構成

専任講師 田中敏幸

修士2年 田上泰之,鳥飼雅人,俣野友宏,村瀬曜子

修士1年 大野雄太,志水和樹,鈴木寿晃,畑弓子,樋口正憲,水谷開,武藤洋平

学部 伊藤千恵,高村淳一,鳥居哲,根本順子,原かおり,水村仁美,山嵜紗洋子,山田怜奈

研究成果

(1)核領域の輪郭抽出による肉腫の病理的診断

この研究では、非上皮系の腫瘍である皮膚線維腫と隆起性皮膚線維肉腫の核領域を抽出するにあたり、異型細胞が比較的多く存在する点、境界不明瞭な核が比較的多い点、染色度の異なる濃い核と薄い核が存在する点を考慮して、次の3点に重点を置いた核領域システムを提案した。

(i)任意の形状を抽出することが可能である。

(ii)濃い核領域も薄い核領域も抽出することが可能である。

(iii)ある程度の強度を持つエッジに囲まれた領域を抽出する これらの3点の実現のために、前処理として色相を利用したコントラスト強調を行い、部分画像分割法にラプラシアンヒストグラム法と大津の閾値法を組み入れた閾値決定法によって核領域抽出を行った。さらに、複数の核が重なり合って抽出された領域に対してWatershedアルゴリズムを用いた核分離処理を行った。そして本システムで抽出された核領域の領域数、面積分布、形状分布を用いて皮膚線維腫と隆起性皮膚線維肉腫の悪性度の評価を行った。悪性度の評価は、医師の診断と強い相関があり、医療現場での使用が期待できる。

(2)エコー画像からの胎児の頭部領域抽出

産婦人科では,胎児の検査を行う場合にエコー検査が用いられる.この検査は非侵襲的であり,リアルタイムの画像表示ができることから,胎児を診断するのに適している。この検査により胎児が頭の大きさから妊娠何週目かがわかり,また胎児に何らかの異常がないかどうかを確認することができる.しかし,エコー画像は画質が悪く患者から見てその画面のどの部分が頭なのかさえわからないことも少なくない.そこで,胎児の頭の部分などを自動的に抽出することが必要となる.ここでは,動的輪郭モデルSNAKEを用いて胎児の頭の形状を抽出した.また頭部の周囲長から妊娠何週目であるかを自動的に判別した.さらに今年度は、産婦人科医師が診断した結果と、形状抽出による妊娠週数の計算結果とを比較して、修士論文としてまとめた。

(3)ブラインドセパレーションを用いた2楽器の演奏によるWAVEデータからのMIDIデータ自動作成

この研究では8種類の楽器を対象として、任意の2楽器の演奏によるステレオのWAVEデータからのMIDIデータの自動作成を行った。自動採譜を行う際に楽器ごとに異なる閾値を設けたり、楽器の倍音情報をあらかじめ与えたりする必要が無いシステムを構築し、その有効性をコンピュータ・シミュレーション、室内での実環境実験を通して検証した。コンピュータ・シミュレーションでは、2楽器が同じ音高の音を演奏している状況や、オクターブ関係にある音が演奏されている状況も含めて4種類の混合条件の下で自動採譜を行った。ランダムな単音演奏同士の混合で96.0%-99.0%、ランダムな複音演奏とランダムな単音演奏の混合で93.8%-96.4%、オクターブ関係の音を含む複音演奏とその演奏と重なりを多く持つ単音演奏の混合で85.4%-92.5%といずれの場合においても高い精度で自動採譜を行えた。また、Extended HJ法による音源分離が不十分な場合に分離度を改善する方法を考案し、分離が不十分なデータから5.93dB-7.93dBの改善を得ることができた。室内での実環境実験では、実際に本研究が使用される場面を想定した3通りの条件下で自動採譜を行った。ランダムな単音演奏同士の混合で71.6%-88.7%、ランダムな複音演奏とランダムな単音演奏の混合で71.9%-89.1%の採譜率を得ることができ、実環境においても本研究の自動採譜が有効であることを示せた。

