石を用いるため本年度はそれに合わせて新規に環境を整え、測定系の各部分を製作し組み立てた。

黒鉛薄膜のShubnikov – de Haas 効果

黒鉛薄膜の低温(ヘリウム温度)における電流磁気効果、特にホール効果の磁場依存性が振動的であることが、結晶性の良い証拠となっているが、これはShubnikov – de Haas効果として知られている。本研究においては、この振動特性を定量的に検討するために、1.8K におけるホール効果の磁場依存性を黒鉛薄膜の種々の膜厚について測定した。その結果、ホール効果と磁場の逆数のプロットから、振動の周期は膜厚に依存することが判明した。この振動の周期からフェルミ面の最大断面積が得られるが、黒鉛の層面に垂直に磁場を印加した場合、特に電子のそれは膜厚が数百Å以下の領域では、薄くなるにしたがって フェルミ面の最大断面積が増加する結果になった。この原因としては、フェルミ面の変形が考えられるが、印加磁場の方向を変えて測定を行い、フェルミ 面全体の形状を調べる必要がある。

3. 研究発表

  • Ohashi Y., Kubo T. and Shiiki K.: “Temperature dependence of galvanomagnetic effect of very thin graphite crystals”, EUROCARBON 2000 p479 – 480 (2000.7.13)
  • Sugihara K. and Ohashi Y.: “Size effect in the in-plane conduction of thin graphite “, EUROCARBON 2000 p309-310 (2000.7.12)
  • Ohashi Y., Hironaka T., Kubo T. and Shiiki K.: “Magnetoresistance Effect of Thin Films Made of Single Graphite Crystals”, TANSO 2000 (No. 195) p410 – 413

4. 学位論文

修士論文

  • 久保俊晴:ニオブ/黒鉛複合系の超伝導近接効果に関する研究

卒業論文

  • 滝田敏夫:鉛/黒鉛二重薄膜における超伝導近接効果に関する研究
  • 宍倉次郎:黒鉛の音響磁気電気効果測定系の製作
  • 高岡正之:2層ナノグラファイトの安定構造に関するシミュレーション
  • 藤田健一:多層ナノグラファイトの構造安定に関する研究
  • 山本 研:黒鉛薄膜のShubnikov – de Haas効果

5. 進路

慶大大学院基礎理工学研究科、松下電産、NTTドコモ、NTTデータ、トヨタ自工


Dept. Applied Physics and Physico-Informatics