2004年度 石榑研究室

構成

専任講師

石榑 崇明

博士課程  (小池・石榑研)

近藤 篤志
牧野 建志

修士 2年 (小池・石榑研)

池部 優佳
大床 国広
近藤 重邦
中村 卓弘

修士 1年 (小池・石榑研)

有賀 祐太
海老原 裕貴
高橋 慶太

学部

石山 頼史
田中 哲郎
長澤 誠
松倉 千恵
(小池研究室 共同研究)
浅井 誠
高沢 洋樹
廣瀬 竜馬

研究概要と成果

広帯域プラスチック光ファイバ(POF)による高速通信

プラスチック光ファイバ(POF)は,プラスチック材料特有のフレキシビリティを有し,かつ,光信号の伝搬する「コア」の径が大きく,取り扱い性に優れることから,特に昨今,高速化が著しいLAN等の短距離ネットワークの通信メディアとして期待されている.本研究室では,このPOFによる高速通信を実現し,次世代型超高速ネットワーク構築を目指した基礎的・応用的研究開発を行っている.

1. 「屈折率分布の高精度制御 -Accurate index profiling」

POFは大口径であるために,数万以上の伝搬モードが伝搬することとなる(モードとは,ファイバ中の光信号の伝送経路と広義では捉える).そのモード間の伝搬遅延時間(群遅延)に伴う信号波形の劣化(モード分散)が,高速通信性能を制限する最大の要因である.POFに存在するモード分散を最小化し,ギガビット,10ギガビット以上の超高速通信を実現するためには,コア部に形成される屈折率分布の形状を最適に制御する技術が必要不可欠となる.
この屈折率の分布形成技術は,小池研究室との共同で研究を進めており,これまでに,様々なプラスチック材料,伝送信号波長に依存した理想屈折率分布形状デザインを行ってきた.2004年度は,実際に理想分布形状をPOF内に形成した屈折率分布(GI)型POFを作製する技術検討を中心に行った.まず,「ラマン散乱分析」「屈折率分布形成のリアルタイム計測」を用いて,屈折率分布の形成機構を明らかにした.この過程で,屈折率分布を形成するためのドーパントと呼ばれる物質の,ポリマー材料への拡散挙動を定量的に解析することが可能となった.この結果を元に,引き続き,理想屈折率分布を,高い再現性で任意の母材に形成する技術を確立することを目指している.

2. 「POFによる超高速通信の実現 -High-speed data transmission by POF-」

・GI型POF 「GI-POF」
大口径GI型POFは,数万以上の伝搬モードを有する.このPOF伝送時の伝搬モードの減衰,モード結合は,上述のモード分散と並んで,POFの高速伝送性能に多大な影響を与える因子である.2004年度は,GI型POF中のモード結合,モード依存性損失の起源の検討を行った.モード結合とは,異なる伝搬モード間のエネルギー遷移であり,モード結合の存在は,群遅延を平均化し,モード分散緩和に寄与することとなる.しかしながら,昨今の高速光リンクに採用されるレーザ光源との組み合わせを考慮すると,このモード結合は,逆の効果を示し,モード分散増大,つまり伝送性能の劣化を引き起こす因子となる.このため,GI型POFにおいてもモード結合の抑制が求められる.このモード結合の大きさ(エネルギー遷移確率)は,GI型POFの開口数(NA)に依存し,高NA化によって,モード結合抑制が可能であることが,2004年度までに実験的に明らかにされてきた.実際に2004年度は,NAと伝搬定数の定量的な解析を進め,モード結合確率のNA依存性を理論的に裏付ける結果を得た.
この結果を元に,さらに2004年度には,高速レーザに最適化したGI型POFの屈折率分布(Laser-Optimized GI POF)を新たに提案した.この新規屈折率分布を有するGI型POFが,高速性能に加えて,ファイバ-光源間のミスアラインメントや,ファイバの機械的な曲げなどの負荷の存在下でも高速性能を維持出来ることを明らかにした.

・W型屈折率分布ファイバ 「W-shaped POF」

2002年度,初めて「W型屈折率分布ファイバ」を提案し,2003年度までにこのW型POFが上述のGI型POFの高速伝送性能を凌駕しうることを報告してきた.2004年度は,このW型POFの広帯域性の発現メカニズムを明らかにすることで,理想のW型形状を追及し,実際にGI-POFの高速伝送を凌ぐ広帯域性を有することを実証した.
現在は,作製技術が既に確立されているPMMA系のPOFに関して,このW-Shaped POFの検討を進めているが,より低損失性に優れたポリマー母材を用いたPOFによる,より長距離のネットワークを構築した際に,このW-Shape POFの高速通信性能の真価が問われると考えられる.これらの母材へのW型屈折率分布形成を検討していく.