(4)搬送配送を用いた逆GPS測位

逆GPS方式はGPSの送信と受信の関係を逆にした測位方式である.GPSが送信局である4つの衛星から被測定局にスペクトル拡散信号を送信するのに対して,逆GPS方式は被測定局が送信局となり4つの受信アンテナを持った受信局で測位を行う.逆GPSはITSにおける車両位置測位システムとして研究が行われている.GPSや逆GPSでの測位精度は送信信号の波長またはチップ長に依存する.このため,拡散符号よりも波長の短い搬送波を用いた方が精度がよく,GPSでは既に搬送波による測位が用いられている.そこで搬送波を用いた測位を逆GPSに利用して,逆GPSの精度を上げることを考える.しかし,搬送波を用いて測位を行うと整数値バイアスの問題が生じる.これを解決する方法として,受信アンテナを5本に増やす方法と,2つの周波数を用いる方法を提案した.実際に搬送波を用いた逆GPSのシミュレーションを行った結果,これらの方法で整数値バイアスが決定できることが示された.また,拡散符号を用いた場合水平方向の測位誤差が2drmsで65.37mだったのに対し,搬送波を用いると1.267mとなり,搬送波を用いることで精度が大きく改善された.以上の結果から逆GPSに搬送波を用いることが有効であることが示された.次に,逆GPSの誤差要因としてマルチパスをとりあげた.地上で送受信を行う逆GPSではGPSに比べてマルチパスの影響を大きく受けると考えられるため,マルチパスの影響を除去することが重要である.そこで,マルチパスを除去する方法として適応フィルタを用いる方法を提案した.適応フィルタによるマルチパス除去のシミュレーションを行った結果,逆GPSにおいてマルチパスの影響を軽減できることが示された.

(5)画像処理を用いた顔面神経麻痺の客観的評価法

日本では,顔面神経麻痺の診断に40点法というものが用いられているが,麻痺の程度を時系列で見る場合に十分な結果が得られないことが知られている。そこで,画像処理の手法を用いて顔の特徴抽出を行い,顔面神経麻痺の指標を求めることを目的とした。昨年度までの研究では、「歯をイーと見せる」表情運動を行った場合特に唇の形状が誤認識されてしまうという欠点があった。同様な誤認識が他の表情運動でも起こり、結果として取得した画像の40%ほどの画像でしか評価値を得ることができなかった。今年度は、Godlove色差式を用いることによってご認識を減らすことに成功した。照明などの不確定要素があるにもかかわらず、8割以上の画像を解析することができた。証明などを工夫することによって実際の医療現場での使用も可能であると考えられる。

(6)超神経鞘腫の三次元再構築による体積診断と腫瘍径パラメータの検討

耳鼻咽喉科では、内耳にできる聴神経鞘腫の病理診断は、CT画像およびMRI画像により病状の進行度を分類し、その治療方針を確立していくために重要とされている。しかし、聴神経鞘腫の腫瘍径の計測方法、算出方法が、医師によって異なっており、国際的定義が確立していないのが現状である。この研究では、三次元再構築により、腫瘍の立体形状を視覚的、数値的に把握し、聴神経鞘腫の形状パラメータを導出し、診断支援を行うことを目的とした。算出した体積と既存のパラメータ、提案パラメータをグラフ形状、相関係数を用いて比較・検討し、有効な腫瘍径パラメータの計測方法、算出方法を定義することができた。また、腫瘍輪郭データより三次元再構築を行い聴神経鞘腫の外形を三次元的に把握することができた。

(7)虹彩のテクスチャを用いた個人認証

近年、ICカードやインターネットを利用した電子商取引が日常化してきている。こりに伴い、個人認証が非常に重要なものとなってきている。そこで本人であるかどうかを確認する方法として指紋や虹彩といった個人の生体情報を用いて本人を確認するバイオメトリックスという方法が注目されている。この研究では、高精度でありながら高コストのため高セキュリティ応用に限定されている虹彩認証に注目した。一般的な虹彩認証装置は虹彩を撮影し、虹彩画像の濃淡画像からアイリスコードを取得し、登録コードと入力コードのデータマッチングを行い本人判定を行っている。この研究では、虹彩の撮影を特殊な機器などではなく一眼レフカメラを用いて行うことから始めた。虹彩をテクスチャとして捉えて、テクスチャ解析から得られる特徴量のマッチングで本人判定を行った。結果として、80%の本人認証率が得られた。まだ、改善の余地があるが、不鮮明な虹彩画像でも、テクスチャ解析による分類がある程度まで可能であることがわかった。

(8)測位環境及び捕捉衛星がGPS測位精度にもたらす影響

GPSは米国国防総省により開発された人工衛星による測位システムである。GPSは手軽で信頼性の高い測位システムとして民間にも広く普及している。実際の測位では、測位点・時間によって計算に用いる衛星の配置が異なる。この研究では、測位実験・シミュレーションを行い、どのような誤差原因が測位精度に影響を与えているかを衛星配置という点に注目して考察した。衛星配置によって、測位計算に仰角の低い衛星を用いなければならない場合がある。このような場合、測位精度を悪化させることがあるということがわかった。仰角が低い衛星では、電離層・対流圏伝播遅延誤差が増大するというのが原因である。また、シミュレーションでシフト方向を導き出すことができたことにより、今後、衛星配置から単独測位精度改善のための補正を行うことも可能である。

