2003年度 大橋研究室

1. 構成

教員:大橋良子

D3:久保俊晴
M2:青山泰大、酒井俊之
M1:渡邊尚希
B4:喜多村恒一、坂本潤、藤澤尚俊

2. 研究成果

(1)黒鉛の物性

・ 黒鉛のShubnikov – de Haas 効果 : 中性子照射効果

一昨年度、黒鉛薄膜の低温(ヘリウム温度)におけるホール効果にShubnikov – de Haas 効果が観測され、フェルミ面の最大断面積が黒鉛の膜厚に依存し特に電子のそれは膜厚が数百Å以下の領域では、薄くなるにしたがってフェルミ面の最大断面積が増加する結果が得られた。その原因としてフェルミ面の変形が考えられるが、一方薄膜化の加工過程では、結晶の欠陥生成が完全には避けられないと考えられる。結晶格子の周期性の乱れはフェルミ面に影響を与え、それはShubnikov – de Haas 効果に反映する筈である。本研究ではバルク黒鉛結晶に中性子を照射して直接欠陥を生成し、Shubnikov – de Haas 効果への影響を調べた。中性子はエネルギー1MeV以上の速中性子、照射時間は12時間である。これによる推定欠陥生成量は約240ppmである。ホール効果の磁場依存性を5.5 テスラまでの範囲で、測定した結果、Shubnikov – de Haas 効果は1.8K、4.2Kで観測されたが、さらに10K においても観測された。振動の周期から見積もったフェルミ面の断面積は、照射によって減少することが判明した。今後は実験結果の再現性と欠陥量による影響を定量的に調べる予定である。

・黒鉛薄膜のShubnikov – de Haas 効果 : 角度依存性

昨年度、フェルミ面の最大断面積が黒鉛の膜厚に依存し特に電子のそれは膜厚が数百Å以下の領域では、薄くなるにしたがってフェルミ面の最大断面積が増加する結果が得られ、その原因として、フェルミ面の変形が考えられた。そこで、フェルミ面全体の形状を調べるために、試料に対する印加磁場の方向を変えて測定を行うことにした。今年度は磁場中で試料を回転する装置を準備することができた。ただし、この装置は完全ではないので、不足している部品の調達、改造などを行った。黒鉛薄膜の作成は、従来当研究室で行っているへき開法によるが、今回11nm の膜厚が得られた。これはへき開法により今までに得られた黒鉛結晶の最小の膜厚である。黒鉛薄膜の膜面に垂直なc軸方向と印加磁場方向とのなす角度をパラメータとし、各々30、45、60、75、90°におけるホール効果の磁場依存性を4.2 Kで測定したところ、Shubnikov – de Haas効果の振動周期に角度依存性が見出された。また、角度0°において、バルク黒鉛と薄膜では振動周期が異なっていることが判明した。これらの結果から、薄膜状黒鉛においてはフェルミ面の形状が変形していると推定される。今後は、再現性とともに、黒鉛の膜厚依存性を調べ、膜厚と共に変化するフェルミ面の形状を明らかにする予定である。

(2) 熱分解黒鉛の物性

・ 中性子照射熱分解黒鉛の電流磁気効果

熱分解黒鉛(PG)は沈積温度によって、その結晶性が異なるが、2000℃近辺で沈積したPGは負の磁気抵抗効果を示すことが知られている。これは結晶中の欠陥の影響と思われているが、その詳細は未だ不明である。本研究は、PGに中性子を照射することによって人為的に欠陥を制御し、電流磁気効果の磁場依存性の測定から負の磁気抵抗効果に対するPGの結晶性と欠陥の効果を独立に求め、その本質を追求することを目的としている。試料としては、2200℃および1900℃で沈積した2種類のPGにMeV以上の速中性子を各々0、4、12時間照射した試料を用いた。これによる欠陥生成量は各々0、80、240ppmと見積もられている。測定条件としては最大印加磁場 5.5テスラ、試料温度 1.8Kおよび4.2Kとした。測定結果として従来は見られなかった大きな負の磁気抵抗が観測され、その値は中性子照射量のみではなく、PGの結晶性にも依存することが分かった。今後はさらに実験を重ね、定量的に評価する予定である。

