2006年度 佐藤研究室

■構成

教授

佐藤徹哉

助手

牧英之

大学院

小松克伊(D3)、藏浩彰(D3)、大場洋次郎(D1)、大野暁 (M2)、関健太(M2)、竹内洋司(M2)、伊達智洋(M2)、田中洋範(M2)、水谷友(M2)、乾智絵(M1)、浦山太一(M1)、岡本啓明(M1)、庭山潤(M1)、水野智行(M1)

学部

樫原周一郎(B4)、井口亮(B4)、伊藤大輝(B4)、尾崎晋佑(B4)、坂本泰浩(B4)、西澤真吾(B4)、日比野訓士(B4)、平岡徳将(B4)

■ 研究成果

(1) スピングラス磁性に関する研究

スピングラスではエイジング現象や若返り・メモリー効果など非常に興味深い現象が報告されている。このような現象のメカニズムはまだ未解明な部分が多く、そのメカニズムを解明するために様々な実験的アプローチを行っている。

  1. 細加工技術によりスピングラスの微粒子を作製し、エイジングに関係するスピンの相関長に関する情報を系のサイズを制限することで得ることを試みた。現在サイズの異なる系を作製することに成功し、サイズの減少に伴い零磁場冷却後の磁化の温度依存性のピークの温度が減少することが確かめられ、相関長との関連が示唆される結果が得られた。また、異常ホール効果測定により微小領域のスピン相関の情報を得る試みも行っている。
  2. スピングラス磁性半導体に光照射を行い、温度ではなく相互作用に摂動を与えたときのダイナミクスを調べた。温度および相互作用の摂動下でのダイナミクスの研究は若返り・メモリー効果のメカニズムを解明するために重要である。温度の摂動を与える実験は多く報告されているが、相互作用に摂動を与える例はなく、非常にユニークな研究であると言える。
  3. スピングラスを電極に用いたトンネル素子を作製し、トンネル磁気抵抗を測定した。その結果、スピングラス転移温度付近でトンネル磁気抵抗に異常が現れることが観測され、スピングラス状態を観測する新たな手法となる可能性があることが分かった。
  4. ハイゼンベルグスピングラスではスピン配置の幾何的なカイラリティが秩序の起源となっているということが近年示唆されている。カイラリティは異常ホール効果により観測できることが示唆されているが異常ホール効果は小さく、詳細な議論はできていない。そこで大きな異常ホール効果を得るためにスピングラスの薄膜をイオンビームスパッタ法により作製し、精密な測定を行うことを目指している。

(2) 光と磁性の相互作用に関する研究

光と磁性には密接な関係があり、相互に影響を及ぼすことが知られている。ファラデー効果や光誘起磁化がその代表例であり、盛んに研究が行われている。本研究班では、ナノ粒子を用いた新規磁気光学材料の開発(1~3)、大きな磁気光学効果を示す材料・構造の設計(4)、そして光誘起による強磁性の発現(5)を目指して研究を行っている。具体的な内容を以下に示す。

  1. 大きな磁気光学効果を示す規則相FePtナノ粒子ガラスに分散させ、磁気特性を測定することにより、磁気光学材料としての有用性を評価した。
  2. 光の吸収損失の点で優れた希薄磁性半導体であるCd1-xMnxTe, Zn1-xCrxTeナノ粒子を作製した。またZnTeを用いてナノ粒子をポリマー中に一様に分散できる可能性を示唆した。
  3. マトリックス中に磁性ナノ粒子が分散した系の磁気光学特性を評価するために、強磁性Coナノ粒子分散系を用いて系全体の有効な誘電率を計算し、実験結果と比較した。
  4. 磁性フォトニック結晶は、設計波長で大きなファラデー効果を示す。ゾルゲル法を用いて作製した磁性フォトニック結晶において、単層とは異なる磁気特性と光学特性が発現した。
  5. Azoの光異性化によって、化学的に作製したPdナノ粒子の表面状態を変化させ、Pdの磁性を制御できる可能性が示唆された。