3. 「短距離(Very Short Reach:VSR)ネットワークへ向けたPOF設計」

POFの利点の一つは,高ハンドリング性に有ると言える.特にエンドユーザに近い短距離ネットワークへの導入を考えると,ファイバ自体に過度な曲げや負荷が加えられる箇所が多く予想される.通常の石英系光ファイバは,これらの曲げ,負荷に対する十分な強度を必ずしも有しておらず,短距離ネットワークの光化が遅れている一要因と言える.本研究では,GI-POFによるネットワークの全光化を実現するために,この物理的なファイバの曲げに対する,伝送損失,伝送帯域,機械強度全般の対抗性を高める検討を進めている.特に,曲げ損失と呼ばれる伝送損失は,ファイバのコア径,NAその他多くの構造に依存すると考えられている.2004年度は,以上の背景をもとに,VSRネットワークに適したGI-POFの設計を行った.曲げ損失の低減は,コア径を多少低減すれば,NAを必要以上に高める必要はなく,0.2程度のNAでも十分な曲げ損失特性が得られることが実験的に示唆されている.今後さらに,信頼性を高めるべく,理論的,統計的な解析を進める必要がある.

4. 「フォトニック結晶プラスチックファイバ -Plastic Photonic Crystal Fiber-」

フォトニック結晶ファイバ(PCF)は,1990年代後半に初めてその可能性が報告された.PCFの特徴は,屈折率1.0を有する「空孔」が規則的に配列した断面を有していることである.この空孔とファイバ母材との創り出す実効屈折率が,中実化されているコア部の屈折率よりも低減され,その結果,光信号がコア内に閉じこめられ伝搬するというのが,多くのPCFの導波原理である.さらに,より高精度に空孔配列が制御されれば,コア部は中実化されておらず,同じく空孔であっても,光はコア部に閉じこめられて伝搬することが出来る.これは,フォトニックバンドギャップの形成により,ファイバ半径方向へ光の伝搬がなされないためである.このPCFは,大口径,広波長帯域シングルモードの実現,低曲げ損失ファイバの実現など,これまでの光ファイバでは実現できなかった新機能の発現が期待されている.
本研究では,プラスチック材料の利点であるフレキシビリティを生かしたPCF(PPCF)を実現すると共に,プラスチックならではの新機能発現を目指している.2004年度までに,PPCFの作製技術が確立され,空孔配列,空孔径が所望の値に制御可能となってきている.また,このコア部への光導波も実現し,現在は,シングルモード化,低損失化を検討している.更に2004年度は,PCFに期待される特性の一つである,低曲げ損失性に着目し,PPCFコア部に通常のGI型POFを配置した,Hole-assisted GI-POFを提案,その試作を行った.現在,2種類の作製方法にて検討を進めており,空孔配列の制御が行えるようになってきている.
今後,低損失ポリマー材料である全フッ素化(PF)ポリマーを用いたPPCFの実現を目指す.このPF-PPCFは,低損失性により利用可能波長帯域が広く,様々な応用が期待される.

5. 「低損失・低材料分散全フッ素化ポリマー」

これまでは,PMMAを母材とした検討を主に述べたが,本研究ではPMMA系POFの作製・解析にて得られた結果をもとに,より低損失性・低材料分散性に優れた全フッ素化(PF)ポリマーGI POFの理想屈折率分布形成・超高速・長距離通信の実現を目指している.PFポリマーは,材料固有の分散要因である「材料分散」が大きく低減される.このため,既存の石英系光ファイバの伝送帯域をも凌ぐ広帯域ファイバの実現が可能であることが,これまでに明らかにされている.この低材料分散性により,PF GI-POFの伝送帯域は,広範囲の波長帯で10Gbpsを上回ることが,2004年度に明らかにされた.現在,この材料の理論限界に迫る高速性能の追及を進めている.また,低材料分散に由来する,光波長域・広帯域化を目指している.

発表論文・学会発表など

論文

原著論文

  1. T. Ishigure, H. Endo, K. Ohdoko, and Y. Koike, “High-Bandwidth Plastic Optical Fiber with W-Refractive Index Profile,” IEEE Photon. Technol. Lett., 16 (9) pp. 2081-2083 (2004)
  2. K. Ohdoko, T. Ishigure, and Y. Koike, “Propagating Mode Analysis and Design of Waveguide Parameters of GI POF for Very Short-Reach Network Use,” IEEE Photon. Technol. Lett., 17 (1) pp. 79-81 (2005)
  3. T. Ishigure, H. Endo, K. Ohdoko, K. Takahashi, and Y. Koike, “Modal Bandwidth Enhancement in a Plastic Optical Fiber by W-Refractive Index Profile,” IEEE J. Lightw. Technol., 23 (4), pp. 1754-1762 (2005)

