2000年度 伊藤研究室

構成

専任講師
伊藤公平
訪問研究員(ポスドク)
Hyunjung Kim (日本学術振興会海外研究者招聘)、渡部道生 (日本学術振興会特別研究員)
大学院
森田 健(D2)、加藤治郎(D1)、田久賢一郎(M2)、 石川朋実(M1)、深津茂人(M1)
学部
秋山祐治(B4)、阿部英介(B4)、小島威裕(B4)、高橋智紀(B4)、山田利通(B4)、深澤健臣(B4)

研究成果

不純物半導体のドーピングによる金属‐絶縁体転位

本課題ではGe:Gaを用いた金属-絶縁体転移に関する物理を解明した。従来から行われている絶対零度への電気伝導度の外挿に疑問をいだき、有限温度スケーリング法を適用した結果、転移点1%以内では臨界指数μ≦1.2であることを新たに発見した。また、有限温度スケーリングでは、絶縁体試料が臨界指数0.5の理論曲線に全くのらないことがわかった。すなわち、これまでスケール可能だと思われていた広領域が、実はスケーリング理論と矛盾していることをつきとめた。さらに広域ホッピング伝導、誘電率、局在長に関する様々な 臨界指数を絶縁体試料を用いて決定、転移点近傍1%を境にμが0.5から1.2に変化するように、広域ホッピング伝導、誘電率、局在長に関するすべての臨界指数が転移点近傍1%を境に変化することがわかった。そこで、補償がないとされる我々のGe:Ga試料の臨界点1%以内で得られた様々な臨界指数を、強く補償されたGe:Ga,Asの様々な臨界指数と比較した結果、驚くことにすべての指数が完全なる一致を示した。この事実から、補償がないとされる不純物半導体の臨界点近傍で異なる臨界指数が得られる理由を、我々はわずかながら試料中に存在する補償の影響だと考えた。p型半導体にはわずかではあるが必ずドナー不純物が存在する。よって、臨界点近傍においてμ>1の領域が補償がないとされる不純物半導体で見出された場合、それは補償がない系の本質的な臨界指数ではなく、補償がある系特有の臨界領域であろう。この補償がある系特有の臨界領域は、補償比の大きさによって変化する。すなわち、ドナー濃度とアクセプタ濃度の比によって、臨界領域の広さが変化することを突き止めた。本研究の成果は、平成12年9月半導体物理に関する国際会議(ICPS-25)で招待講演として発表された。

同位体Si単結晶の熱伝導

本課題では28Siの同位体純度を99.92%まで高めた28Si同位体バルク単結晶を成長し、熱伝導度の評価を行った。通常のSi結晶中には28Si、29Si、30Siの3種類の安定同位体が存在し、それぞれの組成比は92.2%(28Si)、4.7%(29Si)、3.1%(30Si)と常に一定である。異なる同位体が同一結晶内に存在するということは、結晶を構成する格子点質量にばらつきがあることを意味する。これまで当研究室では 半導体中の同位体組成が物性値に与える様々な影響(同位体効果)について調べ、その過程においてゲルマニウム半導体中の同位体純度を高めることが熱伝導度の大幅な向上につながることを示した。その理由を定性的に述べると次のようになる。まず、熱伝導を高温 部から低温部への熱の拡散と定義する。金属の熱伝導度が一般的に高いのは、材料中を自由に移動できる電子が熱の移動に大きく寄与するからである。しかし、絶縁体や半導体といった電気伝導度が低い材料では電子濃度が低いため、結晶中の原子の振動(格子振動またはフォノンと呼ばれる)が高温部から低温部まで伝播することによって熱が運ばれる。熱い部分の原子が激しく振動し、その振動が低温部に伝播していく過程において、すべての原子の重さが同一であれば格子の波はきれいに伝播するが、結晶の中に複数の異なる質量(すなわち異なる同位体)が存在すると格子波の伝播は妨げられる。よって、同位体純度が高い結晶では熱伝導度が高く、複数の同位体が混在した結晶では熱伝導が低くなる。熱伝導に対する同位体効果を理論的に計算するのは非常に困難であるが、実験に基づく基礎研究は様々な材料に対する同位体効果を定量的に明らかにした。我々が注目するSiにおいても実験が行われ、99.7%の28Si薄膜の伝導度は天然のSi薄膜の伝導度より室温で60%、100℃でも40%高いことが示された。これらの実験結果をもとに熱伝導度のシミュレーションモデルを完成し、その詳細を解析している。

