■構成

教授

畑山明聖(教授)

大学院

水野貴敏(D3)、高戸直之(D2)、星野一生(D2)
則竹政俊(M2)、花谷純次(M2)
江原毅(M1)、山口翔太(M2)

学部

稲森隼平、玉木寛治、松下大介、藤野郁朗

■研究概要

[ 磁場閉じ込め核融合プラズマに関する研究 ]

A.ダイバータ及びSOL(Scrape-off Layer)プラズマに関する研究

磁場閉じ込め核融合において、ダイバータは壁で発生する不純物の制御という重要な役割を担う。炉心プラズマ周辺を囲む低温ダイバータ-SOLプラズマの特性が、高温の炉心プラズマ性能に大きな影響を及ぼす。また、工学的にもダイバータ板に集中する熱・粒子負荷の低減なしには、将来の核融合炉はあり得ない。

 A.1 非接触(Detachment)プラズマのモデリング

ダイバータ板への熱負荷軽減法として、非接触(Detachment)プラズマ概念が提案されている。プラズマと中性粒子間の相互作用を利用し、直接プラズマがダイバータ板に到達するのを妨げる。現在、コアプラズマからの熱パルス(ELM)が非接触プラズマに与える影響のモデリングを進めている。ELMの際には、熱平衡からのずれが大きく、粒子(PIC)モデルなどを用いた運動論的な扱いを必要とする。 昨年度までの磁力線方向1次元PICコードによるモデリングを継続するとともに、今年度、ELMによって吐き出された高速電子と中性粒子との相互作用について、断面積データの収集と初期解析を開始した[稲森卒論]。また、非接触プラズマの形成に重要となる体積再結合過程に対するプラズマ流速、プラズマ温度の影響をレート方程式を用いて評価した。プラズマ流速が早い場合、電子温度が十分低下しても、再結合過程が支配的にはならないことを示した[論文(2)(5)]。

 A.2 不純物発生・輸送のモデリング

従来、ダイバータ材料として、炉心プラズマでの不純物放射低減の観点からカーボン材など低Z材料が多く用いられてきた。非接触ダイバータプラズマでは、プラズマの温度低下が期待できるため、熱伝導性に優れた高Z材料が適用できる可能性がでてきた。高Z材料のプラズマ中での輸送過程のモデリングは、ラーマー半径が大きいこと、多数の電離状態を扱わなければならないことなどから、現状ほとんど行われていない。そこで、陰解的モンテカルロ法を用い、且つ、旋回中心近似を用いない新しい多次元不純物輸送コードの開発を継続してきた。従来、スラブ形状を対象としてきた。今年度は、実験との定量的な比較の準備として、トカマク実幾何形状を解析できるように改良し、また、不純物発生のモデルを詳細化した[国際会議(2)(4)、学会発表(2)(3)]。

 A.3 JT-60Uダイバータ実験の解析

A.1, A.2の基礎研究とともに、日本原子力研究開発機構の大型トカマク核融合実験装置JT-60Uダイバータ実験の解析も進めている。日本原子力研究開発機構、マックスプランクプラズマ物理学研究所との共同研究により、”B2.5-Eirene” コードによる実験解析を進めた。今年度とくに、非接触プラズマ中で発生する高速プラズマ流れに対するドリフトの効果を検討した。[論文(4), 国際会議(1)、学会発表(1)]。また、ドリフトが不純物輸送に与える影響についても解析した[玉木卒論]。

B. ディスラプション時のプラズマ電流減衰時間評価モデルの検討

ディスラプション時に炉構造機器に発生する電磁力評価にとって、プラズマ電流減衰時間の正確な評価が求められる。ディスラプション時の電子に対するパワーパワーバランスの式とトカマク回路方程式を連立して解くことにより、プラズマ電流減衰時間の評価モデルの開発を今年度も継続し、とくに電子-中性粒子弾性衝突の部分のモデルを詳細化した。その結果、電子-中性粒子衝突のプラズマ電気抵抗への影響は小さく、したがって電流減衰時間にもほとんど影響がないことを明らかにした。 [学会発表(4)]。

[ 負イオン源プラズマに関する研究 ]

A. 負イオン源プラズマに対するプラズマ粒子(PIC)シミュレーション

負イオン源プラズマに対するPICシミュレーションモデルの開発を行っている。負イオン源プラズマ中の粒子(正イオン、電子、負イオン)の運動と、粒子運動に起因する負イオン源中の電場とを自己矛盾無く解く。PICシミュレーションにより、表面生成負イオンの引き出しについて検討した。磁場が無い場合には、主として質量が軽い電子が大量に引き出され、表面生成負イオンの引き出しはほとんど行われないという結果になった。今後、磁場がある場合の解析を行っていく必要がある。 [花谷修士論文、学会発表(7)]
また、負イオン密度測定に用いられるレーザー光脱離計測の基礎的過程の理解を目指し、PICシミュレーションを開始した。これにより、レーザー入射によって負イオンから脱離した電子の振る舞いを、背景プラズマの挙動と矛盾なく解くことが可能となった。今後、モデルの空間2次元化、レーザー光脱離計測による負イオン温度測定精度の検討、磁場中におけるレーザー光脱離測定精度の検討などを開発したPICモデルを用いて進めた。その結果、負イオン密度が正イオン密度の10%以上になると、レーザー光脱離計測による負イオン温度測定に最大50%程度の誤差を含む可能性を指摘した[論文(1)、学会発表(5)]。

