2004年度 大橋研究室

1. 構成

教員

大橋良子

D3

久保俊晴

M2

渡邊尚希

M1

喜多村恒一、藤澤尚俊

B4

折原辰昌、木下昌、武居徹、中村顕

2. 研究成果

(1)黒鉛の物性

・ 黒鉛薄膜のShubnikov – de Haas 効果
この数年来取り組んでいるテーマである.これまでに結晶性の良い黒鉛を劈開加工により薄膜化して低温(ヘリウム温度)におけるホール効果を測定した結果、最も薄い18nmの厚さの試料についてもShubnikov – de Haas 効果が観測され、電子についてはフェルミ面の最大断面積がバルク黒鉛の最大断面積より大きいことが判明した。その原因としてサイズ効果によるフェルミ面の変形が考えられるが、一方薄膜化の加工過程で起こり得る欠陥もフェルミ面に影響を与え、Shubnikov – de Haas 効果に反
映する可能性がある。そのため昨年度はバルク黒鉛結晶を用い、結晶格子の周期性の乱れを格子の熱振動によって与え、Shubnikov – de Haas 効果への影響を調べた。その結果、Shubnikov – de Haas
振動の周期から見積もったフェルミ面の断面積は、温度上昇に伴って若干増加したが、その変化は、黒鉛薄膜の場合程の顕著な増加ではなかった。したがって数百Å以下の黒鉛薄膜のフェルミ面の変形は薄膜化によるサイズ効果であると考えられる。しかしながら膜厚18nmは、黒鉛層50層以上に相当するので、サイズ効果をより明確に表すために、更なる薄膜化を目指した。その結果、劈開加工による薄膜としては、今迄で最も薄い11nmの黒鉛膜を得ることができた。この黒鉛薄膜について、低温における電流磁気効果の磁場依存性を測定した結果、顕著なShubnikov – de Haas振動を観測した。この結果について
は解析中である。

・微小黒鉛の電界電子放出
本研究は、渡邊尚希君の修士論文として、継続しているテーマである。金属や半導体の固体表面に強い電界を印加することにより固体中の電子が真空中に放出される電界電子放出が、ディスプレイ等における電子源として注目されている.電界電子放出には、一般に107V/cm以上の電界が必要とされるが、電極の形状を尖鋭化することによって電界を集中させ、放出開始電圧を大幅に下げることができる。近年発見されたカーボンナノチューブは、黒鉛層面が湾曲し、直径数十nmの筒状であるため優れた電界電子放出材として期待されているが、現状では製造コストが難点である。本研究は、安価に入手できる黒鉛結晶を利用して電界電子放出源とし、実用化することを目的としている。粉砕によって薄片状の微小黒鉛を作製し電界電子放出特性を調べた.まず、電界電子放出による電流を測定するための測定回路を設計、作製した。ついで、印加される電界強度に関係する電極間距離を正確に制御し、同時に放出電流を電流密度として測定するために、一定面積の平面型電極を多数作製した。黒鉛試料は粉砕した粒径毎の6段階にふるい分け、電極間距離と電子放出開始電圧の関係や粒径別試料間の特性の相違を検討した。その結果、薄片状微小黒鉛の基底面方向に電界をかけた場合、電界電子放出電流が観測されることを確認し、さらに4.7?7.1×104V/cmの電界で放出電流を観測した。電極間距離を調節することにより、開始電圧の低減効果を示した。今後は、多数の黒鉛微粒子に均等に電界が印加されるよう粒径を均一にすることによって、電流密度の増加させ、また黒鉛微粒子を電極間で配向させて開始電圧の低減を図る予定である。

(2) 黒鉛―超伝導体複合系の物性

・ニオブ/黒鉛複合系の超伝導近接効果に関する研究
本研究は、久保俊晴君の博士論文のテーマとして、この数年来継続している研究である。昨年度に引き続き、ニオブの膜厚を、約40ナノメートル一定とし、黒鉛を種々の膜厚に加工してニオブとの複合系を作成した。これらの試料について、超伝導転移温度を測定した結果、ニオブ単独膜との相対的超伝導転移温度の黒鉛膜厚依存性は、明らかに周期的であり、その周期は約30nmであることが判明した。またその極大値は1.00より大きい値を示す場合があった。これはニオブ単独膜より複合膜のほうが超伝導転移温度が高いことを示しており、これは今迄他所でも全く観測されたことがない現象である。ニオブ/黒鉛複合膜の超伝導転移温度が黒鉛膜厚に対して周期的に変化する現象は、アンドレ?エフ反射によるものであると説明付けられる。また、ニオブ単独膜に比べて複合系の超伝導転移温度が上昇する現象は、黒鉛膜内における電子波の干渉により説明付けられると提案した。さらにニオブ単独膜に比べて複合系の超伝導転移温度が上昇または低下する典型的な場合について、臨界磁場(HC)の測定を行った。その結果、超伝導転移温度の近傍すなわち測定温度T=0.85TCS?0.95 TCSの範囲内において、全ての複合系試料で臨界磁場HCはニオブ単独膜の臨界磁場(HCS)よりも低下することが判明した。また、臨界磁場HCとHCSの差と超伝導転移温度TC/TCSの黒鉛膜厚依存性に相関があり、その干渉の条件が黒鉛膜厚および温度により変化することを示唆しているとした。

3. 研究発表

・ Toshiharu Kubo, Yoshiko F. Ohashi and Takeshi Kinoshita:“Superconducting transition temperature of niobium/graphite bilayers“, Physica C417 (2004) 58
・ Toshiharu Kubo, Yoshiko F. Ohashi and Takeshi Kinoshita:“Parallel upper critical field of niobium/graphite bilayers“, Physica C420 (2005) 78

4. 修士論文題目

渡邊尚希:微小黒鉛の電界電子放出に関する研究

5. 学士論文題目

折原辰昌:水素終端グラファイトを用いた固体NMR量子コンピュータの提案
木下昌:ボロンをドープした熱分解黒鉛の電流磁気効果
中村顕:中性子照射熱分解黒鉛のESR

6. 進路

三菱電機(株)、慶大大学院基礎理工学研究科


Dept. Applied Physics and Physico-Informatics