Ge同位体超格子、Ge同位体へテロ構造中のフォノン

従来の半導体超格子(Si/SiGe、GaAs/GaAlAs超格子等)は、江崎玲於奈等が開発した異なった物質を交互に成長させた人工格子であるが、この人工格子ではその電子と格子系を独立に制御することができなかった。我々は70Ge同位体と76Ge安定同位体を原子層単位で堆積した特殊人工格子、70Ge/76Ge同位体超格子の作製に成功した。この同位体超格子は各層の積層原子数を変化させることで、電子状態を変化せずにフォノンモードのみを系統的に制御することが可能である。それゆえ、この超格子は低次元半導体フォノン物理の研究としては理想的な系といえる。実験として、試料作製は、分子線エピタキシー法(MBE法)を用いて行われた。またラマン分光法を用いて同位体超格子中のフォノンの評価を行った。さらにPlanar Bond Charge Model (PBCM)を用いて同位体超格子のフォノンの振動エネルギーを計算しラマンスペクトルの解析を行った。70Ge/74Ge同位体超格子は、すでに我々とマックスプランクのグループで作製されている。しかし今回、重さの違いが大きい70Ge/76Ge同位体超格子を用いたフォノン・ラマン解析によって、超格子中には、従来の計算モデルでは予測できないモードがいくつか存在されることがわかった。これらのモードの詳細な解釈に関する研究は、現在遂行中である。 本研究は平成12年9月半導体物理に関する国際会議で発表された。現在は70Ge/76Ge同位体ヘテロ構造も作製し、そのフォノンをラマン分光実験、PBCM解析を用いて評価している。また、大阪大学のグループと共同で、フェムト秒光パルスによる同位体超格子中のコヒーレント フォノンの発生にも成功し、我々が測定したラマン分光の結果と比較検討された。このように、現在我々によって、低次元半導体フォノン・ラマン物理の研究が実験・理論の両面において進展中である。

シリコン酸化膜の形成過程および酸化膜中シリコン自己拡散に関する実験

シリコン酸化膜は、シリコンMOSFET (Metal-Oxide- Semiconductor Field Effect Transistor) デバイスのゲート酸化膜として使用 されている。このゲート酸化膜はシリコン表面の熱酸化によって作製され、Deal-Grove理論により説明されている。しかし、 Deal-Grove理論では酸化膜厚300Å以下の領域で実験値と一致しないことが当初から指摘されていた。このようなDeal-Grove理論の欠点を補うため、熱酸化過程においてシリコンがシリコン酸化膜中に放出されるモデルが数名により提案されている。しかしながら、これを実験的に確認した例が過去にない。そこで、本研究では同位体を目印としこれを確認する実験に着手した。 それと同時に、安定な同位体を目印としシリコン酸化膜中のシリコンの自己拡散の研究を開始した。我々の知っている限り熱酸化シリコン酸化膜中での自己拡散係数の正確なデータは存在しない。このデータが得られれば貴重なデータとなり、またシリコン酸化膜におけるシリコンの拡散過程の解明に繋がるであろう。

発表論文・学会発表・特許申請など

論文

  • H. Iwata and K. M. Itoh, “Donor and Acceptor Concentration Dependence of the Electron Mobility and the Hall Scattering Factor in N-Type 4H- and 6H-SiC,” J. Appl. Phys. 印刷中
  • J. Kato, K. M. Itoh, and E. E. Haller, “Electric Field Broadening of Arsenic Donor States in Strongly Compensated N-Type Ge:(As, Ga), ” Physica B, 印刷中.
  • K. M. Itoh and E. E. Haller, “Isotopically Engineered Semiconductors ? New Media for the Investigation of Nuclear Spin Related Effects in Solids,” Physica E, Vol.10, 463-466 (2001).
  • M. Nakajima, H. Harima, K. Morita, K. M. Itoh, K. Mizoguchi, E. E. Haller, “Coherent Confined LO Phonons in 70 Ge/ 74 Ge Isotope Superlattice,” Phys. Rev. B, Vol.63, 161304(R) (2001)
  • Michio Watanabe, Kohei M. Itoh, Youiti Ootuka, Eugene E. Haller, “Localization Length and Impurity Dielectric Susceptibility in the Critical Regime of the Metal-Insulator Transition in Homogeneously Doped P-Type Ge,” Phys. Rev. B, Vol. 62, R2255-R2258 (2000).

査読付き国際会議論文

  • K. M. Itoh, “Metal-Insulator Transition in Doped Semiconductors,” Proceedings of the 25th International Conference on Physics of Semiconductors, September 18-22, 2000, Osaka, Japan.
  • K. Morita, K. M. Itoh, M. Nakajima, H. Harima, K. Mizoguchi,Y. Shiraki, and E. E. Haller, “First- and Second-Order Raman Spectroscopy of 70Gen/76Gen Isotope Superlattices,” Proceeding of the 25th International Conference on Physics of Semiconductors, September 18-22, 2000, Osaka, Japan.
  • H. Iwata and K. M. Itoh, “Theoretical Calculation of the Electron Hall Mobility in n-typ 4H- and 6H-SiC,” in Proc. of ‘The Intnl. Conf. on Silicon Carbide and Related Materials,” edited by R. P. Devaty and G. Rohrer, Materials Science Forum 338-342, 729-732 (2000).