(3)金属ナノ粒子表面の磁性に関する研究

Pdは元来常磁性金属であるが、強磁性体に近い電子状態を持ち、“強磁性寸前の金属”と言われている。そのため、Pdは、低次元化や外部入力により電 子状態を変調することで容易に強磁性を発現し得る物質であり、この常磁性→強磁性スイッチングを利用することで、従来には無い新たな原理に基づく磁気デ バイスを開発できると期待される。これまで、Pdナノ粒子において強磁性の発現を確認し、その起源の解明と磁気デバイス化を目指した研究を推進してきた。
昨年度は、X線回折実験により、ナノ粒子内部のひずみが強磁性に寄与する可能性が示唆された。また、ESR実験を行い、ナノ粒子内部に常磁性と強磁性 の領域が共存することを示す結果を得た。新たな磁気測定手法として、X線磁気円二色性実験を行い、磁気モーメントの発現を確認した。デバイス化に有利な 形状であるナノワイヤーの磁性制御を目的として、化学的手法によってカーボンナノチューブ(CNT)中空にPdを注入し、ナノワイヤーの作製を試みた。 磁気測定の結果、強磁性的な振る舞いが観測されたが、副生成物の磁性の寄与を排除できていないため、今後の検討が必要である。これらの系における電子状 態と磁性を理解するため、擬ポテンシャル法により、PdナノワイヤーとCNTに内包されたPdナノワイヤーの電子状態と磁性を検討した。その結果、原子 間距離の増大に伴って強磁性秩序が現れることや、CNTの直径の減少に伴ってPdの磁気モーメントが減少することなどの知見を得た。

(4)微細加工技術を用いた新規デバイス開発に関する研究

半導体や金属の低次元物質は、低次元化による量子効果・表面効果・サイズ効果等により、バルク材料では現れない特異な物性発現や高機能化が可能であり、デバイス化により新たな機能デバイスの開発や物性観測・制御が期待される。我々は、カーボンナノチューブ(CNT)・金属微粒子・薄膜などの低次元物質の創製やそれらを用いた機能デバイス開発に関する研究を進めた。CNTに関する研究では、CNT電界効果トランジスタにおけるキャリア制御法の構築・CNTトランジスタにおける局所ゲート電極形成・歪印加によるCNTの連続バンドギャップ制御・電子正孔注入による発光素子開発に関する研究を進めた。また、低次元化により磁性発現が期待されるPd薄膜において、電界による新たな磁性制御法の構築を試みた。さらに、応用化学科今井研究室と共同で液相成長法による多面体Pd微粒子の合成や酸化亜鉛ナノロッドへの電極形成によるデバイス作製を試みた。

(5)ナノスケール磁性体の力学的性質に関する研究

磁性薄膜、磁性ナノ粒子の研究の中で、その力学的な性質を利用するという立場の研究はこれまでほとんど行われていない。しかし、磁性形状記憶合金を薄膜化、ナノ粒子化により微細化を行うことが出来れば、将来のナノアクチュエータへの道が開ける可能性がある。通常の形状記憶合金が温度変化で形状変化するため応答時間を消費するのに比べて、磁性形状記憶合金では、磁場で形状変化が起こせるために応答の時間短縮が可能となる。この強磁性形状記憶合金をナノスケールで応用することを目指して、FePdの薄膜およびナノ粒子に注目し、磁性形状記憶合金薄膜の基礎的な性質である磁気、電気特性を調べた。具体的な内容は以下の通りである。

  1. 様々な粒径を持つFePd試料の転移温度を調べ、粒径の減少に伴う転移温度の低下を見出した。これは、粒径が減少すると変態モードがマルチバリアントからシングルバリアントに変化し、転移の際に発生するひずみエネルギーが大きく増大することから解釈される。
  2. 基板上に成膜された薄膜と剥離された薄膜のマルテンサイト転移を調べた。その結果、基板上に成膜された薄膜においては、内部応力によりマルテンサイト相がより安定化させられることが分かった。単位応力あたりの転移温度の変化は1.8K/MPaと見積られた。

進路

トヨタ自動車 1名
ソニー 1名
いおん特許事務所 1名
ローム 1名
アクセンチュア 1名
日本航空 1名
慶応義塾大学大学院総合デザイン工学専攻修士課程 7名

■発表論文・学会発表・特許申請など

著書

  • 21世紀COEプログラム慶應義塾大学ライフコンジュゲートケミストリーPJ編:ライフコンジュゲートケミストリー 暮らしと未来を支える化学 (三共出版、2006)

