2001年度 大橋研究室

1.メンバー構成

教員:大橋良子
D1:久保俊晴
M1:宍倉次郎
B4: 青山泰大、大郷哲雄、酒井俊之、滝口慶太

2.研究成果

・黒鉛薄膜のシュブニコフ・ド ハース効果

昨年度、黒鉛薄膜の低温(ヘリウム温度)におけるホール効果にShubnikov – de Haas 効果が観測され、フェルミ面の最大断面積が黒鉛の膜厚に依存し特に電子のそれは膜厚が数百Å以下の領域では、薄くなるにしたがってフェルミ面の最大断面積が増加する結果が得られた。その原因として、フェルミ面の変形が考えられるので、印加磁場の方向を変えて測定を行い、フェルミ面全体の形状を調べるために、先ず、磁場と試料面が45度になるように傾斜をもたせた試料ホルダーを製作した。測定装置の性能により、磁場と試料面のなす角度を連続的に変えることは不可能なので、各種傾斜をもたせた試料ホルダーを製作する必要があるからである。また、黒鉛薄膜試料の形状は、ブリッジ型にした。測定は任意形状の試料に適用できるvan der Pauw法からブリッジ型試料に適用される通常の電流磁気効果測定法にしたが、その他の条件は、前年度と同様であり、1.8Kにおける電流磁気効果の磁場依存性を5.5テスラまでの範囲で測定した。van der Pauw法は薄膜試料を整形加工する必要がないので、試料に対するダメージが少ないとの理由から適用されてきたが、磁場、電流、ホール起電力の方向を規定するために、ブリッジ型試料に加工することにしたので、まず、Shubnikov – de Haas 効果が観測されるかどうかが懸念された。測定装置の使用割り当て時間が限られており、得られた有意の結果は膜厚29nmのみであったが、磁場と試料面が90度、45度共にShubnikov – de Haas 効果が観測され、この測定方法の妥当であることが確認された。さらにフェルミ面の断面積は45度の場合のほうが大きい結果が得られた。黒鉛のフェルミ面は軸比の非常に大きい楕円体と見なせるので、これをさらに円柱に近似して、磁場と試料面が90度の種々の膜厚についての前年度の結果から45度に対応する断面積を見積もったところ、各断面積の膜厚依存性のカーブ上に一致して今回の実験結果がプロットされた。今後さらに種々の膜厚について測定を重ね、また角度を変えた試料ホルダーを製作して測定する予定である。

・ 黒鉛薄膜の歪み効果

黒鉛結晶を機械的方法で薄膜化する場合、黒鉛を接着剤で基板に固定し、劈開することにより、基板上に残った薄膜を試料とする方法が以前考案された。10nm以下の超薄膜は、今までこの方法以外では実現されていない。しかしこの方法による試料は、電流磁気効果等低温における測定に際しては、接着剤の収縮により歪みを受けるため、薄膜本来の物性は検出されにくいことが予想される。 本研究は、この歪みを積極的に評価する立場で歪みと黒鉛薄膜の物性を測定し、その関係を明らかにすることを目的としてスタートした。試料空間が小さくて、試料と歪みゲージを同時にセットすることは出来ないので、低温にすることによる接着剤の歪みの測定は、黒鉛膜試料の代わりに歪みゲージのみを接着剤で石英基板上に貼りつけ、4.2K、77Kに冷却して歪み量を測定した。黒鉛試料として約10?70nmの範囲の種々の厚さの薄膜試料を作成し、4.2K、77Kにおける電流磁気効果の磁場依存性を5.5テスラの範囲で測定した。測定の結果フリーな黒鉛膜の場合にみられるShubnikov – de Haas 効果は観測されなかった。また、ホール効果の結果から判定されるキャリアとしてはホールが支配的であることがわかった。さらに50nm以上の膜においては強磁場領域で、磁気抵抗、ホール係数の磁場依存性に短周期の振動が重畳していることがわかった。これはSondheimer型の振動と考えられる。ただし、歪みの定量的制御がむずかしく、実験方法を検討する必要があると結論された。

・ニオブ/黒鉛複合系の超伝導近接効果に関する研究

昨年度に引き続き、黒鉛薄膜の厚さをパラメータとして超伝導転移温度を測定したが、ニオブの膜厚によっても超伝導転移温度が変化することがわかった。 黒鉛の膜厚範囲は異なるが、前回同様、ニオブ/黒鉛複合系の超伝導転移温度が、ニオブ単独膜の転移温度より高い値を示した。この実験においては、黒鉛の膜厚もニオブの膜厚も制御が非常に難しく、超伝導転移温度の膜厚依存性を求めることは困難を極めるが、定性的には従来の超伝導近接効果の理論では説明付けられない現象であることは確認できた。また、ニオブ膜を電子ビーム蒸着法で黒鉛膜上に形成する前に黒鉛表面をアルゴンイオン照射によりクリーニングしない場合には、ニオブ/黒鉛複合系の超伝導転移温度はニオブ膜単独膜のそれと同じ温度であった。これより、クリーニングプロセスを入れることで良好な接合が形成されていることが確認できた。引き続きこの現象を定量的に把握するためにデータを蓄積する予定である。

・二層グラファイトのバンド構造

黒鉛薄膜の構造を明らかにする目的でここ数年、各種シミュレーションを行っているが、昨年度行った2層ナノグラファイト系の巨大分子モデルによる分子軌道計算(”MOPAC”使用)では、PCの性能により扱える炭素原子の数が限られており、巨視的面積のグラファイトシートを扱うことが出来ないので、本年度は、グラファイトの積層方向(c軸方向)には空格子を導入して2層グラファイトの単位胞を構築し、エネルギーバンド構造を求めた。比較のためにバルク黒鉛、1層の黒鉛についてもE – k 特性を計算し、伝導帯と価電子帯ののオーバーラップエネルギーΔEを求めたところ、従来の値とずれた結果が得られた。

3.研究発表

  •  Ohashi Y., Yamamoto K. and Kubo T. :”Shubnikov – de Haas effect of very thin graphite crystals”, CARBON’01 – International Conf. on Carbon (2001年7月)
  • 久保俊晴、木下岳司、大橋良子:”ニオブ/黒鉛複合膜における超伝導近接効果”、日本物理学会第57回年次大会(2002年3月)

4.卒業論文

青山泰大:黒鉛薄膜のShubnikov – de Haas効果
大郷哲雄:2層グラファイトのバンド構造
酒井俊之:黒鉛薄膜の電子的性質に対する歪み効果

5.進路

慶大大学院基礎理工学研究科 2名
日本テレビエンタープライズ(株)


Dept. Applied Physics and Physico-Informatics