(9)画像処理による天疱瘡の紅斑定量法

天疱瘡とは皮膚および粘膜に破れやすい水疱が多発する自己免疫性水泡性疾患である。この水疱が容易に破れびらんを形成する。現在、天疱瘡の診断ではカルテに紅斑の状況をスケッチし、その補足として簡単なメモを書く程度である。そのようなカルテでは病状を正確に記すのは難しい。そして、病気の進行度を客観的に示すことができない。このように病気の進行度を示す客観的な指標がないため医師が経験に基づき診断を行っているのが現状である。そこで本研究は、背中にできた天疱瘡の画像より画像処理を用いて紅斑の面積・色を抽出し、これより天疱瘡の進行度を求めることを目的とする。実験から画像によっては、かなり精度よく紅斑を抽出することができた。これより紅斑の面積を正確に求めることができ、そしてその部分の色情報と合わせて進行度を計算することができた。以上より紅斑の定量として本研究の紅斑抽出法が有用であることがわかった。今後は医師とディスカッションを重ね、医師の診断に沿ように進行度の計算方法を改善していきたい。

(10)画像処理による悪性黒色腫の病理的形状評価

本論文では、母斑細胞母斑および悪性黒色腫の形状特徴を客観的かつ定量的数値として求めるための研究の成果について報告した。 両者の形状特徴の違いを検討し、核の形状特徴の相違に注目した特徴量を求めることとした。そこで、核領域抽出システムを作成し、母斑細胞母斑と悪性黒色腫の病理組織画像をサンプルとして核領域抽出実験を行った。その結果、本システムは母斑細胞母斑と悪性黒色腫の核領域のうち、ある程度の強度を持った境界に囲まれ、任意の濃度を持つ領域を抽出することが可能であることを確認した。また、核形状特徴の指標として核の面積・円形度・輪郭点から重心までの距離の分散を提案し、本システムによる核領域抽出結果をもとにそれぞれの形状特徴の分布を求めたところ、両者の鑑別基準の定性的な記述に従う結果が得られた。したがって、これらの指標により母斑細胞母斑および悪性黒色腫の形状特徴を客観的かつ定量的な数値として表すことが可能である言える。このことにより、本システムが診断に有効な客観的指標として応用できる可能性があると考えられる。 しかし、本システムの有効性を確認するためには、より広範囲のサンプルに対して適用することが必要である。また同時に、少ないサンプルの中でも失敗した例がいくつかあるため、その解決方法も考えていかねばならない!

発表論文・学会発表・特許申請など

原著論文

  • 田中敏幸,鳥飼雅人:断層心エコー画像からの左心室輪郭抽出とその容積評価,パーソナルコンピュータユーザ利用技術協会論文集,Voi.11, No.1, 2001年3月, pp.69-74
  • 田中敏幸,伊藤弘章,宮下照夫:仮想内視鏡手術システムのための内臓モデル変形・切断アルゴリズム,電子情報通信学会論文誌D-II,Vol.J84-D-II, No.12, 2001年12月, pp.2662-2671
  • 田中敏幸,尾留川昌平,國弘幸伸:輪郭抽出法による顔面神経麻痺の定量的評価,FACIAL NERVE RESEARCH VOL.21,2001年12月, 82頁~85頁
  • 水谷開,田中敏幸:テクスチャ解析を用いた指紋画像の分類方法,パソコンリテラシ,第26巻,第11号,2002年3月,38頁~42頁

国際会議

  • Toshiyuki Tanaka, Shohei Orukawa, Takanobu Kunihiro : Quantitative estimation of facial palsy by contour extraction of facial features, 9th International Facial Nerve Symposium, July 2001
  • Toshiyuki Tanaka, Akane Ito, Takanobu Kunihiro : Objective Estimation of Facial Palsy based on Nasolabial Fold, 9th International Facial Nerve Symposium, July 2001
  • Toshiyuki Tanaka, Masato Fujita, Teruo Miyashita : Visual Speech Recognition using Model Data and Spatial Frequency Information, IASTED International Conference on Visualization, Imaging, and Image Processing 2001, 326-148,pp.571-576,September 2001
  • Toshiyuki Tanaka, Yoshiyuki Fukano, Teruo Miyashita : Feature based Methods for 3D reconstruction from Images, IASTED International Conference on Visualization, Imaging, and Image Processing 2001, 326-160, pp.250-255,September 2001
  • Toshiyuki Tanaka, Tomoo Joke, Teruaki Oka : CELL NUCLEUS SEGMENTATION OF SKIN TUMOR USING IMAGE PROCESSING, 23rd Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine & Biology Society, 2001年10月
  • Toshiyuki Tanaka, Shohei Orukawa, Noriyuki Yoshida, Takanobu Kunihiro : QUANTITATIVE EVALUATION OF FACIAL PALSY BY CONTOUR EXTRACTION OF FACIAL FEATURES, 23rd Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine & Biology Society, 2001年10月
  • Toshiyuki Tanaka, Shohei Orukawa, Takanobu Kunihiro:Indices of facial features obtained from contour extraction with image processing and its application to objective estimation of facial palsy, The Keio Journal of Medicine, Vol.50, Supplement 4, p.72, 2001年10月