口頭発表

  • 半導体核スピンデバイス(招待講演) 伊藤公平 2001年春季 応用物理学関係連合講演会、明治大学
  • 同時ドーピングされた半導体中の電荷分布 加藤治郎、伊藤公平 2001年春季 応用物理学関係連合講演会、明治大学
  • 6インチSi上に成長された高品質3C-SiC単結晶の電気・光学的特性 山田利通、阿部英介、伊藤公平 2000年春季 応用物理学関係連合講演会、青山学院大学
  • n型4H-および6H-SiC中の電子移動度に関する理論的解析(招待講演) 伊藤公平、岩田一紗臣 SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第9回講演会、平成12年12月13~14日、名古屋国際会議場
  • 半導体スピンを用いた量子コンピューティング(招待講演) 伊藤公平 第15回「大学と科学」公開シンポジウム、平成12年11月22~23日、大阪・千里ライフサイエンスセンター
  • J. Kato, K. M. Itoh, and E. E. Haller, “Electric Field Broadening of Arsenic Donor States in Strongly Compensated N-Type Ge:(As, Ga), ” , The 9th International Conference on Shallow Level Centers in Semiconductors, September 24-27, 2000, Awajishima, Japan.
  • K. M. Itoh, “Metal-Insulator Transition in Doped Semiconductors,” The 25th International Conference on Physics of Semiconductors, September 18-22, 2000, Osaka, Japan. (招待講演)
  • K. Morita, K. M. Itoh, M. Nakajima, H. Harima, K. Mizoguchi,Y. Shiraki, and E. E. Haller, “First- and Second-Order Raman Spectroscopy of 70Gen/76Gen Isotope Superlattices,” The 25th International Conference on Physics of Semiconductors, September 18-22, 2000, Osaka, Japan.
  • K. M. Itoh and E. E. Haller, “Isotopically Engineered Semiconductors – New Media for the Investigation of Nuclear Spin Related Effects in Solids,” The International Conference on the Physics and Application of Spin-Related Phenomena in Semiconductors, September 13-15, 2000, Sendai, Japan.
  • 28Si単結晶-次世代ウエハー材料としての展望-(招待講演) 伊藤公平 日本結晶成長学会バルク成長分科会第45回研究会、平成12年5月19日、長野市
  • 同位体分離による高熱伝導度シリコン単結晶とその応用(招待講演) 伊藤公平 応用物理学会分科会・シリコンテクノロジー、平成12年4月24日、青山学院大学

その他(記事 、新聞発表)

  • 2001年1月8日 The Nikkei Weekly “Universities open up tech-transfer market”
  • 日経サイエンス2001年1月号裏表紙「21世紀の担い手たち」欄・伊藤公平
  • 2000年10月23日 日本経済新聞朝刊「海外企業に技術移転術高速半導体、TLO通じ」
  • 2000年10月13日 日刊工業新聞「量子コンピュータ技術 豪サイレックス社に移転」
  • 伊藤公平「次世代コンピュータのためのシリコン単結晶」パリティ 2000年8月号  Vol. 15, pp. 34~35.

特許申請

国内1件、国外2件

学位論文

修士論文

  • 田久賢一郎:FZ法による高純度28Si同位体バルク単結晶の成長と評価

学士論文

  • 秋山祐治:半導体中ドナー電子緩和時間の見積もり
  • 阿部英介:光熱イオン化分光法による半導体薄膜試料の評価
  • 小島威裕:シリコンおよびゲルマニウム融液の自己拡散における物理的特性の解明
  • 高橋智紀:シリコン熱酸化膜におけるシリコンの自己拡散係数
  • 山田利通:表面研磨がGe中の浅い不純物に及ぼす影響に関する研究
  • 深澤建臣:半導体SiGeCのラマン分光法による評価

進路

ソニー, 慶応義塾大学大学院理工学研究科

研究助成

  • 科学技術振興事業団・さきがけ研究21,「同位体制御による半導体物性デザイン」
  • 日本学術振興会・科学研究費補助金・基盤研究(B) 「熱中性子ドーピングされた同位体Ge半導体中の金属-絶縁体転移」
  • 文部省・科学研究費補助金・萌芽的研究 「高純度28Siバルク単結晶成長」
  • 東電記念科学技術研究所研究助成「同位体組成を制御したSi結晶の熱伝導度及び 中性子ドーピングに関する研究」
  • 新世代研究所・研究助成「Si同位体超格子の電子・光・格子物性」

Dept. Applied Physics and Physico-Informatics