・ 中性子照射熱分解黒鉛のラマン分光

本研究は、PGに対する中性子照射の効果を、格子の状態変化として評価することを目的としている。ラマン効果は、通常、結晶性の低い黒鉛、所謂非晶質炭素について、sp2、sp3などの炭素原子の結合状態に関する詳細な情報を得るために用いられ、粉末状で測定されることが多いが、新たに導入された顕微ラマン分光装置により、沈積温度が2000℃前後のPGについても測定可能であることがわかり、スタートしたテーマである。中性子照射による格子構造の変化が検出されることを期待した。現在、ラマンスペクトルの半値幅と中性子照射量とは、定性的には対応しているが、定量的に評価するためには、更なるデータの蓄積が必要である。

・黒鉛薄膜構造のシミュレーション

黒鉛薄膜を極限まで薄くすると二次元黒鉛になるが、実験的に実現することがむずかしい。実験では現時点でようやく数十層までが実現されているが、それでもバルク黒鉛とは異なる物性が観測されている。一方、その物性には、欠陥の効果も考慮する必要がある。本研究においては、一層の微小黒鉛(ナノグラファイト)に欠陥を導入した場合の安定構造をシミュレーションで求め、実験結果との接点を見つけようというのが、本研究の目的である。市販のプログラムパッケージ(分子軌道計算“MOPAC”)で微小なグラファイトシートを設定、そのサイズ、欠陥の数や位置などをパラメータとして、安定構造を求めた。プログラムの性能により扱える炭素原子の数が限られており、巨視的面積のグラファイトシートを扱うことは出来ないが、微小な一層グラファイトの安定構造は、欠陥を導入する場所によっては、必ずしも平坦にはならないという結果が得られた。

(3) 黒鉛―超伝導体複合系の物性

・ニオブ/黒鉛複合系の超伝導近接効果に関する研究

昨年度、ニオブ/黒鉛複合膜の超伝導転移温度を測定するにあたって、黒鉛薄膜の厚さに加えてニオブの膜厚もパラメータとして超伝導転移温度を測定したが、超伝導転移温度はいずれの膜厚にも依存し、ニオブ単独膜の転移温度より高い値を示す場合があることが判明した。この現象は定性的には従来の超伝導近接効果の理論では説明付けられない現象であることは確認できた。しかしながら、パラメータを増加すると、急激に試料数を増やさねばならず、逆に本質を見つけ出しにくくなる恐れがある。本年度はニオブの膜厚を、約40ナノメートル一定とし、黒鉛を種々の膜厚に加工してニオブとの複合系を作成した。超伝導転移温度を黒鉛の膜厚依存性として求めるためである。ニオブ膜厚の40ナノメートルという値は従来の超伝導近接効果に対しては、最も効果が現れ易い厚さである。測定の結果、ニオブ単独膜との相対的超伝導転移温度は、黒鉛膜厚に対してほぼ振動的であることが判明した。今後はこの結果についての理論的裏付けが必要である。

3. 研究発表

  •  Yoshiko F. Ohashi and Tadao Iwata:“Shubnikov ? de Haas Oscillation of Neutron Irradiated Kish Graphite“, Carbon’03 -an International Conference on Carbon, 4.3 PDF (2003) (on CD-ROM)
  • 酒井俊之、岩田忠夫、大橋良子:“中性子照射PGの電流磁気効果”、第30回炭素材料学会年会要旨集、1C10 p112~113(2003年12月)
  • 久保俊晴、木下岳夫、安西修一郎、大橋良子:“ニオブ/黒鉛複合膜における超伝導近接効果Ⅱ”、日本物理学会第59回年次大会予稿集27aYD-2 p (2004年3月)

4.修士論文題目

青山泰大:黒鉛薄膜のフェルミ面に関する研究
酒井俊之:熱分解黒鉛の電子的性質に対する中性子照射効果

5.学士論文題目

喜多村恒一:中性子照射黒鉛のラマン分光に関する研究
坂本潤:欠陥を含む黒鉛の安定構造に関する研究
藤澤尚俊:黒鉛の電流磁気効果に対する中性子照射効果

6.進路

キャノン(株)、創成国際特許事務所、慶大大学院基礎理工学研究科


Dept. Applied Physics and Physico-Informatics