国際会議発表

Invited papers

  1. T. Ishigure, “High-Bandwidth Plastic Optic Fiber for Over Gigabit Networks,” International Symposium of Modern Optics and Its Applications (ISMOA) (Aug. 2004)
  2. Y. Koike and T. Ishigure, “Novel Photonics Polymer for Hi-Quality Display and High-Speed Data Transmission,” 10 th Microoptics Conference, Jena, Germany, (Sep. 2004)
  3. T. Ishigure, H. Endo, K. Takahashi, Y. Ebihara, and Y. Koike, “Total Dispersion Compensation Design of POF,” 13 th International POF Conference, Nurnberg, Germany (Oct. 2004)

Contributed papers

  1. A. Kondo, T. Ishigure, and Y. Koike, “Low-loss and High-bandwidth PMMA-d8 based GI-POF, 40th International Symposium on Macromolecules IUPAC World Polymer Congress MACRO 2004 (Jul. 2004)
  2. S. Kondo, T. Ishigure, and Y. Koike, “Fabrication of Polymer photonic Crystal Fiber,” 10th Microoptics Conference, Jena, Germany, (Sep. 2004).
  3. K, Ohdoko, T. Ishigure, and Y. Koike, “Propagating Mode Analysis and Design of Waveguide Parameters of GI POF for Very Short-Reach Network Use,” 13 th International POF Conference, Nurnberg, Germany (Oct.2004)
  4. T. Nakamura, T. Ishigure, and Y. Koike, “Formation mechanism of refractive index profile in the Interfacial-gel polymerization process and its optimum index profiling of the GI POF,” 13 th International POF Conference, Nurnberg, Germany (Oct.2004)
  5. K. Makino, T. Ishigure, and Y. Koike, “Analysis of GI POF link performance under fiber bending based on link power penalty,” 13 th International POF Conference, Nurnberg, Germany (Oct.2004)
  6. A. Kondo, T. Ishigure, and Y. Koike, “Low-loss and high bandwidth perdeuterated PMMA based graded index polymer optical fiber,” 13 th International POF Conference, Nurnberg, Germany (Oct.2004)
  7. T. Ishigure, H. Endo, K. Ohdoko, and Y. Koike, “High-Bandwidth Plastic Optical Fiber with W-Refractive Index Profile,” IEEE International Conference on Industrial Technology (ICIT2004), Tunisia, (Dec. 2004)
  8. Y. Koike and T. Ishigure, “Novel Photonics Polymer for Broadband IT,” IEEE International Conference on Industrial Technology (ICIT2004), Tunisia, (Dec. 2004)
  9. K. Takahashi, T. Ishigure, and Y. Koike, “W-shaped Polymer Optical Fiber,” International Conference on Organic Photonics and Electronics 2005 & The 8th International Conference on Organic Nonlinear Optics, (ICOPE2005 & ICONO’8), Miyagi, (Mar., 2005)
  10. Y. Aruga, T. Ishigure, and Y. Koike, “Propagating Mode Analysis in a Graded Index Polymer Optical Fiber,” International Conference on Organic Photonics and Electronics 2005 & The 8th International Conference on Organic Nonlinear Optics, (ICOPE2005 & ICONO’8), Miyagi, (Mar., 2005)

国内学会発表

電子情報通信学会 7件
応用物理学会   2件
高分子学会    5件

卒業論文

石山 頼史 「GI型POFの導波路構造設計とモードカップリング制御」
田中 哲郎 「界面ゲル重合法によるGI型POFの屈折率分布形成機構解析」
長澤 誠  「Hole Assisted GI型ポリマー光ファイバ」
松倉 千恵 「GI型POFのベンディングロス解析と最適導波路設計」

修士論文 (~小池・石榑研究室)

池部 優佳 「累進屈折力GRINポリマーレンズ」
大床 国広 「GI型ポリマー光ファイバーの伝搬モード解析と最適導波路設計」
近藤 重邦 「ポリマーフォトニック結晶ファイバー」
中村 卓弘 「界面ゲル重合法によるGI-POFの屈折率分布形成機構解析と最適屈折率分布形成」

進路

慶應義塾大学大学院理工学研究科前期博士(修士)課程

NTT(株)・NTTドコモ(株)・大和証券SMBC(株)・三井物産(株)

受賞

なし

備考:

2005年1月1日~11月30日
専任講師 石榑崇明は,米国ニューヨーク市のコロンビア大学 電気工学科に客員研究員として在籍中.
超高速光インターコネクト,光パケットスイッチング,リアルタイムコミュニケーションの研究に従事している.


Dept. Applied Physics and Physico-Informatics