2003年度 田中研究室

構成

助教授

田中敏幸

修士2年

高村淳一,寺村直道,鳥居哲,根本順子,山田怜奈

修士1年

内野佳高,中島健

学部

久保直彦,江口淳一,太田真奈美,清水真弓,徐泱一,田村悠樹,羽田徹也,本山比佐夫,吉野寿美

研究成果

(1)テクスチャ解析による色素性母斑のパターン分類

3種類の腫瘍表面のパターンを画像処理の手法であるテクスチャ解析を使って自動的に分類した.ダーモスコピー画像の腫瘍にはhomogeneous pattern(均一な模様),globular pattern(黒い斑点),reticular pattern(網目模様)のようなパターンがある.これらのパターンは,良性の場合は腫瘍内で大きさや形が均一であるのに対し,悪性では同一の腫瘍内であっても部位によって不均一になる.3つのパターンの分類を行った後,腫瘍内の違う場所での同じパターンのテクスチャ特徴量を比較することによって,パターンの乱れを計測することができ,これから良悪性を分類することができるのではないかと考えている.腫瘍の良悪性を鑑別する前段階として,テクスチャ解析によって自動でこの3パターンを判別することが目的である.腫瘍にはパターンが均一で判別がしやすい良性腫瘍である色素性母斑のみを用いた.テクスチャ特徴量として一般に用いられる46個の他に,64個の新しい特徴量を加え,判別分析を使ってパターン分類を行った.

(2)悪性黒色腫の画像診断に関する研究

本研究では,画像処理の手法を用いて悪性黒色腫と良性母斑の特徴を客観的かつ定量的な数値として求め,診断支援となる客観的判別方法を考案する研究の成果について報告した.Dermoscopy画像から病変領域を抽出し,特徴量を計算・評価し,判別分析を行った結果,本システムが診断に有効な客観的判別方法として応用できることがわかった.
今後は,本システムの有効性をさらに確認するために,より広範囲のサンプルに対して適用することが必要である.また,少ないサンプルの中でも失敗した例がいくつかあるため,その解決方法も考えていかねばならない.診断のグレーゾーンとみられている症例をどこまで減らすことができるかが実用化の鍵となると思われる.

(3)色情報に基づいた悪性黒色腫の特徴量

悪性黒色腫は皮膚癌の一種であるが,その中でも最も悪性度が高いと言われている.転移しやすく,それゆえに非常に致死率が高くなっている.従って,腫瘍の悪化・転移が進む前の早期に発見する事が重要となってくる.しかし,悪性黒色腫の前駆状態は良性腫瘍と区別がつきにくく,専門医ですら意見がわかれてしまうことがある.本研究室でも,悪性黒色腫判別に関する先行研究は行われていて,高い精度を出している.しかし,色成分を個々に用いた特徴量は用いているが,悪性特有の色を用いた特徴量はまだ用いられていない.そこで,本研究では色情報のみを用いて悪性黒色腫の判別精度に寄与する特徴量を見つけることを目的とした.今まで判別に用いていた悪性画像のうち26%を色情報のみで抜くことが可能となったことは,悪性黒色腫判別に非常に役立つ特徴量であるといえる.

(4)母斑中Dots検出のためのモルフォロジーの応用

皮膚腫瘍を悪性・良性と判別するコンピューターシステムはABCD標準(Asymmetry・Border irregularity・Color variegation・Diameter)を基本として構築されている.これらのシステムは非常によい精度で悪性・良性を判別する.しかし,実際に医師が診断をくだす方法とコンピューターのそれとは異なる部分がある.それゆえ,医師がコンピューターによる判別結果をどの程度・どのように参考にすればよいのか不明瞭である.そこで,現在,医師の診断システムを真似するシステムが求められている.医師が注目する項目の中にDotsというものがある.本研究の目的はそのDotsを検出することである.手法として,closing演算処理を利用した.さらに,一般的なclosing演算処理フィルタをDots検出に使用する際の欠点を挙げ,改良を試みた.改良したフィルタを用いた結果,従来の方法よりより効率よくDotsの検出を行うことができた.