B. 負イオン生成分布に関するモンテカルロシミュレーション

負イオン源プラズマの理解及びそれに基づく負イオン源設計の最適化にとって、負イオン生成点の空間分布の情報はきわめて重要である。負イオン源幾何形状の複雑さ、生成反応過程の複雑さ、等から、空間分布を解析するためのツールの開発は、現状、ほとんど行われていない。そこで、我々は、中性分子及び原子の輸送及び反応過程を、空間3次元で解析可能となるようなシミュレーションコードを開発してきた。
このモデルに基づき、日本原子力研究開発機構10A負イオン源で観測されたCs添加時の負イオン引き出し電流の非一様性の原因にいて検討を進めた。負イオン源中に電子温度の非一様性が生じると、電子温度の高い領域で水素分子の解離が進み水素原子密度の空間的非一様性が生じる。このため引き出し電極表面への中性原子束に非一様性が生じ、その結果、負イオン表面生成分布に非一様性が生じうることを指摘した。今年度は、さらに高速電子成分が分子の解離に与える影響を調べた[国際会議発表(3)(4)]。その結果、高速電子は解離を促進するため、非一様性がさらに顕著となることを明らかにした。実験で観測される負イオン引き出し電流の非一様性を説明する物理機構の一つと考えられる。

C. 負イオン輸送現象のモンテカルロシミュレーション

負イオン源の性能向上にとって、生成された負イオンの引き出し確率向上が望まれる。そこで、負イオンの種々の衝突・消滅過程を考慮した上で、軌道追跡を行う3Dモンテカルロシミュレーションコードを開発してきた。特に今年度は、上で述べたCs添加時の負イオン引き出し確率に対する、ⅰ)水素負イオンと中性粒子との弾性衝突、ⅱ)フィルター磁場の二つの効果を調べた。低ガス圧下では、フィルター磁場による負イオンラーマー旋回が、一方、5mTorr以上ガス圧えは、中性粒子との弾性衝突が支配的な引き出し機構になることを示した[花谷修士論文、松下卒業論文、学会発表(7)]。しかしながら、引き出し確率の絶対値は実験から推定される引き出し確率よりは小さくなる傾向にある。今後、上記Aのテーマとの関連して、引き出し孔近傍の電場が引き出し確率に与える影響についてさらに詳しく調べる必要がある。

D.負イオン源中の電子軌道解析

アーク放電型体積生成負イオン源において観測された負イオン引き出し電流の非一様性は、イオン源内の電子温度(エネルギー)分布の空間分布と強い相関を持つことが実験的に指摘されてきた。そこで、電子温度分布の非一様性の原因を明らかにするため、フィラメントで生成され加速された1次電子のイオン源内における軌道解析を行ってきた。今年度は、電子に対する非弾性衝突、弾性衝突を考慮し、電子のエネルギー緩和過程のモデリングを進め、イオン源内の電子速度分布関数を求めることが可能となった。得られた電子エネルギー分布関数は、低温エネルギー成分、高エネルギー成分の二つの成分からなり、10Aイオン源における実験結果と定性的に良く合う(藤野卒論)。今後、閉じ込め磁場、シース電場などの効果を考慮して、実験結果との定量的な比較を目指す。

[飛行時間型質量分析器におけるイオン軌道解析]

今年度よりあらたに、生体高分子の質量分析などに使われる飛行時間型質量分析器(TOF-MS)におけるイオン軌道の解析を研究テーマの一つとして取り上げた。今年度は、とくに質量分析器内、イオン押し出し電極の電極構造及び電極構造がイオン軌道及び質量分解能に与える影響を調べた。

■発表論文・学会発表など

論文

(1) T.MiZUNO, A.HATAYAMA and M.BACAL, “One-dimensional analysis of the effect of the ambipolar potential on the H ion density recovery after a laser photodetachment in the high density regime”, J. Phys. D 40 (2007) 168-175

(2) K. MIYAMOTO, A. HATAYAMA and K. FURUYA , “Effect of Fast Plasma Flows on Volume Recombination including MAR in Detached Divertor Plasma”, J. Phys. Soc. Jpn 76 (2007) 034501-034513.

(3) A. FUKANO, A. HATAYAMA and M.OGASAWARA, “Estimation of Width of Electron Energy Loss Region in Cusp Magnetic Field in Negative Ion Sources”, Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007) 1668 ? 1673.

(4) K. HOSHINO, A. HATAYAMA, H. KAWASHIMA, N. ASAKURA, R. SCHNEIDER,
D. COSTER, “Effect of Drifts on the Plasma Flow in the Detachment”, Contrib. Plasma Phys. 46 (2006) 591-596.

(5) K. MIYAMOTO, A. FUKANO, and A. HATAYAMA, “The Effect of Plasma Temperature on MAR in Detached Divertor Plasma”, Contrib. Plasma Phys. 46 (2006) 643-548.