論文

  • Yojiro Oba, Tetsuya Sato and Takenao Shinohara, “Gas adsorption on the surface of ferromagnetic Pd nanoparticles”, e-Jurnal of Surface Science and Nanotechinology 4, 439-442(2006).
  • H. Maki, T. Sato and K. Ishibashi, “Transport characteristic control if field-effect transistors with single-walled carbon nanotube films using electrode metals with low and high work functions”, Japanese Journal of Applied Physics 45(9A), 7234-7236(2006).
  • R. Arai, K. Komatsu, T. Sato, “Aging under bond cycling of spin-glass semiconductor using photo illumination”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials 310(2),Part 2, e509-e511(2007).
  • K. Komatsu, H. Maki, T. Taniyama, T. Sato, “Size and field effect of mesoscopic spin glass”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials 310(2),Part 2,1500-1502(2007).
  • T. Takeuchi, K. Komatsu, H. Maki, T. Taniyama, T. Sato, “Observation of spin glass behavior in zero magnetic field using tunnel resistance”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials 310(2),Part 2, 1503-1504(2007).
  • H. Maki, S. Suzuki, T. Sato and K. Ishibashi, “Band gap narrowing and electron doping by potassium encapsulation into single-walled carbon nanotubes”, Japanese Journal of Applied Physics 46(4B), 2486-2489(2007).
  • R. Arai, K. Komatsu, T. Sato, “Aging behavior of spin glasses under bond and temperature perturbation using photo illumination”, Physical Review B 75(14), 144424 1-8(2007).
  • H. Maki, T. Sato and K. Ishibashi, “Direct observation of the deformation and the band gap change from an individual single-walled carbon nanotube under uniaxial strain”, Nano Letters 7(4), 890-895(2007).
  • A. Harada, T. Taniyama, Y. Takeuchi, T. Sato, T. Kyomen, and M Itoh, “Ferromagnetism at the surface of a LaCoO3 single crystal observed using scanning SQUID microscopy”, Physical Review B 75(18), 184426 1-5(2007).
  • C. Inui, Y. Tsuga, H. Kura, S. Fujihara, S. Shiratori, T. Sato, “Preparation of one-dimensional photonic crystals by sol-gel process for magneto optical materials”, Thin Solid Films (Accepted for publication).
  • Chie inui, Hiroaki Kura, Tetsuya Sato, Yosuke Tsuge, Seimei Shiratori, Hisanori Okita, Akihiro Tagaya and Yasuhiro Koike, “Preparation of nanocomposite for optical application using surface modified ZnTe nanoparticles and zero-birefringence polymer”, Journal of Materials Science (Accepted for publication).

解説論文

  • 佐藤徹哉、大場洋次郎、篠原武尚、「フリースタンディングなPdナノ粒子の発現する強磁性」、まぐね 1(12)(2006)601-608.

国内学会発表

  • 平成18年5月 乾智絵、 藏裕彰、 佐藤徹哉、 大喜田尚紀、 多加谷明広、 小池康博、柘植洋祐、白鳥世明
    「表面修飾ZnTeナノ粒子を用いたポリマー系ナノコンポジットの作製」
    日本材料科学会講演大会、東京工業大学
  • 平成18年9月 竹内洋司、小松克伊、牧英之、谷山智康、佐藤徹哉
    「トンネル抵抗を用いた零磁場におけるスピングラスの挙動II」
    日本物理学会2006年秋季大会、千葉大学西千葉キャンパス
  • 平成18年9月 庭山潤、蔵裕彰、佐藤徹哉
    「強磁性を示す希薄磁性半導体Zn1-xCrxTeナノ粒子の化学的手法による作製」
    日本物理学会2006年秋季大会、千葉大学西千葉キャンパス
  • 平成18年9月 原田明洋、谷山智康、竹内洋司、佐藤徹哉、伊藤満
    「LaCoO3表面の強磁性相転移」
    日本物理学会2006年秋季大会、千葉大学西千葉キャンパス
  •  平成18年9月 大場洋次郎、佐藤徹哉、篠原武尚
    「Pdナノ粒子の強磁性発現に寄与する結晶欠陥の効果」
    日本物理学会2006年秋季大会、千葉大学西千葉キャンパス
  • 平成18年9月 牧英之、鈴木哲、佐藤徹哉、石橋幸治
    「低・高仕事関数金属電極による単層カーボンナノチューブのキャリア制御」
    2006年秋季 第67回応用物理学会学術講演会、立命館大学
  • 平成18年11月 岡本啓明
    「ESRによるODナノ粒子のg因子の評価」
    第26回表面科学講演大会、大阪大学コンベンションセンター
  • 平成19年1月 牧英之
    「カーボンナノチューブトランジスタの電極仕事関数選択・K内包によるキャリア制御」
    高分子学会 高分子エレクトロニクス研究会、上智大学
  • 平成19年3月 小松克伊、牧英之、佐藤徹哉
    「サイズ分布のないスピングラス微粒子の磁気的振舞」
    日本物理学会200年春季大会、鹿児島大学郡元キャンパス
  • 平成19年3月 水谷友、関健太、佐藤徹哉
    「Fe-Pd強磁性形状記憶合金薄膜の基板による応力の影響」
    日本物理学会200年春季大会、鹿児島大学郡元キャンパス
  • 平成19年3月 乾智絵、柘植洋祐、藤原忍、藏 裕彰、白鳥世明、佐藤徹哉
    「ゾルゲル法による磁性フォトニック結晶の作製と評価」
    第54回応用物理学関係連合講演会、青山学院大学相模原キャンパス
  • 平成19年3月 牧英之、佐藤徹哉、石橋幸治
    「孤立カーボンナノチューブの引っ張り印加素子の開発および発光・形態の直接観察」
    第54回応用物理学関係連合講演会、青山学院大学相模原キャンパス

