2001年度 武藤研究室

当光物性研究室では以下のような項目の研究を行ってきており,光物性の基礎とオプ トエレクトロニクスの分野への応用との橋渡しを心がけてきた.

[A]Fundamentals of dye laser dyes

[B]Dye laser properties

[C]Film growth and crystallization

[D]Fundamentals of electrochromic display with phthalocyanines

[E]Fundamentals of solar cells

[F]Photo-detection

[G]Crystal growth ands zone refining of anthracene

[H]Schottky cell properties

光物性、特にその応用を念頭に置いた分野においては未だ成書が現れてきていない. これは光の応用面から脚光を浴びる領域が,時代とともに変わってきており,それに 伴い要求される基本的な分野が変化してくることにも一因がある.このことが問う研 究室で取り上げてきた課題のvarietyを増すことにもなってきている.現在行われて いる課題の概要を以下に示す.

当研究室の研究状況

2-6族化合物半導体薄膜に関する研究

蒸着CdSe膜の評価(構造的,光学的,電気的性質と熱処理効果

蒸着CdSeはオプト エレクトロニクスにおいて種々応用がされてきている.しかしながら蒸着CdSeの基礎 的研究は1μm以下の薄膜に集中しており,μmオーダーの膜については応用はされて いるものの,それを支える基礎研究が少ない.本研究ではμmオーダーのCdSe膜の構 造的,光学的,電気的特性を求めた.その結果,膜はwurtzite構造で,主にc軸配向 をしており,禁止帯幅は1.65eVであった.他方,電気的特性の温度依存性より,伝導 性は全領域でn型であり,伝導電子の供給源は低温では主に格子間Cd,高温ではSe空 格子点であり,低温では不純物散乱が,高温では結晶粒界散乱が支配的であることを 確認した.また,低温領域での活性化エネルギーεとキャリア数密度nとの間にSi単 結晶などの浅い不純物についてで認められているε∝n-1/3 の関係がここでも成り立っ ていることを見出した.この効果不純物濃度は励起伝導電子とイオン化不純物との相 互作用として理解される.

○黒川,武藤,”蒸着CdSe膜の作製及び評価”日本材料科学会学術講演会(2000.5,工 学院大)

○黒川,武藤,”真空蒸着CdSe膜の作製及び評価” 第48回応用物理講演会(2001.3.明 治大学)

○J.Muto,A.Kurokawa,”Properties of micron meter-thick CdSe prepared by vacuum Deposition” to appear in J.Mater.Sci.Mater.in Electron.

蒸着CdSeTe(1-x)膜の性質

CdSeTe(1-x)はx=1から0に変化させることにより,その禁止帯幅Eg(直接遷移 型)を1.5から1.7eVの範囲で連続的に変化できる.われわれは,2-5μmの蒸 着CdSeTe(1-x)膜を作製し,その構造的,光学的,電気的性質を調べ種々の結 果を得た.その主なものは,  Egの値はxに対してx=0.5-0.6eVで最小点を持つ弓形 を示し,この特性のbowing factorがxの関数として求められた.キャリア密度 もx=0.5付近で最小値を持ち,Teが多いとp型、Seが多いとn型を示し,電気伝導は結 晶粒界散乱に支配されている事が分かった.このような比較的厚い蒸着膜に対する諸 特性が系統的に得られたことは,例えば同じEgの値を持つが伝導の異なったp型とn型 の膜の利用など,オプトデバイスにとって有用な情報が得られた.

○宮崎,山根,武藤、”蒸着CdSeTe(1-x)膜の作製と性質”第48回応用物理講演 会(2001.3.明治大学)

○宮崎,山根,武藤(Z.Miyazaki,S.Yamane,J.Muto),”蒸着CdSeTe(1-x)膜 の性質(Properties of CdSeTe(1-x)Films)”材料の化学と工学(J.Mater.Sci. Soc.Japan ) 39(2002)74.

電着(Electrodeposition)法による化合物薄膜成長

CdS膜は光センサー,ヘテロ接合太陽電池等応用が多い.当研究室ではCdS膜をメッキ 法の変形であり大掛かりな装置を必要としない低コストな所謂電着法 (electrodeposition)で作製してきており,種々の結果を得ている.電着膜作成法 には定電流(galvanostatic)定電圧(potentiostatic)法があり,さらにCW(continuous wave)とPW(pulse wave)がある.ここにPW法は及びその周期など作製条件の自由度 が多いため,これらを最適化することによりよりよい膜作製が可能になるといわれて いる. 従来CdSの定電圧PW法は高温でしか行われてこなかった.そこで当研究室では より容易に作れる室温定電圧PW法での膜作製条件を調べ,最適条件で作製された膜に 空気中300℃で熱処理を行ったところ,CW法の場合より組成比,構造,光学的性質等 においてより良い膜成長が得られた.

○真垣,武藤,”室温パルス電着法によるCdS薄膜の作製と評価”日本材料科学会講演 会(2001.5工学院大学)

○真垣,武藤,”Vaを変化させた室温パルス電着CdS薄膜の作製と評価”日本材料科学 会講演会(2002.5工学院大学)

なお、CdS/CuInSeヘテロ接合太陽電池を念頭にCuInSe2電着膜の作製を試み、最適 電着条件を割り出している.