(5)表情運動時の特徴点移動量による顔面神経麻痺評価

顔面神経麻痺の評価は顔面の左右差を検査者が肉眼的に比較して麻痺度を評価しており,現在10項目40点法やfacial nerve grading systemが一般的に用いられている.しかしこれらの方法は主観が入りやすく,詳細な評価に限界があり,客観性や再現性においても問題点が指摘されている.また患者の症状が回復していく様子もわかりにくい.これらの問題点を改善するために様々な評価法が提案されており,その中のひとつである顔部品の輪郭抽出による麻痺の評価方法では,顔面の非対称性に注目し,顔部品の輪郭・位置を利用,患者の表情運動の静止画像のみより指標を算出していた.よって表情運動による顔部品の変位量に対する評価を行うことは出来なかった.本研究ではこの点を補うために,表情筋をもとに決定した特徴点に注目し,表情運動における特徴点の移動量を求め,安静時から最大運動時までの顔部品・表情筋の変位量の非対称性の評価を行うことを目的とする.また顔面神経麻痺評価に向けての指標を定義し,10項目40点法との比較を行い,指標の有効性を検討した.

(6)顔面神経麻痺診断を目的とした複数画像の特徴点対応に基づく3次元位置計測

現在,顔面神経麻痺診断は顔面の左右差・非対称性を医師が肉眼で評価しているのが医学分野の現状である.これでは客観性,再現性において問題がある.これらを解決するべく客観的・定量的評価方法がいくつか提案されてきたが,諸々の問題点から広く臨床で応用されるには至っていない.またほとんどが2次元画像の解析によるものである.本研究では,顔面表情運動の解析には奥行き方向(3次元)の指標も重要であると考えた.CV技術への理解を深め,シミュレーションを行い,2次元顔面画像から3次元再構成を試みる.実験の結果を検討・評価し,今後の顔面麻痺診断への可能性と展望を示すことを目的とした.シミュレーションにより,複数画像からの3次元復元アルゴリズムを確認,実際の画像にも適用できることを示した.

(7)手の甲の静脈を用いた個人認証

バイオメトリクスに求められる要件として,照合精度以外に,コスト,簡便性,不変性などがあげられる.広く利用されている指紋認証は安価ではあるが接触式センサーなので汚れなどのノイズに弱く,認証精度があまり高くない.虹彩認証は認証精度こそ高いものの装置が大型で高価なものになってしまい,目を装置に近づけるといった心理的な抵抗感が強いといった欠点がある.静脈パターンを用いた生体認証は指紋認証に比べノイズに強く,虹彩認証よりコストの面で優れているといった利点を持つ.先行研究において手の甲の静脈パターンに位相限定相関法を適用することにより高い精度で個人認証を行うことに成功している.しかし,位相限定相関はそのままでは画像の回転,拡大縮小を検出することができず,撮影時の手の位置のずれが精度に悪影響を与える.本研究では先行研究での簡便性,コストの利点はそのままに,より精度の高い個人認証を行った.

(8)虹彩を用いた個人認証

情報自体が大きな価値を持つ現代の時代においては,あらゆる場面(ある場所への入退場,コンピュータ資源へのログインなど)で個人認証技術が求められる.現在,使用されている個人認証の方式はパスワードによるもの,ICカードなどの所有物によるもの,個人の身体的特徴(バイオメトリクス)を利用するものがある.どの方式にも長所と短所があるが,安全性の面では,盗聴,盗難,忘失,紛失の恐れのあるパスワード,ICカードなどに比べてバイオメトリクス認証が有効である.そのバイオメトリクス認証の中でも個人の虹彩を用いた方式は,大掛かりなシステムになりコスト高になるという欠点があるものの非常に高い認証率を誇り高い信頼を得ることができる.そこで本研究では安価な装置を用いた虹彩による個人認証について検討した.