国際会議発表

  • 2006年8月H. Maki, T. Sato, K. Ishibashi
    “Electron and hole injection into single-walled carbon nanotubes using electrode metals with small and large work function”
    7th International Conference on the Science and Application of Nanotubes (Nanotube 2006), Nagano (Japan)
  • 2006年8月R. Arai, K. Komatsu, T. Sato
    “Aging under bond cycling of spin-glass semiconductor using photo illumination”
    International Conference on Magnetism 2006, Kyoto (Japan)
  • 2006年8月K. Komatsu, H. Maki, T. Taniyama, T. Sato
    “Size and field effect of mesoscopic spin glass”
    International Conference on Magnetism 2006, Kyoto (Japan)
  • 2006年8月T. Takeuchi, K. Komatsu, H. Maki, T. Taniyama, T. Sato
    “Observation of spin glass behavior in zero magnetic field using tunnel resistance”
    International Conference on Magnetism 2006, Kyoto (Japan)
  • 2006年8月Y. Mizuno, T. Urayama, K. Komatsu, H. Maki, T. Sat
    “Measurement of anomalous Hall effect in reentrant spin glass Ni(Pt)Mn thin films”
    International Conference on Magnetism 2006, Kyoto (Japan)
  • 2006年8月Y. Oba, T. Sato, T. Shinohara
    “Specification of ferromagnetic region in Pd nanoparticles by structure analysis”
    International Conference on Magnetism 2006, Kyoto (Japan)
  • 2006年9月H. Maki, S. Suzuki, T. Sato, K. Ishibashi
    “Electric properties of single-walled carbon nanotube film field effect transistors with various work function electrodes: a comparison between pristine and potassium-encapsulated nanotubes”
    The 2006 International Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM 2006), Yokohama (Japan)
  • 2006年12月Chie Inui, Yosuke Tsuge, Seimei Shiratori, Shinobu Fujihara, Tetsuya Sato
    “Preparation of one-dimensional photonic crystals by sol-gel process for magneto optical materials”
    The 7th International Conference on Nano-Molecular Electronics, Kobe (Japan)

特許

  • 牧英之、佐藤徹哉、石橋幸治、波長可変カーボンナノチューブ素子、特願2006-325421

受賞

  • Outstanding poster presentation award
    Chie Inui, Yosuke Tsuge, Seimei Shiratori, Shinobu Fujihara, Tetsuya Sato, “Preparation of one-dimensional photonic crystals by sol-gel process for magneto optical materials”, The 7th International Conference on Nano-Molecular Electronics, Kobe (Japan) 2006年12月
  • 第22回(2007年春季)応用物理学会 講演奨励賞
    牧英之、佐藤徹哉、石橋幸治、孤立カーボンナノチューブ引っ張り印加素子の開発および発光・形態の直接観察、2007年3月

■学位論文

修士論文

大野暁:第一原理計算によるPdナノワイヤーの電子状態と磁性に関する研究
関健太:強磁性Fe-Pd合金におけるマルテンサイト変態温度に及ぼすサイズの影響
竹内洋司:トンネル磁気抵抗効果を用いた零磁場におけるスピングラスの挙動
伊達智洋:電界印加によるPd薄膜の磁性変化の研究
田中洋範:磁気光学素子へ向けたCd1-xMnxTeナノ粒子分散系の作成
水谷友:Fe-Pd強磁性形状記憶合金薄膜のマルテンサイト変態における残留応力の影響

学士論文

樫原周一郎:Co-PMMAグラニュラー系における磁気光学効果のシミュレーション
井口 亮:スピングラスの微小領域における異常ホール効果測定
尾崎晋佑:Coナノ粒子分散系の磁気光学効果測定
坂本泰浩:光照射による表面修飾されたPdナノ粒子の磁性制御
西澤真吾:溶液法を用いたPd多面体粒子の作製と形態制御
日比野訓士:高効率・短波長単層カーボンナノチューブ発光素子の開発
平岡徳将:カーボンナノチューブに内包したPdナノワイヤーの作製
伊藤大輝:エピタキシャル(100)Pd薄膜の作製とその磁気測定


Dept. Applied Physics and Physico-Informatics