(6) M. HANADA, T. SEKI, N. TAKADO, T. INOUE, A. HATAYAMA, M. KASHIWAGI,
K. SAKAMOTO, M. TANIGUCHI and K. WATANABE, “The origin of beam
non-uniformity in a large Cs-seeded negative ion source”, Nucl. Fusion 46(2006) S318-S323.

国際会議

(1) K. HOSHINO, A. HATAYAMA, H. KAWASHIMA, N. ASAKURA, R. SCHNEIDER and D. COSTER, “Numerical analysis of the SOL/divertor plasma flow with the effect of drifts”, 17th International Conference on Plasma Surface Interactions in Controlled Fusion Devices, Hefei Anhui, China, May 2006

(2) A.FUKANO, M.NORITAKE, K.HOSHINO, R.YAMAZAKI and A.HATAYAMA,
” Modeling of multi-deimensional impurity transport in a realistic tokamak geometry”,
17th International Conference on Plasma Surface Interactions in Controlled
Fusion Devices, Hefei Anhui, China, May 2006

(3) N. TAKADO, J. HANATANI, T. MIZUNO, A. HATAYAMA H. TOBARI, M. HANADA,
T. INOUE, M. TANIGUCHI, M. DAIRAKU, M. KASHIWAGI, K. WATANABE,
and K. SAKAMOTO, “Numerical analysis of the hydrogen atom density in a negative ion source”, in the 11th Int. Symposium on the Production and Neutralization of Negative Ions and Beams, Santa-Fe, USA, September 2006.

(4) N. TAKADO, J. HANATANI, T. MIZUNO, A. HATAYAMA H. TOBARI, M. HANADA,
T. INOUE, M. TANIGUCHI, M. DAIRAKU, M. KASHIWAGI, K. WATANABE,
” Numerical analysis of the production profile for hydrogen atoms and negative ions in a negative ion source”, in Combined ITER NBI R&D Reviw and JA-EU Workshop (Super Coordinating Committee)”, Naka, Japan, December 2006.

国内学会

(1) 星野一生、畑山明聖、朝倉伸幸、川島寿人、R.Schneider、D.Coster、X.Bonnin, “非接触プラズマにおける不純物輸送に対するドリフトの影響”、 プラズマ核融合学会 第23回年会、筑波、2006年11月.

(2) 山崎龍、則竹政俊、星野一生、深野あづさ、稲森準平、玉木寛二、畑山明聖、”トカマク実配位を考慮した3次元不純物輸送モデリング(2)”、 プラズマ核融合学会 第23回年会、筑波、2006年11月.

(3) 則竹政俊、山崎龍、星野一生、深野あづさ、稲森準平、玉木寛二、畑山明聖、 “トカマク実配位を考慮した3次元不純物輸送モデリング(3)”、 プラズマ核融合学会 第23回年会、筑波、 2006年11月.

(4) 山口彰太、畑山明聖、杉原正芳、“中性粒子との衝突断面積を考慮したディスラプション時の電流減衰モデルの改良”、 プラズマ核融合学会 第23回年会、筑波、2006年11月.

(5) 水野貴敏、畑山明聖、M.Bacal、 “レーザーフォトデタッチメント測定における負イオンプラズマ輸送のPICシミュレーション“、プラズマ核融合学会 第23回年会、筑波、2006年11月.

(6) 高戸直之、花谷純次、加藤恭平、水野貴敏、畑山明聖、戸張博之、花田磨砂也、井上多加志、 谷口正樹、柏木美恵子、梅田尚孝、渡辺和弘、坂本慶司、 “セシウム添加型大面積負イオン源における原子及び負イオン生成分布の数値解析”、 プラズマ・核融合学会第23回年会、 2006年11月.

(7) 花谷純次、水野貴敏、 畑山明聖、“水素負イオン源における表面生成負イオン引き出し過程のモデリング”、プラズマ核融合学会 第23回年会、筑波、2006年11月.
*以上の研究成果の一部は、下記の研究機関との共同研究による。
論文(1) 国内学会(5):エコール・ポリテクニーク(仏)
論文(4)(6) 国際会議(1)(3)(4) 国内学会(1)(4)(6):日本原子力研究開発機構
論文(4) 国際会議(1) 国内学会(1):マックスプランクプラズマ物理学研究所(独)
論文(3) 東京都立高専

■ 学位論文

修士論文

則竹政俊 トカマク実配位を考慮した高Z不純物輸送のモデリング
花谷純次 水素負イオン源における表面生成負イオン引き出し機構の解析

卒業論文

稲森隼平 ELMバーストにおける高エネルギー電子と中性粒子との相互作用のモデリング
玉木寛治 トカマクプラズマ中での不純物輸送に対するドリフトの影響
藤野郁朗 Analysis of Electron Energy Distribution in H- ion Sources
松下大介 水素負イオン源における負イオン輸送過程の解析

■進路

大学院

NTTファシリティーズ、富士ゼロックス

学部

株式会社東芝、慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程 進学

■ その他

  • 研究室夏合宿(2006年8月、河口湖)。