口頭発表

  • 田中敏幸、尾留川昌平、國弘幸伸:輪郭抽出法による顔面神経麻痺評価の定量的評価,第23回日本顔面神経研究会予稿集,平成13年6月
  • 村瀬曜子,上家知郎,田中敏幸,岡輝明:画像処理による皮膚腫瘍の核領域抽出,2001年電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集,D-16-5,平成13年9月
  • 鳥飼雅人、田中敏幸:エコー画像からの胎児の頭部形状抽出,2001年電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集,D-16-6,平成13年9月
  • 志水和樹,田中敏幸:GPS単独測位精度評価及び捕捉衛星変化が測位精度にもたらす影響,第18回センシングフォーラム資料,2A-2,pp.41-46,平成13年10月
  • 俣野友宏,田中敏幸:搬送波位相を用いた逆GPS測位,第18回センシングフォーラム資料,3A-2,pp.119-122,平成13年10月
  • 伊藤千恵,田中敏幸:虹彩のテクスチャを用いた個人認証,第19回パソコン利用技術研究発表会講演論文集,C-3,平成14年3月
  • 田中勝,小林誠一郎,西川武二,水谷開,田中敏幸:悪性黒色腫および母斑細胞母斑におけるダーモスコピー像の画像解析,日本皮膚科学会東京地方会,平成14年3月
  • 武藤洋平,田中敏幸:2つの異種楽器演奏に対応した採譜システムに関する研究,2002年電子情報通信学会総合大会講演論文集,A-10-12,平成14年3月
  • 樋口正憲,田中敏幸:位相限定相関法による手の静脈パターンを用いた個人認証,2002年電子情報通信学会総合大会講演論文集,D-12-19,平成14年3月
  • 畑弓子,田中敏幸,國弘幸伸:MRI画像からの聴神経鞘腫の三次元再構築と形状パラメータ導出,2002年電子情報通信学会総合大会講演論文集,D-16-9,平成14年3月
  • 根本順子,田中敏幸,國弘幸伸:特徴量抽出による顔面神経麻痺の客観的評価法,2002年電子情報通信学会総合大会講演論文集,D-16-9,平成14年3月
  • 鳥居哲,田中敏幸:画像処理を用いた天疱瘡の紅斑定量法,2002年電子情報通信学会総合大会講演論文集,D-16-20,平成14年3月
  • 水谷開,田中敏幸:画像処理を用いた悪性黒色腫の診断方法,2002年電子情報通信学会総合大会講演論文集,D-16-22,平成14年3月
  • 山田怜奈,田中敏幸,田中勝:画像処理による悪性黒色腫の病理的診断,2002年電子情報通信学会総合大会講演論文集,D-16-23,平成14年3月

学位論文 修士論文

  • 田上泰之:ブラインドセパレーションを用いた2楽器の演奏によるWAVEデータからのMIDIデータ自動作成
  • 鳥飼雅人:エコー画像からの胎児の頭部形状抽出
  • 俣野友宏:搬送配送を用いた逆GPS測位
  • 村瀬曜子:画像処理による皮膚腫瘍の分類の検討 卒業論文
  • 伊藤千恵:虹彩のテクスチャを用いた個人認証
  • 高村淳一:衛星配置によるGPS測位精度についての研究
  • 鳥居哲:画像処理による天疱瘡の紅斑定量法
  • 根本順子:特徴量抽出による顔面神経麻痺の客観的評価法
  • 原かおり:超神経鞘腫の三次元再構築による体積診断と腫瘍径パラメータの検討
  • 水村仁美:多形性・異型性に基づく皮膚腫瘍の特徴量評価
  • 山嵜紗洋子:腫瘍細胞の悪性度評価
  • 山田怜奈:画像処理による悪性黒色腫の病理的形状評価

進路

  • キャノン 3名
  • 日本IBM
  • 松下通信工業
  • 慶應義塾大学大学院理工学研究科 4名
  • 八十二銀行
  • ヒューレットパッカード
  • ソニー

研究助成

  • 豊田理化学研究所
  • 慶應義塾大学学事振興資金(共同研究),「マイクロリアクター用超小型高感度NMRモニターの開発」