(9)GPS単独測位における誤差軽減に関する研究

GPS(Global Positioning System)は衛星を利用した測位システムである.GPS測位方法には単独測位(SPS : Standard Positioning Service),相対測位がある.単独測位は衛星からの電波のみを利用し,簡易かつ安価な装置のみで利用が可能であり,他の測位方法(DGPS,RTK-GPSなど)と比べて精度は落ちるものの,その利便性の高さから誤差軽減が期待されている.本研究はこの単独測位の誤差軽減を目的としている.これまでの研究により,擬似距離誤差は時間的に緩やかに変動し,また大きく離れていない場所においては変動が少ないということがわかった.そこで,衛星-受信機間距離と計測された擬似距離から擬似距離誤差を求め,それを補正値として未知点の測位に利用するという方法を提案した.いくつかの制約はあるものの,一般的な受信機にも適用できる点,少ない計算量である点,そして改善量などを考えると非常に有用であると言えるだろう.GPSの応用には様々なことが考えられ,絶対位置を求めることが全てではなく,相対位置を精度良く求めることにも大きな意義があると考えられ,本手法はこの点についても有用であると考えている.

(10)GPS単独測位の電離層遅延に関する研究

GPSは米国国防総省により開発された人工衛星による測位システムである.GPSは手軽で信頼性の高い測位システムとして民間にも広く普及している.地球は電離層や大気で覆われているため,衛星からの電波の速度は若干ではあるが,減速する.そのため,電波の到達時間からの擬似距離測定では距離を過大に見積もることになり,誤差を生じてしまう.周波数の異なる2周波の電波を用いることによって,到達時間の差を見積もることにより,電離層補正が可能である.しかし,1周波のみを用いる単独測位ではこの方法を用いることができず,大きな誤差要因となっている.本研究では測位実験・シミュレーションを行い,電離層遅延が測位精度に与えている影響を考察した.単独測位においてKlobuchar modelを用いて電離層遅延を補正することで高さ方向の精度を改善することができた.しかし,実際の電離層遅延とKlobuchar modelは振る舞いこそ似ているものの,その値にはまだまだ差があるのでさらなるモデル化の検討が必要である.

発表論文・学会発表・特許申請など

原著論文

  • Toshiyuki Tanaka, Masato Torikai : CONTOUR EXTRACTION OF FETUS’ HEAD FROM ECHOCARDIOGRAM USING SNAKES, IEICE Transactions on Information and systems, Vol.E86-D, No.4, pp.768-771, April 2003
  • 田中敏幸,鳥居哲,田中勝,小林誠一郎:形状及び色情報に基づく天疱瘡の客観的紅斑定量法,豊田研究報告,No.56,pp.75-80,2003年5月
  • 田中敏幸,山田怜奈,田中勝,小林誠一郎:悪性黒色腫の画像診断のための形状特徴量に関する研究,豊田研究報告,No.56,pp.81-88,2003年5月
  • Toshiaki Suzuki, Toshiyuki Tanaka : Study on Canceling Intersymbol Interference of Inverse-GPS,計測自動制御学会論文集, Vol.39, No.7, pp.694-696, July 2003
  • Kazuki Shimizu, Junichi Takamura, Toshiyuki Tanaka,Forecast and Improvement of Shift Error with GPS Standard Positioning Service,計測自動制御学会論文集, Vol.39, No.10, pp.978-980, October 2003
  • 田中敏幸,根本順子,國弘幸伸:輪郭抽出に基づいた顔面神経麻痺の定量的評価法(4),Facial Nerve Research, Vol.23, Vol.23, pp.58~60,2003年12月
  • 樋口正憲,田中敏幸:位相限定相関法を用いた静脈パターンによる個人認証,計測自動制御学会論文集,Vol.40,No.3,pp.364-366,2004年3月