太陽電池に関する研究

太陽電池は一般に用いられているSiホモ接合型固体太陽電池のほかに,固体のヘテロ 接合型太陽電池,また液体型ではPEC(Photo-electro-chemical Cell)やグレッチェル・ セル(Gratzel cell)がある.しかしながらこれらの太陽電池はほとんど実用化されて おらず、基礎的な研究が求められてきている.当研究室では,薄膜太陽電池として のCdHgSe化合物薄膜光電気化学(PEC)太陽電池、CdS/CuInS,CdTeヘテロ接合太陽電池、 また従来の太陽電池とは異なった機構で動作するグレッチェルセルの解析を行ってい る.

CdHgSe化合物薄膜光電気化学(PEC)太陽電池 湿式太陽電池

PECSC(Photoelectrochemical solar cell)としては,CdSeが高効率をあ げているが,その禁止帯の値からも分かるように,赤外領域の感度が鈍い.他方, PECを薄膜化した場合,安価で容易に作製できる電着膜の利用が期待できる.我々は、 HgをCdSeにドープしたHgxCd(1-x)Seを全電着法で作製し、PECSCを作製,最適Hgの量, 電着条件,膜厚,電解液条件を定め,評価を試みたところ効率の向上が認められ,と くに100mWでAM2の擬似太陽光照射においては6%程度の効率を得た.  なお,PEC 太陽電池の光電面をPpyで覆うことによる安定化を実現している.

○ J.Muto,M.Kurashige,”Photoelectrochemical Solar Cells(PECSC) with Mercury Cadmium Selenide Electrodes” Electrochemistry,70,(2002)488.

グレッチェル・セル(Gratzel cell)太陽電池の解析

グレッチェル・セルは光電極面がTiOのような数十ナノメータの大きさの広いバン ドギャップを有する半導体及びその表面に付着した色素の集合から成り立っているの で,ナノメータ・テクノロジーの観点から種々の実験的研究がなされている.しかし ながら,その動作原理となると,ほとんど解明されていない.我々は、このセルにお いてナノメータの色素/半導体光電面が電子の発生に,また対極と電解液間の内部電 位が障壁として役立っているとの観点から,光電気化学的な面から電解液中の各種イ オンの拡散,電荷移動,対極面での酸化還元反応に伴う電子の移動を踏まえた解析を 行っており,電解液の光吸収のこの太陽電池の特性に与える効果を明らかにしている. ここには固体半導体太陽電池の解析では認められない電解液固有の諸性質が含まれて いる.また外部回路の影響についても解析を行っている.これらの効果を明らかにす ることは今後,グレッチェル・セル(Gratzel cell)太陽電池をどのように改良すれば より良い特性が得られるかの指針を与えるものである.  グレッチェル・セルの効 率向上には、ナノサイズのTiO粒径に分布を持たせ実効的な光路を増加させること が言われている.本研究室では純光学的に照射光がセル内を多数回通ることによるこ のセルの効率上昇を吟味している.

化合物薄膜ヘテロ接合太陽電池の基礎研究

上記電着膜n-CdSを窓材として用い,光吸収材として電着,或いは蒸着によるp-CdTe を用いた場合の太陽電池としての特性を吟味している.現在電着が試みられてい るCuInS2との組み合わせにより,ヘテロ接合太陽電池としての特性の向上をもとめて いる. その他   実際に太陽電池を用いる場合,単一の素子では出力電圧,電流とも限りがある.実際 に用いるにはこの単一素子を直並列に繋いだ太陽電池アレーが必要になってくる.と ころが,このアレー状太陽電池はその総合的特性が一部の太陽電池が故障ひたり,陰 になると変化してしまう.実際に太陽電池アレーを用いる場合はこの効果を十分心得 て用いる必要がある.本研究室ではこの効果を解析し,実際どのように特性が変わる のか,またその変化を最小にする為には単一太陽電池の特性をどのようすればよいか を吟味している.

学生の動向

[修士]

木村隼人[太陽電池材料CuInSe電着膜の作製・評価]

黒川敦雄[蒸着CdSe膜の評価]

宮崎然[蒸着CdSexTe(1-x)膜の性質]

[学部]

尾瀬徳洋[電解水溶液からのCdSおよびZnCdS電着膜の作製]

斉藤秀人[電解液から作製したCdSおよびZnCdS電着膜の性質]

関一樹[保護ダイオードを含む太陽電池アレーの解析]

中野克哉[ポリピロール修飾したCdSeTe PECセル]

星野英[反射電極,反射板を用いたGratzel型太陽電池効率向上の一解 析]

山口英之[CdSおよびZnCdS/CdTeヘテロ接合太陽電池の試作]

―[]内は修士論文,卒業論文の題名を示す.―

進路

NEC
豊田自動織機
島津製作所
慶應院進学4名
野村證券
キャノン販売


Dept. Applied Physics and Physico-Informatics