国際会議

  • Toshiyuki Tanaka, Kazuki Shimizu, Junichi Takamura : The Improvement of the Shift Error in GPS Standard Positining Service, SICE2003, WAI-13-2, pp.751-754, August 2003
  • Toshiyuki Tanaka, Junko Nemoto, Takanobu Kunihiro : Study on Objective Evaluation Method of Facial Nerve Paralysis by Contour Extraction, World Congress on Medical Physics and Biomedical Engineering, WE.TR2-7, August 2003
  • Toshiyuki Tanaka, Yuta Ohno, Teruaki Oka : Classification of Malignant Tumor using Image Processing, World Congress on Medical Physics and Biomedical Engineering, MO.TR2-56, August 2003
  • Toshiyuki Tanaka, Hiraku Mizutani, Masaru Tanaka, Seiichiro Kobayashi : The Diagnosis of Melanoma with the Analysis of Color Components , World Congress on Medical Physics and Biomedical Engineering, MO.TR2-57, August 2003
  • Junichi Takamura, Kazuki Shimizu, Toshiyuki Tanaka : Improvement of Error in GPS Using Modified Expression of Pseudo Range Error, ION 2003, September 2003
  • Ken Nakajima, Junichi Takamura, Toshiyuki Tanaka: A Study on the Improvement of Height Measurement in GPS, International Symposium on GPS/GNSS

口頭発表

  • 田中敏幸,岡輝明:核の形状特徴量に基づいたDFとDFSPのコンピュータ診断に関する研究,第92回日本病理学会総会,P1-a-190,平成15年4月
  • 田中敏幸,根本順子,國弘幸伸:輪郭抽出に基づいた顔面神経麻痺の定量的評価法(4),第25回日本顔面神経研究会予稿集,平成15年6月
  • 根本順子,田中敏幸,南谷晴之,國弘幸伸:顔面神経麻痺の客観的評価に用いるオプティカルフローについて,第25回日本顔面神経研究会予稿集,平成15年6月
  • 高村淳一,中島健,田中敏幸:GPS単独測位における誤差軽減に関する研究(2),第20回センシングフォーラム資料,平成15年9月
  • 中島健,田中敏幸:GPSにおける高度計測の改善に関する研究,第20回センシングフォーラム資料,平成15年9月
  • 山田怜奈,田中敏幸,田中勝,小林誠一郎:画像処理による悪性黒色腫の特徴量評価,第20回センシングフォーラム資料,平成15年9月
  • 鳥居哲,田中敏幸,田中勝,小林誠一郎:テクスチャ解析を用いた色素性母斑のパターン分類,第20回センシングフォーラム資料,平成15年9月
  • 根本順子,田中敏幸,國弘幸伸:画像処理による顔面神経麻痺の客観的評価,第20回センシングフォーラム資料,平成15年9月

学位論文

修士論文

  • 高村淳一:GPS単独測位における誤差軽減に関する研究
  • 鳥居哲:テクスチャ解析による色素性母斑のパターン分類
  • 根本順子:表情運動時の特徴点移動量による顔面神経麻痺評価
  • 山田怜奈:悪性黒色腫の画像診断に関する研究

卒業論文

  • 久保直彦:手の甲の静脈を用いた個人認証
  • 江口淳一:GPS単独測位における衛星配置と測位誤差の関係に関する研究
  • 太田真奈美:特徴点注目による顔面神経麻痺の客観的評価法
  • 清水真弓:顔面神経麻痺診断を目的とした複数画像の特徴点対応に基づく3次元位置計測
  • 徐泱一:テクスチャー解析による脂漏性角化症の特徴量抽出
  • 田村悠樹:虹彩を用いた個人認証
  • 羽田徹也:GPS単独測位の電離層遅延に関する研究
  • 本山比佐夫:色情報に基づいた悪性黒色腫の特徴量
  • 吉野寿美:母斑中Dots検出のためのモルフォロジーの応用

受賞

なし

研究助成

  • 文部科学省科学研究費補助金:基盤研究(C)課題番号:14571633
    「輪郭抽出法を用いた顔面神経麻痺の客観的評価法の開発」
  • 慶應義塾大学学事振興資金(個人研究),
    「特徴量の自動抽出による悪性黒色腫の病理的診断支援システムの開発」

進路

  • 大和投資信託
  • キャノン 2名
  • 野村総合研究所
  • リコー 2名
  • 東京海上火災
  • NTT東日本
  • 大学院進学 5名

Dept. Applied Physics and Physico-Informatics